天の神 地の神 魔の悪魔
マクスウェルは古めかしい文献を一冊投げてよこした。それは虫食いだらけの汚れた糸掛かりの本であり、タイトルすら薄汚れて読むことが出来ず頁を捲る事すら危ういと感じられる程であった。
無言で表紙をめくる。その本のタイトルであろうと思われる文字が大きく記されていたが、やはり虫食いだらけで読めるのは僅か一文字。辛うじて見える『神』の文字だけであった。
暫くは虫食いと汚れで読むことが出来ないほどだったが、本の中頃になると微かに文字が読めるようになってきた。
「……天叢雲……剣?」
「その本には三種の神器と呼ばれる地の神に代々伝わる神具が書かれていた。残り二つは八咫鏡と八尺瓊勾玉と呼ばれる物だ」
「……聞いたことないな」
「そりゃそうだ。遥か昔、天の神の支配を恐れ力を蓄える為に極東に身を潜めた地の神々の物だからな。俺もそれを解読するまでは全く知らなかったさ」
「で、それがどうしたんだ?」
「天界と魔界の戦争が更に進めば、奴等はより力を欲して地の神への干渉を始めるだろう。その前に俺等で抑えておく必要があると思ってな……」
「その前にアサヒーナの行方をだな……?」
「すまん、アサヒーナちゃんの目撃情報が途絶えた。鼻の利く奴等にも依頼したが見つけられなかった」
マクスウェルが頭を下げた。実に珍しい。
俺は一言「すまない。ありがとう……」と素直に礼を述べ、今後のことについて話し合うことにした。
「お前は一度地上に戻れ。魔界に来たのは久方振りだろう? 手に魔素による斑紋が出てるぞ。魔素に侵食されて自我を失う前にさっさと戻れ。俺は引き続きアサヒーナちゃんを探す。何か分かったら連絡する」
「すまない……恩に着る」
正直、昔と違って力が殆ど使えず、魔素が肉体を蝕みしんどくなっていた。流石にこれ以上の無理は出来ないのが事実だ。アサヒーナを見つける前に俺が狂ってしまうだろう。……アサヒーナは魔素にやられずに済んで居るのだろうか? だとしたらアサヒーナは一体…………?
「あまり余計なことは考えない方が良い。お前はすぐに知恵熱を出すからな」
「余計なお世話だ……」
マクスウェルの自室に置いてあるクローゼットの中はシワだらけの服が適当にハンガーにかけてあり、そのガサツさが見て取れた。
「あまりジロジロ見るな。さっさと行け」
俺は地上への扉を開き、ゆっくりと身を潜らせマクスウェルの部屋を後にした…………




