熾天使
手をかざすだけで稲妻やら真空を引き起こすその様は、実に羨ましくも図々しい力であろう。
しかしこちらには熱と冷──いや、正確に言えば動と静の信仰エネルギーがある。
この世の物質を司る原子の熱量は、その原子が持つ運動エネルギーに比例する。逆に言えば絶対零度の状態ならば原子の自然運動は零に等しい。
ただ、それらを冷たいか熱いかと感じるのは、こちらの勝手であり、原子云々からしてみれば、大した違いは無い──
「どうした? 讃美歌を終えるにはまだ早過ぎるぞ……?」
右手をこちらに向けたまま、ミカエルがほくそ笑む。俺は奴の攻撃を躱すか去なすかで精一杯で攻撃に手が回らず、防戦一方。威勢だけでその実は何とも情けない。
四方八方から襲い掛かる羽と、氷の礫。奴の六枚の翼からまるでメタルカッターの如き切れ味を持つ羽が縦横無尽に飛び回り、そして俺の隙を突く氷の礫が確実に俺の行動を制限する。
「…………すまんアサヒーナ。とりあえず逃げてくれ……」
「だ、旦那さま……!!」
「嫌なら俺の部屋の掃除でもしててくれ……後で必ず行くから、な?」
「…………絶対、ですからね……!」
アサヒが涙ながらに屋敷へと退却する。それを背中で感じた俺は、己の周囲二メートル四方に絶対零度の結界を展開した。
「これで俺には触れられない……!!」
常に己の周囲から熱を奪い続けるのは尋常では無い程に力を消耗する。持続力こそ無いが、このまま死ぬよりはマシだろう。
「その様な虚勢がいつまで持つか……見せてみろ!!」
ミカエルの翼から先程よりも多くの羽が飛び出し、此方へと向かって突き進む。羽が結界に触れるとその熱が瞬時に奪われ、羽は動きがピタリと止まり次々と地面へと落ちた。
(ヤバいぞ……結界を維持するだけで精一杯で一歩も動けん……!!)
奴に向かって突き進みたいが、結界を解くわけにもいかず、次第に意識が弱り始めた…………。
「──グッ……!!」
そして感じる背中の激痛で再び意識が戻される。弱まった結界を突き抜けた羽が、俺の背中に深々と突き刺さったのだ。
「フン、所詮は人よ。情けない……」
踏ん張ろうにも既に限界が来ているらしく、膝は笑い、手は痺れている。感覚らしい感覚は既にもう無い。残された時間は後僅かだ。
「…………」
ふと、ミカエルの攻撃が止んだ。
既に限界を越えた俺は、その場に膝から崩れ落ち、そのまま意識を失った──
後二話です。
宜しくお願い致します。
(*´д`*)




