表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破滅転生譚  作者: chalk
第二生 孤独な少年は世界に叫ぶ
6/33

6転目 虚勢

 鳴り響く爆音、金属の音、鈍く硬く生々しい音が鳴り響く中、少年は何も出来ずにただ立ち尽していた。


「レベルが違う...」


 これが、意石持ち同士の戦い。

 現実を目の当たりにした少年は、自身の無力さを呪うしかなかった。


 あれから彼は自身の能力を使い続けてきた。

 どうすれば何が起きるのかをずっと考え続けていた。

 身体的な面も考慮し、身体の限界など気にも止めず我武者羅に鍛え続けていた。

 たった1週間ではあったが、こんな時の為に少年は努力を重ねていたのだ。

 しかし今目の前で起きているものはそんな小さな努力でどうにかなるような軽いものではない決定的なもの。

 少年の努力は、自尊心は、呆気なく砕け散っていく。


「ぐおあああああ...!!!!」

 今も尚、親友の悲痛な叫びが頭に直接鳴り響く。


「くそ...! なんも出来ないのかよ...!」


 これまでも辛い事なら幾らでもあっただろう。

 痛いこと。傷ついたこと。悲しかったこと。

 しかし少年は、そんなものを遥かに越えた 無力感。絶望。疚しさ。苦しさ。痛み。 多くの闇に押し潰されていた。

 齢14歳の少年の小さな心が大きく抉られる。


(俺...なんも変わってないんだな......。 いつも強がって、棄てて、逃げて、また強がる。 虚勢ばかり張る自分に吐き気がする。)

 

 朱莉にあったあの日も、少年は草むらに隠れることしか出来なかった。

 そしてその以前も、いつも強気な振りをして実際は逃げばかりを繰り返してきた。

 そんなあの頃の自分から......。


(あの頃......。 あの頃っていつだ...)


 何かをふと思い出す。


(虚勢...偽りの気迫...戒め......。 そっか、俺の名前......)


 記憶の波が脳裏に流れる中、少年の首にぶら下がっていた意石はそれに呼応し輝きを取り戻した。

 淡く輝く光の色は、広大な海を思わせる水色である。


「ぐあああああ!!」

 朱莉の叫びが再び鳴り響く。

 ふと見遣れば、朱莉には新たに三本のナイフが身体に刺さっていた。


「そろそろ逃げるのも終わりにしたらどうだい? キミはどうせ時期に死ぬ」


「そうだなァ...この出血じゃあぁ...流石に厳しいかもしれないなぁ...!」


 朱莉に刺さるナイフはどれも深々と刺さっており、既に出血は命に関わるまでに流れ落ち辺りに池を形成していた。


「でもよォ、俺が諦めたらァあいつはどうなるんだァ?」

 

「キミが大人しく死ねば〜? 助けてあげるかも」

 

「いいやァ?! お前は間違いなくあいつを殺す。 どうせ自分の存在を知るもの全て殺す気なんだろう? 殺意に侵された哀しきピエロ。 小野寺京四郎...いや、今は狂死郎だったかァ?!」


 満身創痍の朱莉から向けられた苦し紛れの笑みと皮肉に、道化師こと狂死郎の形相が変わる。

「死ね」


 そして最後のナイフが朱莉に向け射出され、朱莉が目を閉じふっと笑って見せると――。


「やめろおおぉぉぉぉッ!!!!」


 少年の叫びが、そして小さな風の音が辺りに響き渡る――。



 朱莉に刺さる筈だった最後のナイフは不自然に弾かれた。

 いや、進路を変えたと言うべきだろうか......。

 曲線を描き、朱莉に刺さることはなく、背後の壁に突き刺さった。


「お前ぇ...今、何を......」


 朱莉は動揺を隠せず、口を開けたまま呆然としていた。


「進路を捻じ曲げた...!?」

(あのガキ...一体何をした? 風如きでナイフが軌道を変えることはない。 それに...確かに今、磁界がねじ曲げられたような......)


 狂死郎が気にかけたのは、微弱な風を起こしながらもナイフを捻じ曲げる力を発生させたということ。

 斥力や磁力は進路を曲げることは出来ても風を起こすことまでは出来ない。

 狂死郎にとって考えられる能力はひとつだけ...。

 それも最悪の可能性であった。

 少年の能力は――。


(...やはり波か! 僕の磁界に波紋を起こし、磁力の向きを無理やり捻じ曲げたのか!?)


 少年が磁界と共に大気に波を起こしていたのだとしたら、風が同時に吹いた事にも納得が行く。


「...朱莉クン、やっぱりキミは後回しだ。 まず僕はあの子を殺さなくちゃ行けない。」


「な! 待て、辞めろォ!」


 狂死郎は朱莉には目もくれず、最大加速で少年に肉迫する。

 それを見た少年は両手を目の前に構え、ただ冷静に呪文のような雄叫びを唱える。




『リペルッ!』




 その瞬間、狂死郎の身体はカーブを描き壁へと打ち付けられた。

 持てる限りの最高速度を有していた狂死郎の身体は、最早抵抗する間も無く壁へ強く打ち付けられる。


(まずい...!この能力だけはまずい!! 風なら空気抵抗のないもので攻撃すればいい、斥力なら圏外まで吹き飛ばせばいい、だがその能力、波の能力だけは......!!)


 狂死郎は徐ろに体勢を立て直し策を講じるが、そこに答えを見出す事など出来ずただ立ち尽くす。

 そしてそれが命取りになる事に彼は気付けなかった。


『バブルショットォ!!』


 狂死郎目掛け小さなシャボン玉が歪むほどの速度で飛びかかる。

「しまっ――」

 そのシャボン玉は狂死郎にぶつかると凄まじい爆風を生み出す。

 朱莉の渾身の一撃に気付かなかった狂死郎はその攻撃を諸に受ける。


「ぐはあッ! くそっ、こうなったら...」


 能力も間に合わず、またも壁に衝突した狂死郎は、何かを思い至る。

 しかし――。


(...この背中に走る悪寒...... まさか!?)

 

 物陰から感じた何者かの視線。

 それは冷たく、感情の読み取れるような物ではなかった。

 異質な気配に狂死郎は更なる悪寒を感じる。

 それは背筋が凍ると言うに相応しく、恐怖に顔を引き攣らせた彼は苦肉の策を取らざるを得なかった。


(なんだか厄介な事になっちゃったみたいだ... このままじゃあまりにも分が悪い)


 狂死郎はゆっくりと立ち上がり朱莉達に告げた。


「...しょうがない。今回は引いてあげるよ〜! でも...」


 そして狂死郎は再びニヤリと笑い――。

 

「次は殺すから」

 それだけを告げどこかへと去っていった。






「なんとかぁ...なったか......!」

 

 朱莉が疲労と出血からその場に倒れ込む。

 既に血液が不足し、動くことすら困難な筈だ。

 最後の一撃はきっと最後の足掻きだったのだろう。


(それにしても...最後確かに......)


 痛みからその場に倒れ込んだ朱莉は、狂死郎が逃げる直前に現れた不気味な気配について考え込んでいた。


「朱莉ー!」


「なぁに、大丈夫だ!俺らは破滅まで生きてりゃあ死ぬことはねぇ!」


 朱莉はそう言って119番に救助を求めた。

 確かに致命傷ではあったが、直ぐに病院へ行けば死ぬ事は無いだろう。

 だが、少年からしたら初めての戦闘、損傷であり、幼い彼に目を背けられるようなものでは到底なかった。


「ごめん、もっと早く動けたら...」


 身体が竦み、助けが遅くなったのは確かだ。

 だが朱莉は俯く少年に笑顔を向けて言った。


「そしたら今度はお前が死んでたかも知んなかっただろぉ、いいんだよこれで!...ありがとうなぁ」


 目に涙を浮かべ寄り添ってくる少年を、朱莉は優しく頭を撫でてやった。

 少年の産声のような涙は、降り出した雨と赤く光る車のサイレンによってかき消されていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ