二人。結ばれて
──コンコン
深夜の仕事部屋にいつもの音が訪れる。
「アサヒーナか?」
──ガチャ
彼女はニッコリと微笑みながら「お飲み物をお持ちしました」と、トレイに乗せたマグカップをゆっくりとゆっくりと運ぶ。
「お、今日はココアかな?」
甘い香りが部屋一面に漂い、熱々のマグカップを覗き込むとクリームが渦巻く濃厚なココアが顔を覗かせた。
「コーヒーは昼間で十分かと思いまして……」
昼間……ヒメたんが目の前で劇薬をグビグビと消化する様を見て、確かにその日はコーヒーの気分では無かった。
「本当に……気が利くなアサヒーナは……」
彼女の心遣いにはとても感謝してもしきれない。
「私は旦那さまの従者ですから♪」
ココアを一口飲むといつもとは違う甘い味が口いっぱいに広がり、瞬く間に心と体が暖かくなるのが感じられた。
「……好きだな…………」
「―――えっ?」
「初めて君と出会った時を思い出す味だ」
「ふふっ、そう言えば最初にお出ししたのもココアでしたね」
「丁度豆が切れてて、買い出しを御願いしたら何故かココアを買ってきたんだっけ?」
「ココアが安かったんですよ。……もうその話は良いじゃ無いですか恥ずかしい……」
「野菜を皮を剥かずに使うもんだから、野菜炒めがタマネギの皮だらけになった事もあったなぁ……」
「む、昔の話じゃないですか……!」
「洗濯機……何台目だっけ?」
「ご、五台目ですぅ! すみませんねぇ……! ……ぷぅ!」
「ハハ、膨れた顔がフグみたいだ!」
「もう!」
「ハハハ……全てが懐かしいな」
「フフ、そうですねぇ…………」
ココアが半分無くなり、フワフワと漂うココアの香りが二人を包む。
「……飲むかい?」
アサヒーナは黙って差し出されたマグカップを右手に持ち、静かに口を付けた。彼女の髪を掻き上げながら飲む仕草、それは俺の心を突き動かすには十分過ぎる程の魅力だった。
「美味しいですね」
「好きだ」
「私もココア、好きですよ」
「アサヒーナが好きだ」
「……は、いぃ?」
「君が好きだ」
「だ、旦那さま?」
「一目見たときから君のことが好きだった」
「ど、どどどどぅ! どうなされましゅたかぁ!?」
「野菜も切れなかったポンコツな君が可愛かった!指を切りながら作ってくれた謎の炒め物は最高に不味かったけど最強に幸せだった!洗濯機爆発させて服を全て失った時は泣いて謝る君が可愛すぎて可愛すぎて仕方なかった!間違ってお風呂を覗いてしまった時は恥ずかしがる君が可愛すぎて愛して止まなかった!君の事が好きすぎて意地悪ばかりしてきたがそれもこれも君が可愛すぎるから………!!!!」
「…………」
「ハァ……ハァ……ゴメン、何か分からないけど喋りすぎた。聞かなかった事にしてくれ」
今更ながら恥ずかしさで死にたくなってきたぞ……。
「少しお待ち下さいませ……」
──ガチャ……バタン
「ア、アサヒーナ……?」
冷静な顔でアサヒーナは部屋を出て行ってしまった。ヤバい……絶命させられる?
──コンコン
「は、は~……い……」
俺は殺される気分でそのノックを受け入れた。精神安定剤であるココアは既に無くなっており、アサヒーナが飲んだ箇所は既に俺の唾液でベロベロになっている。これ以上舐め回すと自分を舐めているみたいで気持ち悪いので止めることにした。
──ガチャ……
「!?」
それは青天の霹靂より衝撃的で俺は自分の脳ミソがおかしくなったかバグが起きたかサンシャちゃんのコーヒーのせいかと思う位に、目の前の光景が信じられなかった。
「し、失礼致します……」
──バタン……
扉が閉まるとアサヒーナはクソ恥ずかしそうにモジモジと指を絡めていた。
そりゃそうだ。
アサヒーナが今着ている服は、最初に俺が彼女に渡した大人の店で買ったメイド服だからだ! 胸元は大きく開きスカートは少し屈めば下着が見えてしまうくらいに短い。何でコレを買ったかと聞かれると辛いのだが、『従者? ならメイド服だろ!』と意気込み町でメイド服を探すもコレしか無かったのだ(笑)
「そ、その服……えぇ? 何でぇ?」
俺は理解の範疇を超え、知能指数が駄々下がり。何がどうなっているのかすら訳が分からない。あの時はこのメイド服を渡したら思い切りビンタされたんだが?
「は、初めてお目に掛かります……ア、アサヒーナと申します。旦那様におかれましては大変ご機嫌麗しゅうございます」
「あ……」
懐かしい過去の記憶。彼女が今述べた台詞は最初にこの屋敷を訪れた時の台詞だ。この後に緊張した俺が『あ、ああ……宜しく』と言って……確か趣味を聞いたんだっけか?
「あ、ああ……宜しく」
「…………」
アサヒーナはとても恥ずかしそうに真っ赤な顔でモジモジと俯いている。ヤバい……訳が分からないナリ。
「……しゅ、趣味は……?」
「旦那様を喜ばせる事です」
……あれ? そんな趣味だったっけ?
もう訳が分からないから今すぐにでも隕石を落として人類を終わらせてくれ神よ!
「特技は……旦那様を喜ばせる事です……」
「…………」
「好きな事は……だ、旦那さまの喜ぶ姿を見ることです」
次第にアサヒーナの目に涙が浮かび始め、俺は更なるパニックに襲われた。神はどうやら俺をパニック死させたいらしい。
「だ、旦那さま……?」
「お、おぅおおぅおぅ?」
「そ、そろそろ恥ずかしくて死にそうなので……その…………だ、抱いて頂けると…………」
青天の隕石は俺の脳を確実に破壊
「アサヒーナ!!!!」
──ガバッ!!
「ひあっ! だ、旦那さま!?」
その日、俺達は結ばれた…………
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