29転目 意石
まず初めに、今回はかなり情報量の多い回となっております。
出来るだけわかりやすく書くつもりですが、全編においても非常に重要な回になりますので、読んでいただけると幸いです!
あれからしばしの時間が流れ、長い入院生活もようやく終わりを迎えようとしている。
今偽気達の部屋には、愛女と良太も来ているようだ。
「さて…別に退院って訳じゃないけど、今日で皆転生するから一旦はお別れだね」
「けっ!俺は別に一生さよならでも構わねぇんだがなァ!!」
暫しの別れの挨拶を告げる良太に普段通り悪態を着くのは、朱莉である。
「色々お世話になりました!」
「肝試しの件以外はお世話になりました」
「いえいえー、また頼んでくれればいつでも驚かせてあげるからねー」
深々と頭を下げる愛女とあの日以来夜が上手く寝付けなくなってしまった偽気に対し、良太は冗談交じりに会釈をした。
「さて…破滅の時までまだ幾らか時間はあるけど、何か聞いておきたい事はあるかい? これでも情報通だからね。多少は教えて上げられると思うよ」
「いいんですか? 前に情報は命にも関わる大切なものだって言ってたのに…」
「あーいいのいいの。君みたいなかわい子ちゃんに教えられるんならそれだけで充分さ! どっかのヤクザよりずっとお利口だしね」
「あ゛ぁん??」
メンチを切る朱莉など目もくれず、良太は二人に問い掛ける。
最早この光景も慣れたものだろう。
最初に質問をしたのは愛女だ。
「あの…何故才善さんは他の意石持ちを匿って下さるんですか?」
そんな事でいいのかと良太は一瞬首を傾げた。
「あ、あー。単純な話さ。僕が医者で、治療向きな能力を持っていた。ただそれだけだよ。僕なら偽気くんみたいな特殊な事例でも問題なく受け入れてあげられるからね」
自身に目線を送りながら話す良太に、偽気は訝しげな眼差しで問う。
「気になる事は色々あるんだけど…。先生ってさ、強いの?」
「んー」
良太は少し考え込むが、偽気を一瞥すると微笑みながら答えを返す。
「強いよ。でも元々戦闘向きじゃないし、戦うことは好きじゃないんだけどね」
一瞬、偽気がぞくりと総毛立つ。
何の変哲もない弱々しい身体をしているはずの良太から、何かを感じ取ったのだろう。
「ふふ、君たちは面白い事を聞くね。僕の異名は『黄泉比良坂』生と死の境界に存在するとされる世界だよ。全く…大層な名前を付けられ――」
「そ、それって二つ名だよな! やっぱ二つ名とかって強くなるとつくんだろ? なあ俺も強くなればそれ貰えるのかな!」
良太言葉を待ちきれず、偽気は爆発した好奇心を投げ付ける。
しかし、良太はその好奇心を前に再び熟考した。
「何を言っているんだい…? 君にはもうあるだろう?『終の使徒』」
一瞬世界が凍り付いた。
その不気味とも言える一言に誰もが口を紡いだ。
『終の使徒』
何度か聞いた言葉である。
しかし、当然偽気は異名など付けられた覚えはない。
静まり返った空気を破り去ったのは、先程まで静観を決め込んでいた朱莉であった。
「良太ぁ、こいつは一体何もんだ。教えてくれ」
その問いに、良太は再び熟考した。
「んー…それを答える前に君たちにはある物を教えよう。少し長くなるけどいいかな?」
「けっ、勿体ぶりやがって…。いいからさっさと教えろ」
これまで何度も仄めかされて来た偽気の正体。
朱莉の興味も限界を迎えていたのだろう。
足を揺すり頬杖を着きながら良太の言葉を待つ。
「これから僕が教えるのは、君たちも含め人間全員に備わっているある能力のお話だ。」
彼はそう言い放ち、清聴する皆を一瞥する。
「偽気くん」
「――はい!」
緊張の走る中、一人名前を呼ばれた偽気は慌てて返答する。
「君は、ここ何年かで……。要するに何回か破滅を繰り返す中で結構力を付けたみたいだね。それも能力だけではなく筋力や身体機能の話だ」
「まあ…結構鍛えてますし……」
偽気は彼の質問にあまりピンと来ていないようだった。
「ふむ…。なら何故、破滅を繰り返す中で君は戻ること無く成長出来ているのかな?」
「それは……」
その言葉に、偽気は何も返せなかった。
肉体毎過去に戻っているのなら、転生の度に傷が消えている事の説明が着かない。
現に今はまだ傷だらけだが、今日の破滅が来ればすっかり元通りになっているはずである。
「そう、それだけじゃない。記憶や経験、知識だって身体が元あった物に巻き戻っているのなら持ち得ない筈だ。なら何故君達がそれらを持ち得ながら過去に戻れるのか…」
皆の全神経が彼に注がれた。
「勿体ぶってごめんね、簡潔に教えよう。それは魂本来の力だ。魂はね、蓄積されている経験や知識、あらゆる物を保存し肉体に還元する事が出来るんだ。そして僕はこれを『魂保存の法則』と呼んでいる。 でもこれは普通の人には成し得ない。この力を引き出す為には君たちの持つ『意石』が必要だ。
正確に言うと、君たちの魂はあらゆる情報を持ちながら意石の中に保存されている。意石はタイムマシンの様な物なんだ。だから君たちは過去に戻っても記憶を失うことは無いし、その君たちが死ねば魂は行き場を失い意石も捌け口を失い砕けてしまう。」
良太の話す恐ろしくも説得力のある言葉に一同は息を飲んだ。
「この石が何故意石と呼ばれているか…。それは魂…つまり意思を保存する為の入れ物だからだ。ここまでは大体理解出来たかな?」
偽気達は小さく頷いた。
「いいね、みんな優秀だ。それじゃ、もう少し踏み込んでみよう。
何故意石持ちが死した時、誰もその事を覚えていないのか。
そして何故失った事を認知出来るのか。
これは単純だ。
仮に朱莉くんが死んでしまったとしよう。その場合、君たちは朱莉くんを忘れる。
だけど、経験した事や共に居たという記憶だけは残り続けるんだ。だから写真からその人だけを切り取るみたいに記憶にはぽっかりと穴が空く……。
まるで今の偽気くんみたいにね」
皆は清聴を続ける。
何故自身が仮に死なされるのかとツッコミを覚えた朱莉でさえ言葉を発することは無かった。
「さて、そこで編み出されたのが『異名』だ。本人とは異なり、死した者がいたという足跡を指し示す為に産み出された名前。これは人ではなく、事象や軌跡を表す言葉だから仮に死しても異名は残り続ける。
そして――」
皆、次の言葉に大きな期待と不安を膨らませた。
その先に、偽気の答えがあると確信していたのだろう。
そしてそれはその通りだったのかもしれない。
「偽気くん、多分君死んでる!」
「……は?」
予想だにしなかった彼の結論に、偽気は腑抜けた声を漏らしたのだった。
今回の小話はキャラクター紹介です。
キャラクター紹介⑤ 才善副院長
名前 才善 良太
能力 魂
年齢 23歳
身長 176cm
体重 64kg
好きな食べ物 カップラーメン
嫌いな食べ物 野菜
趣味 ドッキリ
座右の銘 医は仁術
イメージソング なし