不穏な影
満月の夜は決まってろくでもない事が起きるものだ……。
「時雨……その腕はどうした? 前に出すぎたか?」
左腕を根元から失いバランスが危うい時雨は、オイルが焼けた臭いを放ちながら跪いている。特注フルメタルボディの時雨がここまでやられるとは…………。
「まだ大丈夫で御座います」
「後で修理が必要だな。して、現状は如何に?」
「ソロネ軍5000は未だ健在。ドュナミス軍3000は半壊、アルケー軍1000は全滅……そしてベリアル様が討ち死になられました」
「そうか……ソロネ程度にやられる奴ではないんだがな……」
「現状を見かねたミカエル様が突如として最前線に現れまして……」
「何っ!? 熾天使が現れただと!?」
「あれは間違いなくミカエル様でした。私の腕も、ミカエル様の、煉獄の炎で……溶けてしまいました……」
「……時雨。背中を見せてみろ」
「……なりませぬ」
「早くしろ!」
「……御意」
静かに背を見せる時雨。その背中は大きく抉れ、まるで柔らかい何かをスプーンで掬ったかの様に丸い跡になっていた。
「……な!? お前背中もやられてるじゃないか!? 今すぐ修理だ!!」
「すみませぬ旦那様……もう……メインチップが持ちませぬ……さらば……」
時雨は目の光を弱らせフラついた。
──ガシッ!
「しっかりしろ!」
「…………」
しかし時雨はピクリともに動かず機械の冷ややかなボディからダラダラとオイルが漏れている。俺は急いで電話を手にした。
──プルルルル……ガチャ
「こんな時間になんだ八郎……?」
「何故俺だと?」
「俺に電話をする奴はお前しかいない」
「マクスウェルお前だけが頼りだ。だから早く来てくれ」
「……やなこった」
「頼む」
「お前が俺を頼りにするときは大抵ろくでもない事だからな。どうせあのアンドロイドが壊れたかなんかしたんだろ? アレは俺の傑作だ。壊れた姿を見るだけでも気絶しちまうぜ?」
「腕を一つ失った。そして背中も抉れている。熾天使の仕業だ」
「…………な ん だ と !?」
「ベリアルの所に使いを頼んだらミカエルが現れて巻き込まれたらしい。頼む、お前だけだ頼りだ」
「1,000,000だな」
「はぁ!? そんなに出せるか!!」
「アレのボディは特注だぞ? もう手持ちに替えが無いんだよ……」
「何とかならんか!?」
「アサヒーナちゃんの胸を揉ませろ……」
「分かった」
「おや? 拒否しないのか?」
「別に……」
「それじゃあ今すぐ行く」
──ガチャ……
「ふぅ……」
一先ず修理の手配は着いたが…………。
「来たぞ」
「うわぁ!!」
「相変わらずウルサイ奴だ」
「いくら何でも今すぐ過ぎるだろ! ビックリしたわ!!」
「ウルサイ。さっさとコイツを運ぶのを手伝え……」
「お、おう…………」




