宅配便
「旦那様ーっ!」
サンシャちゃんが大声で俺を呼ぶ。俺はペンを置き部屋の扉を開けて廊下へと出た。
「あ、旦那様! お届け物が届きましたよ~! あ、ダメですよ宅配員さん、屋敷の中に入って来ちゃ!」
「サンシャちゃん。ソイツは私のお客さんだ」
「えっ!? し、失礼しました~!!」
寝癖頭に仏頂面。シワシワのスーツにアタッシュケース。出来ることなら一生会いたくない男【高崎芳信】が屋敷へとやって来た。冥府黒神の会のナンバー5である芳信、彼とは幼少期からの付き合いだ。
「どうやらメイドの教育がなってないようだな八郎?」
「彼女は新人だ。許してやってくれ」
俺より先に部屋へと入り、勝手に俺のデスクへと座る芳信。コイツのずずうしさは随を極めている。俺は来客用のソファーへ座り芳信の話を聞くことにした。
「して、たまたま通り掛かった訳じゃないんだろ?」
「まぁ……な」
バチンバチンとスーツケースを開き、芳信は小さな紫色の布に包まれた何かを取り出した。
「開けるなよ? コイツは浄玻璃鏡の一部だ……」
得意気な顔で俺を見下す芳信。コイツのこういう所が気に入らない。本物かどうかはまだ分からないが、もし本物なら天界に封じ込めてある俺の力が反応して天界にバレてしまうだろう。
そして、無間地獄に落ちた浄玻璃鏡の一部をコイツが持っているとなると…………。
「鏡を割ったのは……天界の奴等か」
「御名答。天界を拠り所とする我等の仕業だ」
「そして貴様がソレを持ってくると言う事は……」
「お前の復活を切に願うのは天界も魔界も俺も同じ事……」
コレがコイツの分からない所である。勢力図的に天界に所属する冥府黒神の会のナンバー5が俺の復活に加担しようとしている。つまり魔界の手助けをもしようとしているのだ。バレれば死刑は免れないというのにも拘わらずだ……!!
「俺はお前が唯一無二の強さを誇っていたあの時が忘れられないんだ。だからお前にはもう一度頑張る義務がある」
「訳の分からない事を…………俺は静観すると決めたんだ。放って置いてくれ」
「いや……お前がやりたくなくても既に時代はお前を求めている。否応も無しにお前は神を殺さなくてはならないのさ!」
「…………」
「くれぐれも俺を失望させるなよ?」
芳信は席を立ち部屋を出る。見送りは必要無いだろうが、代わりにデスクに置かれたままの布を素早くしまい込み、深いため息を着いた。
今の俺は1%の力すら出せない唯の人間。何を今更…………
「アサヒーナはどう思う?」
──ガチャ……
静かに開かれた扉からアサヒーナがコーヒーを持って現れる。扉の向こうで立ち聞きをしているのは察していた。俺は窓の外を向いたままアサヒーナの言葉を待つ。
「旦那さま……」
「もし、此度の戦争の火種が俺だとしたら……俺はこの場で自害すべきかな?」
「そ、それはなりません!!」
「天界が俺の力を封じてまで俺を生かしているのは、いざという時俺を戦争に利用するためだ。そしてその力を狙っているのは魔界も同じ…………」
「……旦那さま…………」
アサヒーナがひっしりと俺の背中に寄り添う。俺はそのまま背中から伝わる温もりを感じていた。
「旦那さまが居なくなったら……居なくなったら私は…………」
「アサヒーナ……」
「もし私の前から消えて無くなったら、旦那さまを許しませんから……」
「…………」
アサヒーナの温もりが背中を離れ、静かに部屋を去る。窓からうっすらと見える月が、今日はどこかいつもより遠く感じられた…………。
 




