視察の最中に……
「THE・視察……!!」
今日は大雨で崩れた崖の視察へと来ている。雨で酷く斜面が抉れ、後僅かで民家と言う所まで迫っていた。
「これは木々の伐採で土を防ぐ木が無くなったせいだな……」
伐採が進み露出した地面は水を含むとあっと言う間に地滑りを起こす。それを防ぐために桜の木が辺り一面に植えられていたのだが、毛虫や落ち葉の問題で民家に近い部分は伐採されてしまったのだ。
「やはり伐採は時期尚早だったな」
地元住民の意見を尊重し進めた伐採だったが、ここに来て裏目に出たようだ。
「防柵を張るか……」
書類をその場で殴り書き、俺は残された桜の木へと向かった。桜の時期も終わり、葉だけが残る桜だが見ていて中々に良い物だ。
「まだ木は沢山残っているから、これ以上の崖崩れは無いと思うが…………アレは……?」
その時、桜の木の下に子どもの姿が見えた。
「おーい! まだ地面が濡れて危ないからココへ来ちゃダメだぞー!」
子どもはそのまま桜の木の陰へと入り姿が見えなくなった。
「おい小僧……」
「ファゥ!?」
後ろから突然声が掛かり振り向くと、そこには先程の子どもが居た。一瞬で俺の後ろへ来たこともビックリだったが、それよりも―――
(まるで気配が無かった……なによりこの子どもから感じる気配は―――!?)
見た目は熊のコートを着た五歳くらいの幼女だが、何やら唯ならぬ気配がしてならない。俺は一歩後ろへと引き様子を見た。
「何を怯えておる? 妾の名は神阿多都比売。またの名をコノハナサクヤヒメと申す」
「フェッ!?」
俺は突然の告白に一瞬何が起きたのか分からず、アホ臭い返事しか出来なかった。
「も、もももももしかして……!?」
「まさしく神だ……平伏せ?」
「お、おとおとおと大人をからかっちゃ…………!!」
「戯けが……」
──パンッ
幼女が手を叩くと、瞬く間に辺り一面の桜の木に花弁が付き始めた!!
「―――なっ!?」
「気軽に『ヒメたん』と呼べ?」
「えっ!? えぇぇ……?」
位の高い神様を気軽に『ヒメたん』と呼んで良いものか分からないが、一先ず本物で間違いなさそうだ。
「さて、本題に入るぞ小僧……。貴様、いつまでそのままで居るつもりだ?」
「何の事だ? 今の俺は唯の管理職だ」
「戯けが……。天界と魔界の戦争のせいで日々地上のマナエネルギーが減りつつある。このまま行けば数百年後には地上から生き物が居なくなるぞ!?」
「いや……俺後50年位しか生きないから別に…………」
「なら来年からは桜の花を咲かすのは止めよう。いや、桜だけじゃ無くて全ての花を咲かなくしてやろう!」
「フォッ!? そ、それは困る! 俺の数少ない飲酒イベンツが!!」
「ならはよぅこのふざけた戦争をどうにかせえ! 妾は我慢の限界じゃ!!」
「と言っても俺の力の殆どは天界に封じられててどうにも出来ん!」
「ならばこれを授けよう」
幼女が取り出したのは掌サイズの小さな木の枝だった。枝の先には桜の花が二輪咲いている。
「……?」
「これは昔酔った旦那が天叢雲剣で切り落とした桜の枝じゃ。肌身離さず持ち歩くと良いぞ?」
「……神様にも色々あるんですね」
「ではな。さっさとしろよ?」
そう言い残すとコノハナサクヤヒメは桜の花びらを舞わせて消えてしまった。
(まさか神格が首を突っ込んでくるとは…………それ程に今回はヤバいのか?)
俺は貰った枝をポケットへ入れ、屋敷へと戻ることにした。二人が去った跡には桜の花びらだけが残された…………。




