幼女の力添え
夢を見た。
暗い暗い暗黒の空間──腕を伸ばせばそのまま手が見えなくなるような深い黒の世界。
声だけが響き渡り俺に話し掛ける。
「旦那さま……」
漆黒の闇の中から、見覚えのある手が現れた。それは雷を模した深い紫色の剣を握り締めており、俺は不意を突かれ戸惑った。
「旦那さま……」
もう一つ見覚えのある手が現れた。その手は土に汚れた小さな斧を握り締めている。
「旦那さま……」
そしてもう一つの手が、白銀に輝く槍を握り締めている。
三つの右手が揃って俺に問い掛ける。
「どれも私の姿でございます。旦那さまはどの私をお選びに…………?」
聞き慣れた声が俺に問い掛ける。
俺はその問い掛けに答える間もなく、黒の世界は消え去った──
「何を呆けておるのじゃお主……」
「──!!」
気が付くと、俺はソファで項垂れていた。傍にはヒメたんが臭いコーヒーを啜りながら寛いでいる。
「……すまん。妙な夢を見た」
「いや、妾が勝手に寛いでいるだけじゃ。気にするでない」
重苦しい空気が部屋に流れる。明日、アサヒーナは帰ってくる。その時に、俺は答えを出さなくてはいけない。
「……どうするつもりじゃ? 上はお主の身柄を拘束する術を。下はお主の力を奪う術を持っておる。そして我々はどちらが勝とうが負けようが、滅び行く定めとなる」
「やる事は──やるべき事は決まってる。だからこそ……か」
「ならば妾が一押ししてやろう。どうせ消えるならば足掻いてみるのも悪くは無い」
「?」
ヒメたんの懐から、小さな桜の枝。それは握り締めると長く育ち、しなやかな動きで空を切る動きを見せた。
「天叢雲剣……」
「こ、これが……か?」
へし折って持ち帰ったかのような枝一つ。これが神器の一つ、天叢雲剣だと言われても、眉唾ものである。
「枝先から信仰エネルギーを発し、分子のブラウン運動を高めることで分子間の結合を断つ事が出来るぞい」
「?」
「アホ面をするでない。簡潔に言えば貴様の力を枝に集中させて、さらに地の神の信仰エネルギーを加えて攻撃する事が出来る優れ物じゃい」
「……タダで良いのか?」
「深夜の高天原通販で1980円だから気にするでない……コーヒーも沢山飲んだしのぅ」
「使ってみていいか?」
「構わぬ。好きにせい」
枝の根元を握る。
不思議な物で、枝を凍らせたり熱を持たせたりさせようと力を込めても、枝自体には何ら変化も無く、そのまま窓ガラスに近付けると、窓ガラスはまるで飴細工の膜が溶けるかのように、瞬時に熱を帯びて溶けてしまった。
「あ、やべっ──」
「言っておくが、最大限まで力を取り戻したら、枝が耐えられないから、使わない方がいいぞい。何せ1980円だからな」
「お、おう……」
枝を離すと掌サイズに縮まった。
それをポケットに入れると、ヒメたんは満足気に臭いコーヒーを飲み干した。




