三神の行方
「へカーテが討ち死にをしたそうで……」
「なぁに、奴程のゴミクズなら掃いて捨てるほど居る」
「しかし、未だサタン様は目覚める気配も無く……」
「……なんて事は無い。我々は行く末を見守るだけだ」
「それと、先の大戦以降、行方を眩ませていたバアルの所在が掴めました」
「彼奴め、人間になんぞ加担しよって…………」
不気味に光る髑髏は、若い男と老人を照らし、二人は祭壇に祀られた魔界の王に向かって深々と一礼をした──
一方、ガブリエルの離反により一時退却をしたミカエルは、天界に戻り英気を養っていたが、ガブリエルを慕う天使が次々と天界を離れ、ミカエルを支持する者が減り、信仰エネルギーの二割程を失っていた。
「……このままでは計画に差し支える」
「教えに背いた貴殿が悪かろう」
「…………そうだなメタトロン。それでお前はどちらに付くのだ?」
「決まっておる。私は私の道を行くだけだ。それが主の導きなのだ」
「……そうか。ならばいずれは何処かで交わることもあるだろう」
ミカエルは、そう遠くない未来に向けて、次なる一手を考えることにした。
高天原下層。天界と名が変わった今ですら誰も近寄らぬ信仰エネルギーの希薄な地域は人気を避けるには持って来いの場所であった。
「…………伊邪那美命様の御魂は、今でも黄泉の国に囚われている。伊邪那美命様を始めとし、神世七代の復活から、新たなる天地開闢を我等の手で……!!」
天照大神は天岩戸内部に作られた祭壇に手を合わせる。祭壇には天叢雲剣と割れた八咫鏡が捧げられ、怪しい香が焚かれていた。
「幸いにも器に適した人間がいる。事は早ければ早いほど良い…………」
天照大神は岩戸を閉め、何処かへと消えた──
「旦那さまー! 休憩にしましょう~!」
「おー」
焼け落ちた屋敷は周辺住民の協力ですぐに建て直す事が出来た。まあ、おかけで書類の山に判を捺す仕事が帰ってきたのは悩ましいが……。
「コーヒーになります」
「コーヒーが出来ました」
「コーヒーとやらです」
「コーヒーをいれたのじゃ!」
ドドドドンと差し出された四つのコーヒーカップ。
アサヒーナ、サンシャちゃん、ガブリエル、ひめたんの四人が言葉欲しそうに一列に並んでいる。
(……何故論外が二つもあるんだ!?)
サンシャちゃんが煎れたと思われる七色のコーヒー?の他に、ブロッコリーがささったコーヒーの犯人が気になって仕方ない。
「と、とりあえず……頂きます」
アサヒーナのは最後に飲もう。じゃないと死ねる。
先ずは普通そうなコーヒーに口をつける。
「あ、普通に美味しいぞ」
「あ、それ私です」
「──ブーッ!!」
「のわぁ! こっちに向かって吐くでない!!」
コーヒーで虹が出来るほどに綺麗に吹けたぞ!?
「──ゲホッ! ゲホッ……! いや、スマンスマン、普通に美味しかったのが不思議でさ……」
「!」
……と、なると…………
──チラッ
「?」
「旦那様に美味しいって言われた旦那様に美味しいって言われた旦那様に美味しいって言われた」
「……な、なんですか」
「次はどれにするのかぞい?」
普通のコーヒー、七色のコーヒー、ブロッコリー入りのコーヒー。地獄は先に済ませておくか…………
「…………あれ? 味がしないぞ?」
七色のコーヒーは無味無臭で水を飲むよりも軽く、まるで飲んでいないかのようだった。
「旦那さま、恐らくは一瞬で感覚器官を破壊されたかと……」
「──!?」
ブロッコリーを手に取り齧る。
「!? 味がしない!!」
アサヒーナの物と思われるコーヒーを飲むも、まるで味がしない。
「うぉぉぉぉ!? なななななんだぁ!?」
「すみません、それは私が……」
申し訳なさそうに手を上げるガブリエル。
「俺を殺す気かぁ!?」
「いえ、以前そちらのメイドの体を借りたとき、なにやら悪い物が染みついてしまったようでして……」
それで、サンシャちゃんのコーヒーがまともになったと言う訳か……。つくづく不憫な奴だ。
その後三日間は味も臭いも分からずにいたが、とりあえずは治った。
昼下がりの木陰で休むアサヒーナの隣、俺は睡魔に襲われてる。
「屋敷も賑やかになったな……」
「ひめちゃんも元気になって良かったですね」
「ああ……一時はどうなるかと思ったが」
「…………この後、私達はどうなるのでしょうか?」
「戦争は益々激化するだろう。奴等が再び俺の前に来る日も、そう遠くない筈だ」
「……絶対に無茶をしないで下さいね?」
「次は、次こそは……必ず守りきってみせる」
「ふふ、宜しくお願いしますね♪」
神よ──いや、神すらも敵なこの世界よ。
どうか、今だけはこの時間を許してくれないか…………?
安らげる、彼女の隣を──
御愛読頂きましてありがとうございました!!
色々と消化不良気味ですが許して…………
_(´ཀ`」 ∠)_




