ハッピーバースデー
──コンコン
──コンコン
──コンコンコン
「…………ぅ……え?」
「旦那様?」
「うー……あー……?」
凄まじい倦怠感を一身に背負い、何とか頭を持ち上げる。時計の針に焦点が合うまで時間が掛かり、その間にも瞼がズシリと重くなる。
「旦那様朝ですよー?」
「あ……さ? …………朝ぁぁ!?」
──ガバッ!!
眠気の銀幕を袈裟斬りに一刀両断するかのように、眠気がストンと落ち、瞼がパッチリと開いた。
「うおっ!! うおおおお!?」
裸の自分に気付き、昨日の出来事が頭の中にフラッシュバックする。
「うへへ! うへへへへ!!」
「旦那様ぁ?」
サンシャちゃんの呼び声がまるで不審者を疑うかのようだが、鏡にチラリと映る今の俺の顔は間違いなく不審者である。
「そう言えばアサヒーナは…………」
隣で寝ていたアサヒーナの姿が無い。先に起きたのだろうか。まぁ、一緒に寝ているところを見られたらそれはそれでマズいか……。
「すまないサンシャちゃん。今行くよ」
「は~い。食堂でお待ちしてます~」
一先ず昨日脱いだ服にもう一度袖を通す。ネクタイを締めていると鏡に映る小さな箱が見えた。
「…………何だこれ?」
リボンの付いた手のひらサイズの小さな赤い箱。真ん中から開くその箱は、中に小さなメッセージカードと猫の絵が描かれているマグカップが入っていた。
『ハッピーバースデー 旦那さま』
「……あ」
カレンダーを見てようやく思い出した。そう言えば今日は俺の誕生日だ…………。
「アサヒーナめ、照れ隠しにかわゆい渡し方しよって……」
俺は箱の蓋を閉め、デスクに丁寧に仕舞い込んだ。後で眺めてニヤニヤしよう。それより先ずは朝食とアサヒーナの顔を見に行くか。
「~♪」
ルンルンスキップで食堂へ行くと、食堂は1メートル先も真面に見えない程の深い霧に包まれていた。
「な、なんだぁ!?」
「ひえぇぇぇ!! 旦那様ぁぁ~!」
食堂の霧の奥深くからサンシャちゃんの悲鳴が聞こえてくる。しかしその姿は見えない。
「サンシャちゃんどうした!?」
「突然トーストが泡だって、紫だちたる雲の細くたなびきたるです~!!」
「どゆことぉぉ!?」
「アサヒーナさんの代わりに朝食を作ったらこうなりました~!!」
「なんでぇ!?」
「ああっ!? トーストが私の服を齧ってますぅ!!」
「はあぁ!?」
慌てて換気扇を回し、窓を開けて霧を外へと追いやる。霧が晴れるとサンシャちゃんが厨房の奥でグスンと泣いており、服は濡れ所々大きく破れていた。
「エロっ……」
思わず心の声が漏れた。




