修理
時雨の修理を待つ間、俺はデスクの引き出しから例の鏡を取り出していた。
(ついでにコイツが本物かどうかも見てもらうか……)
──コンコン……ガチャ
「終わったか?」
「ああ……」
オイル染みたマクスウェルの傍らに、腰掛けた時雨が目を開いて最後の修理を受けていた。
「すみません旦那様……」
「いや、いいんだ。俺が無理をさせたから……」
申し訳無さそうに謝る時雨の頭を撫で…………よく見たら時雨の右手が漫画でよく見るようなマジックアームになっていた……
「な、何だコレは!?」
「すまんな、あまりにも損傷が酷くてな。部品が来るまでこれで我慢してくれ」
「大丈夫です旦那様。私これでも頑張れます……」
「そ、そうか……?」
マジックアームをワキワキさせる時雨。どう見てもコップを掴むくらいしか出来ないと思うが……。
「激しく動くと取れるからな? パーツが来るまで大人しくしてろよ」
「そ、そんな……」
マクスウェルは修理が終わると、伸びを大きくすると手をニギニギと繰り返し、ゲスな笑みを溢し始めた。
「それじゃあ……報酬を貰おうか?」
「まあ、待て待て。疲れただろうからコーヒーでもどうだ?」
「お、八郎のくせに気が利くじゃないか!」
俺は内線電話を取った。
「あ、サンシャちゃんかな? すまないがコーヒーを一つ頼むよ。お客様用の豆でね」
「畏まりました旦那様!」
受話器越しにサンシャちゃんの張り切る声が聞こえてきた。奴にはすまないがコーヒーでくたばってもらおうか……。
──コンコン
「コーヒーをお持ちしました」
「ありがとう」
──ガチャ
歪んだトレイにコーヒーを乗せ、サンシャちゃんがヨロヨロと入ってくる。余程気合いが入っていたのだろうか、溢れんばかりに注がれたコーヒーは案の定少し溢れている。
「おろ!? 新入りメイドちゃん!? しかも巨乳!? 八郎テメェ!!」
「止めろ、下品だぞ…………」
「コーヒーをどうぞ。私、新入りのサンシャと申します。宜しくお願い致します♪」
「(色々な意味で)宜しくね♡」
鼻の下を伸ばしきったマクスウェルがコーヒーを受け取り、笑顔でサンシャちゃんの胸をジロジロと見ている。
「報酬はこっちにしようかのぅ?」
「……?」
スケベオヤジ全開なマクスウェルがコーヒーを一口…………
「……ウッ!」
「どうした?」
怪訝な顔をするマクスウェルに、わざとらしく不思議そうに問い掛ける。
「何だ……急に腹が…………!!」
「えっ!? お客様大丈夫ですか!?」
「トイレならココを右に出て突き当たりの左だ」
「わ、分かった…………」
──バタンッ
それからマクスウェルは二時間トイレに籠城し、戻ってきた頃にはゲッソリと痩せ細っていた。
「大丈夫か?」
「仕事し過ぎたかな? すまんが報酬はまた今度貰うわ……それじゃ……」
フラフラとマクスウェルが屋敷を出て行く。俺か内心喜びの舞を踊った。
「旦那様、お客様は大丈夫でしょうか?」
「きっと仕事をし過ぎたんだろう……」
俺はこっそりコーヒーにペンを入れ、窓際の観葉植物に一滴コーヒーを垂らした。
すると観葉植物は瞬く間に枯れ果て、見る影もない程にシナシナになってしまった。
(客用の豆はサンシャちゃんに使わせないようにしないとな。うっかり客を殺しかねん……)
俺は天然死神ドジっ娘の行く末に少し不安を感じていた…………




