7転目 偽気
道化師の猛攻を退いたあの日から3週間あまりが経った。
そう、今日は世界が破滅する日だ。
この1ヶ月の間に世界中ではいくつもの災害に見舞われており、人口も3分の1まで減っている。
「...早いんだな、1ヶ月って」
あれから意石持ちは現れなかった。
朱莉は入院し、身を潜めている。
そして少年が意石持ちだ等と知る由もない他者はそもそも見向きもしないだろう。
朱莉の話によると、意石持ち同士で争い始めたきっかけは、誰かが唯一無二の意石持ちとなり1ヶ月しかないこの小さな世界の王様になろうと企んだことが発端だと言う。
たかが1ヶ月しかない世界の王になって一体どうしようというのだろうか。
もちろん争いの理由はそれだけではなく、命を脅かす可能性のあるものを排除したいという自己防衛的思想や、今までできなかったことをしたいというただそれだけの興味本位等もあるらしい。
(俺はこの力で何を願うんだろう)
水色に透き通る欠片を眺め、深く考え込む。
この欠片が現れたと同時に世界の崩壊が始まったというが、もし仮に何かの陰謀でこの世界が滅んだのだとしたら、この意石と呼ばれる欠片を作り出したものはその存在を知っていたと言うことになる。
そもそもこの欠片は作られたものなのだろうか......。
少年は、いつもの堤防で座り込み、ただ無我に空を眺めていた。
「やっぱあぢぃな...」
これから滅びるだ等と想像も出来ないほど、世界は美しい茜色に包まれている。
「...さて、もうそろそろかな?」
少年は立ち上がり、荒れ果てた街並み、広い空、これから滅びる世界に叫んだ。
「聞け! 世界よ!」
誰からも愛されず、向けられる目は残酷な物ばかりだった。
そんな少年がようやく手に入れた自由......。 ここから再スタートするはずの人生だった。
そんな自由を奪ったこの世界...それともその世界を滅ぼさんと企む何かへ向けて。
或いは今まで何もなさなかった自分への嘆きだろうか......。
少年はただがむしゃらに吠えた。
「お前なんかに邪魔されてたまるか! 俺は明日を生きたい!」
そして再び、夕焼けにしては明るく不思議にも引き込まれる様な赤い光が世界を飲み込み始める。
少年は吐き捨てた。
偽りの気迫、今まで余裕な振りをして怯え続けるばかりだった自分への戒めの名を――。
「覚えておけ! 未来を取り戻す男の、この俺の名は――」
『萩原 偽気』
第一生 完
一旦これで一区切りになります。
かなり急な進み具合ではありましたが、今後物語はどんどん盛り上がって行くのでもし良ければ続きも読んでみてください!
感想頂けると作者は泣いて喜びます。