お掃除ロボ
──ブイィィィィン!!
書類を書き殴る部屋に、掃除機の音が響き渡る。
「旦那様、綺麗になりました」
「……そうか、ご苦労」
なんと言えば良いか分からずに普通に返事をしたが、どう見ても時雨のソレが気になって仕方ない。
「……時雨」
「なんでしょうか旦那様」
「右手の……ソレは何だ?」
「掃除機でございます」
右手に接続された掃除機アーム。マクスウェルのイタズラなのか、時雨の右手は付け替え可能な十徳ナイフの様な便利グッズと化していた。
「やりにくくないか?」
「ゴミがパンツの中に溜まるのが唯一の難点です」
やはり何処から何と言えば良いか分からないが、時雨がそれで良いなら良しとしようか。
先の一件以来、時雨は屋敷の従者として中で軽作業に従事して貰っている。あまり無理をさせるとまた壊されてしまうからな。
「時雨。コーヒーを頼む」
「承知」
──ゴボゴボ……
付け替えた右手の親指の先から、濃厚なコーヒーがカップへと注がれる。当然注ぐわけだから親指は下を向いている。そして他の指は閉じている。こんな奇怪なコーヒーの入れ方があって良い物だろうか?
「今日は少し甘めがいいな。砂糖とミルクも頼むよ」
「承知!」
時雨は親指を戻し、頭を二三揺らした。
「カーッ! ペッ!!!!」
──ビチャッ!
時雨の口からコーヒーカップへと吐き出された白い塊。恐らくは砂糖とミルクだと思われるが聞くのが恐い。
「お待たせ致しました」
出されたコーヒーを恐る恐る飲む。見た目は普通のコーヒーだが、味は…………
「……普通のコーヒーだ」
「何を当たり前の事を仰っているのですか?」
驚く程に普通のコーヒー。普通に出されただけなら何も問題は無いだろう。
「おかわりは如何ですか?」
親指を下に向けスタンバイする時雨。普通に出してくれれば何も問題は無いのだが……。
──コンコン
「入れ」
──ガチャ
「旦那様コーヒーをお持ちしました」
笑顔溢れるサンシャちゃんがひょっこりと部屋へ入ってくる。彼女も普通に出してくれればオールオッケーな人物だ。
「ピピッ! 異常検知!」
時雨がサンシャちゃんが持ってきたコーヒーに人差し指を入れた。
「ええっ! な、何ですかぁ!?」
「ビーッ! 青酸カリを検出!!」
「ブッ!!」
思わずコーヒーを吹き出してしまう俺。サンシャちゃんのコーヒーに何故そのような毒物が!?
「サンシャちゃん。それ自分で飲んだことある?」
「ええ、いつも飲んでますよ? 美味しいですよ~♪」
「な、なにぃ!?」
どうやらサンシャちゃんは全てが規格外のようだ…………




