襲来の天
もう少しでクライマックスなのじゃ!
やる事を終えたような面持ちで机を降りたひめたんは、滅多に使うことの無い埃を被った呼び鈴に手をかけた。このデスクに関してはアサヒーナも掃除しないので、俺が掃除しなければ汚いままだ。いや、掃除した試しが無いので一度も綺麗になったことは無い。
「お呼びでしょうか旦那様?」
サンシャちゃんの声が扉の向こうから聞こえた。
「コーヒーをくれぃ!」
ひめたんは我が物顔でコーヒーを注文し、ソファにふんぞり返った。
「地の神如きがコーヒーの味が分かるとでも……?」
「!?」
「!!」
部屋の隅から聞き慣れぬ声が聞こえ振り向くと、そこには白き羽を六枚携えた大柄な天使が腕を組み立っていた。
「熾天使──!!」
緊張感が一気に高まり、張り詰めた空気が場を満たした。何故急に熾天使が現れたのかは言うまでも無く、先ほどの覗き見の件だろう。
「我が名はミカエル……主に仕えし者だ」
「──!?」
時雨を再起不能にした人物、ミカエルと名乗る熾天使は路傍のゴミを見るかのような目付きで俺を見下した。まるで眼中に無いという感じだった。
「我が主が気に掛けるからどのような男かと思えば…………」
ミカエルの体から良からぬ波動を感じた。低級魔族なら触れただけで絶命してしまいそうな浄化の波動。神の不浄とやらを謳ってはいるが、なんて事は無い。魔族と逆の波動を放っているだけでやっていることは同じだ!!
「ほう、その主とやらの御心に反するような言い方だな?」
精一杯の強がりを放ってはみるが、実際今の俺では身動き1つする前に殺されるのが関の山だろう。せめて死ぬのは俺だけにしたい。
「……チ。主の手前殺さずにいるが、私はお前の存在自体を許してはいない。主の広いお心に感謝せよ」
やる気満々なオーラを隠しもせず、隙あらば殺す気でいるミカエル。
「それで? 要件はなんだ? わざわざ天界から降りてきたんだ。まさかコーヒーを飲みに来たわけではないだろな?」
「…………悪趣味な覗き見に気分を害された。地の神如きがしゃしゃり出るとは……」
チラリとひめたんを見ると、威風堂々とミカエルを睨みつけている。どうやらひめたんは完全に彼方サイドではないようだ。
「我々を追い出しておいて、いけしゃあしゃあと……だから嫌いなのじゃ」
ミカエルとひめたんの間に火花が散るのが見て取れた。しかしココで争うのは困る。もれなく屋敷が無くなるだろう。何より鏡による覗き見は当然の如くバレており、つまりコイツらはアサヒーナの事を隠すつもりはないらしい。こちらとしては好都合である。
「……三日後だ」
「どう言う事だ?」
「お前が探している女は三日後に戻る」
「アサヒーナは何処だ!! お前らの仕業なのか!?」
「何も知らぬ木偶人形めが! 大人しくその時を待っておれ!」
ミカエルの顔が強張り、俺は指一つ動かすことが出来なくなった。
「……がっ……ああ……」
「……貴様にはまだ役割が残っている。それまで死ぬことは許さぬ」
ミカエルの白い翼が羽ばたくと、一瞬の眩い光に包まれその姿が消えた。そして再び動くことが出来るようになると、俺は机を思い切り叩いた。
「──チクショウ!!」
「仕方あるまいに……奴と争っても無様に死ぬだけじゃ」




