力の拠り所
屋敷の廊下は冷ややかな空気へと変わり、俺の目の前には下級悪魔が壁に張り付いた状態で身動きが取れないでいる。急激に冷えた壁に皮が張り付き、無理に動けば皮が捲れ肉が露わになるだろう…………
「誰の命でココへ来た……?」
しかしその問にも悪魔は唸るばかりで、やはり会話出来る程の知力すら持ち合わせてはいないようだ。
──ピキッ
悪魔の首が瞬時に凍り付き地面へと落ちる。絶命した悪魔の顔は魔界の様相を呈しており、安らかさは微塵も感じられなかった。
「急がねば、アサヒーナが……!!」
俺はアサヒーナが去った方へと駆け出し、奴等のドブ臭い異臭を頼りに部屋へと突入した!
「大丈夫かアサヒーナ!!」
部屋の中では時雨が怯えるアサヒーナとサンシャちゃんの前に立ち、ナイフ一つで悪魔と対峙していた。
「旦那さま!!」
「良く持ち堪えた! 後は任せろ!」
開口一番に悪魔の足下を凍り付かせ、悪魔をその場から動けなくする。そしてジワジワと奴の心臓を凍り付かせ絶命させる。昔なら一瞬で氷漬けに出来たが、僅かな力ではこれが限界だ。流石にアサヒーナ達の前で血を見せるわけにもいかないから、なるべくスマートに始末。それがいいだろう。
下級悪魔が完全に死んだことを確認し、俺は窓から死体を放り投げた。
地面に落ち氷が割れるようにバラバラになる死体。
(とりあえずはこれで一件落着……か)
「大丈夫か? 怪我は無いか?」
三人の方を見ると、時雨は黙して首を縦に振り、サンシャちゃんは「何のドッキリですか、これ?」と事態を把握出来ておらず、アサヒーナは―――
「ウワーン! 旦那さま~~!!」
──ガバッ!!
「おっと! こんな所で抱き付くな……皆見てるだろ、ったく……」
「旦那さま~!!」
「……はいはい」
堰を切った様に泣きじゃくるアサヒーナをあやし続け、泣き疲れて寝てしまうまでしっかりと抱きしめた。
サンシャちゃんは何事も無かった様に自分の部屋へと戻り、時雨には廊下の掃除と悪魔の体の一部をマクスウェルに送るよう命じた。
──すぅすぅ……
これを機に、何やら事態が大きく動き出しそうな気がしてならないが、一先ずはアサヒーナの寝顔が見れただけで良しとするか…………




