魔界よりの暴漢
──ガシャーン!!
「な、何だぁ!?」
静寂の夜更けに突如響いたガラスをぶち破る激音に思わず目が覚める。
「おいおい、面倒事だけは勘弁だぞ……」
念の為引き出しから鏡の欠片をポケットへとねじ込み、部屋を飛び出し辺りを見渡す。
「キャーッ!!」
「アサヒーナ!!!!」
俺は悲鳴の方へ駆け出し、廊下を曲がる。するとそこにはへたり込むアサヒーナと、世にも悍ましい形をした魔界の悪魔が一匹居た。
「大丈夫かアサヒーナ!?」
「だ、旦那さまぁ……!!」
アサヒーナを自分の後ろへと隠し悍ましい悪魔と対峙する。悪魔は鋭い牙を生やしダラダラとヨダレを垂らしては「ウゴォォ……ウゴォォ……」と荒い息を吐き目は焦点が合わずギョロギョロと四方を向いていた。
「何処のどいつだか知らないがマナーのなってない奴が来たな……」
廊下に飾ってあった壺を手に取り身構える。今の俺は、こと戦闘に関してはほぼほぼ無力に近い。ただそれでも目の前の敵を排除しなければ明日がなさそうなのが実に嘆かわしい。
「俺が時間を稼ぐからサンシャちゃんと時雨を連れて逃げろ!」
「だ、旦那さまは!?」
「勿論俺も後から逃げる!!」
ドン、とアサヒーナを背中で押すとアサヒーナが駆け出した。少し長めの汚い産毛がびっしりと生えた額目掛けて壺を振り下ろす。
──ガコォォン!!
やや鈍い音を立てて壺は砕けた。そして悪魔はギョロリと目を一周させ俺の方を睨みつける。
「効いてない……か」
「ウゴゴゴォ……!!」
──ボフ!!
「グッ……!!」
その焦点が的外れな方を向いた悪魔が急にバックステップで距離を取ったかと思うと、後頭部に鈍い音と激しい衝撃が走り視界が瞬時に大きくズレて激痛に襲われた!
頭を押さえながら立ち上がり後ろを確認すると、そこには同じく背格好の悪魔がもう一匹居た。
「クソッ!! 一匹だけじゃないのか!!」
途端にアサヒーナ達の安否が気になったが、今は己の身の心配が先だ。挟み撃ちの形を取られた今、このままだと確実に死ぬだろう。
「キャーッ!!」
「アサヒーナ!?」
その悲鳴は聞くに耐えず、気が付けば俺はポケットから鏡の欠片を取り出していた―――!
「アサヒーナ達に手を出す事だけは……許さん!!」
小さな欠片は俺の眼が映るので精一杯の大きさだったが、欠片に映る右眼が青くなり、俺は本来の力を僅かながらに取り戻した!!
「下級悪魔が何用だか知らんが生きては帰さぬ!!」
怒りに任せ目の前の悪魔の額眼をやると、悪魔は頭を押さえ藻掻き始める。
──ブチンッ……
そして鈍い音と共に悪魔は頭の血管が爆発し、口から大量の血を流して絶命した…………。




