お風呂
「ふぁ~~っ!」
めたくそな欠伸をぶっかまし、冷め切ったコーヒー(コーヒー)を口に流し込む。時計は既に夜の10時を過ぎていた。
「うわ……仕事しすぎた」
そして未だに終わらぬ書類の山に嫌気が差し、俺は部屋を抜け出した。
「風呂でも入るか……」
眠気MAXで頭をボリボリと掻き、屋敷にある風呂へと向かう。
──ガチャ……
「……あ」
「え……!?」
目と目が合うアサヒーナと俺。
アサヒーナは何故かバスタオル一枚。何故ならそこが風呂だから。そして風呂上がりだから。
「……ハハ。ゴメンゴメ…ン……」
俺は何食わぬ顔で扉を閉めようとする。
「キャーーーーーーー!!!!!!!」
──バジンッ!!
「ア゛ーーーーーーッ!!!!」
アサヒーナの強烈な突き出しで俺は扉に指を挟んでしまった!!
「旦那さま出てって下さい!!」
「指が!! 指がもげる!!」
「出てって下さい!!!!」
「もげちゃうーーーー!!!!」
…………
………………
「すみませんでした……」
「いや、良いんだ。ノックも無しに入った俺が悪かったんだ」
アサヒーナの部屋で俺は手当てを受けていた。まだ乾かしていないアサヒーナの髪とクマのパジャマ。そして可愛らしいカエルの救急箱。こういう所を見ると、アサヒーナは実に女性的だなと感じる。
「痛くないですか旦那さま」
「痛いから舐めてくれ」
「絶命希望ですね♪」
「ごめんなさい……」
世界一の笑顔で凄まれると謝らずにはいられない。俺は実に弱い生き物だ。
柔らかいアサヒーナの手が俺の手から離れ、指は包帯でグルグル巻きになった。
「風邪をひくといけない。俺はもう大丈夫だから早く髪を乾かすといい」
「ありがとうございます」
「明日も宜しくな」
「はい。おやすみなさいませ……」
俺はアサヒーナに別れを告げ部屋を後にした。
(……さてと)
俺は部屋に戻ると椅子に座り心の準備を急いだ。
「して、状況はどうだ。時雨……」
「ハッ、それが…………」
影より時雨が現れ魔界の状況を報告し始める。
「2000の天使が全て返り討ちに遭い、天界が慌ただしくなっております。ソロネ軍を主体とした5000、ドュナミス軍3000、アルケー軍1000が天界を出動致しました」
「やはり魔界はそう簡単には墜ちなさそうだな。しかしこれで戦争が本格化するだろうな……」
そうなると、何があっても良いように俺もそろそろ動かねばならない時期か…………。
「時雨、一つ頼みがある。もし魔界の軍勢にベリアルが現れたのなら、『妖精は静観する』と伝えよ」
「ハッ―――」
時雨が影に消えると、俺は窓から外を眺めた。月は怪しく 陰り、行く末を知ってか知らぬか雲の中へと消えた…………。




