ある日の光景
宜しくお願い致します。
──チッ チッ チッ
時計の針は休むこと無く動き続けている。
「……ZZZ」
一方俺は休むこと無く休み続けている。
──チッ チッ チッ チッ
「……Z、ZZ……」
──チッ チッ
「……さま」
「……ZZ、Z?」
「……旦那さま!!」
「ZZZ!?」
──ガバッ!
「いつまで寝てるんですか旦那さま……」
「ZZ! ZZZ、ZZZZZZZ!?」
「寝ぼけながら話さないでください。ひっぱたきますよ?」
──バチンッ!!
「……と言うか叩くのは確定なのかい?」
「おはようございます旦那さま♪」
「ああ、おはよう」
時計に目をやると時刻は午後の四時。仕事用デスクの上には俺のヨダレで汚れた書類が広がっている。
「随分と長い休憩ですね?」
そして目の前で恐ろしい笑顔を振りまいているメイドのアサヒーナ。ホウキを片手に今日も仕事に余念が無い。
「休憩後の軽い休憩だ」
──バチンッ!!
「待ってくれ。そんな次々叩かれたら頬が三つ四つ有っても足りないぞ……」
「アホな事を言っていないで書類を書いて下さい。この間私が代わりに書いてゴードン卿に『次からもこの綺麗な字で頼むよ(笑)』と嫌味を言われたのを忘れたのですか?」
「もしかして俺はお払い箱なのか!?」
「そうならないように頑張って下さい♡ お茶を入れてきますね」
──バタン……
俺は世界一恐ろしい♡マークの恩恵を受け、真面目に机と向かう。
「……寝るか」
アサヒーナがお茶を入れて戻ってくるまでの僅かな時間でも睡眠を怠らない俺は非常に優秀な人間と言えるだろう。
──ズゴンッ!!
「!?」
机に突っ伏した俺の隣にえげつない程の勢いで矢が打ち込まれた。そしてドアの隙間からアサヒーナがこちらに弓を向けている。
「お茶……出来ましたよ?」
「あ、ありがとう……」
ゆっくりと差し出されたお茶は、不思議な赤色をしていた。まるで血を茹でた様な赤の深さに俺はゾッとした……。
「隠し味をほんの少し入れました♪ これで眠気とはおさらばですね」
(いや……既にさっきの矢で眠気は消え失せてはいるが…………)
「あ、ありがとう……後で飲むよ」
俺は目にツンとくるその劇薬を脇にどかし、書類を一枚手に取った。
(古井戸の修繕要望について。……古くから使われている井戸の滑車にガタが来てお…………)
「ふぁ~~……」
「お茶……飲みます?」
「いえっ! 大丈夫です!!」
俺はシャキッと姿勢を正し書類を見た。アサヒーナはお茶の隣に笑顔で立っている。スタンバイモードも甚だしい。
(……つきましては修繕費の計上と現地視察を…………)
「ふぁ~~……」
──ピュッ……
「ファッ!?」
アサヒーナがスポイトでお茶を欠伸した俺の口の中に放り込んだ。お茶の飲み方ってそれで合ってるんだっけ?
「…………」
次第に口いっぱいに広がる辛み……発熱……激痛……戦慄!!
「✓⇄*※☞♯↑↑↓↓ABAB!!!!」
目玉が飛び出そうな痛みと辛みに俺はデスクから離れ部屋の床をゴロゴロとのたうち回った。ヤバいくらいにヤバさがヤバヤバだ(脳死)
「随分と大袈裟ですね、旦那さま♪」
「㌍〒☆@XY↓↑!!!!」
「メテオストライクを放っている場合ではありませんよ?
さ、お仕事を進めて下さい?」
ピークを過ぎ何とか自力で歩行可能な程に落ち着いた辛さだが、未だに舌はピリピリとして言う事を聞かない。
「くっ、いつかアサヒーナに殺されてしまいそうだ……」
アサヒーナの激励?を受け、俺はその日の仕事を何とか終わらせる事が出来た。しかしその代償は大きく、暫く口の中は悲惨なことになってしまった…………