朝食ラプソディ
屋敷は嫌に静まり返っており、まるで家人が誰も居ないようなもぬけの殻であるかのように人の気配が感じられなかった。
「時雨、居るか?」
「おりませぬ」
「……居るじゃないか」
人の気配をさせずに後ろから、右手にトイレのスッポンを装着した時雨が姿を現した。トイレ掃除でもしてたのか?
「サンシャちゃんはどうした?」
「…………」
珍しく時雨が口篭もらせている。もしかして何やら尋常ではない事が起きているのか? だとしたら一大事である。屋敷を留守にした俺の罪は大きい。
「な、何があった!?」
──ガターン!
「なんだ!?」
「…………」
食堂から何かが倒れる音が鳴り響き、慌てて駆け付けると、そこにはうつ伏せに倒れたサンシャちゃんが!
「大丈夫かサンシャちゃん!!」
サンシャちゃんを仰向けにすると、顔は酷く赤くなっており、ヒックヒックとしゃっくりの様な痙攣を起こししていた。
「だ、だんんんな様ぁぁ?」
立ち上がったサンシャちゃんは酷くフラついており、捕まろうと虚空に手を伸ばし、そのまま直ぐにまた倒れてしまった。そして酒臭い。
「……サンシャ殿は酔っ払ってしまったであります……」
「…………そのようだな」
サンシャちゃんの顔をペチペチと叩くが眼は虚ろで唯ならぬ嫌らしさを放っている。正直言って乱れたメイド服が途轍もない艶めかしさを端っていて、いとエロス。
「なりませぬ」
背中にスッポンを押し付けられ、サンシャちゃんから引き離される。汚いから止めてくれ。
「スケベ心を認識しました」
「高性能すぎるのも問題だな……」
「旦那様のばかぁ…………」
「!?」
見覚えも聞き覚えもやり覚えも全くない謎の台詞に、思わずたじろぐ。乱れたメイド服の隙間から太股が覘いていた。
「時雨、すまんがベッドを準備してくれ」
「ノースケベ、ノーライフ」
「恐らくはアサヒーナが居なくなった事を察したのだろう。これはそれに慌て屋敷を留守にした俺の失態だ。寝かせておいてやろうではないか」
「では御運び致します」
「頼む……」
胸にスッポンを押し付けられ、そのままズルズルと引き摺られていくサンシャちゃん。服の上からも吸引するその性能はどうかしている。と言うか汚いから止めてあげてくれ…………。
サンシャちゃんを寝かしつけた時雨が食堂に戻ってきた。俺は飯の支度をしようとしていた、が冷蔵庫の中に見えた豚の頭を見てやる気を失っていた。
「御食事ですか?」
「ああ、何か作ろうかと思ってな」
「ならば御作り致します」
「出来るのか!?」
「はい。検索して材料に合わせた最適なメニューが可能です!」
「素晴らしい! 流石高性能!」
今まで料理はアサヒーナが担当していたが、灯台もと暗しとはこのことだろう。何故もっと早く気が付かなかったのか!
「検索開始!」
時雨の眼から緑色のサーチライトが光り出し、冷蔵庫の食材をサーチした。
「人参玉葱キャベツ卵、豚の頭邪神の右手マンドラゴラ腐った蜜柑マンホール!」
「待てぃ!!!!」
「……該当メニューがありました!!」
「あるんかーい!! いや、食えるのか!?」
「おまちどうさまです!! マンホールで焼いたお好み焼きです!!」
「!?」
マンホールをコンロの上に乗せて熱し、豚の頭に卵をぶっ掛け野菜を乗せて焼くとんでもないお好み焼き。関西人が見たら発狂するのではないかと思えるくらいに酷い代物だ。
「…………邪神の右手は何処行った?」
「流石に食べられませんよ旦那様(笑)」
「…………」
何だか機械メイドに遊ばれているような気がする。
「……あ、普通に美味い」
「良かったです」
サンシャちゃんに作らせるよりは一億倍マシなので、ありがたく朝食を頬張った。




