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破滅転生譚  作者: chalk
第四生 道化の涙
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28転目 幽霊

 本物の幽霊の存在を仄めかされ、凍りつく一行。

 季節は夏だが、彼らは皆凍てつく空気を肌に感じていた。


「ゆ、幽霊ってほんとにいるの……?」


「と、とにかく追い掛けて見よう」


「お前ぇ…意外とこういう時行動力あるよな……」


 恐怖に足を竦ませながらも、偽気は女性がいたという曲がり角を恐る恐る進んで行く。

 そんな姿を見た二人も渋々偽気の後を追い掛けた。


「確かにこの辺りで……」


 偽気は先程の人影を追い求め、廊下を散策していく。

 その時――。


「かえせ……」


「え…? あかりん何か言った?」


「お、俺は何もぉ…。偽気ぃ、お前…なんか言った――」


「引き返せ……」


「……え?」


 愛女と朱莉は、野太くおぞましい声を聞いてしまった。


「どうしたの? 二人とも」


「い、いや! 今後ろから声がぁ……後ろ?」


 朱莉はハッとして振り返るが、そこには誰もいない。

 愛女も、それに気付き戦慄する。


「ど、どうしたんだよ二人とも…。まさか幽霊?」


「ご、ごめんなさいごめんなさい何も悪いことしませんから食べないで…!」


「ゆ、幽霊なんかに食われて溜まるか!! ふざけやがってェ、出て来やがれ!!」


 二人がいくら叫ぼうと返答はない。


「なぁ…やっぱ引き返した方が……」


「でも幽霊が言ってることなんて信じていいの……? 逆に誘われてるなんて可能性も――」


 愛女がその問いを投げかけたその瞬間、廊下にある一室の扉が開き始めた。


「「「ひっ…!」」」


 三人は再び凍りつく。

 互いに身体を寄せ合い、開かれた扉に目を向けた。

 その部屋は副院長室である。


「ど、どうしようあかりん…」


「どドドどうするったってお前――」


「助け…て……」


「「「ひいいいい!!」」」


 突如空いた扉から聞こえてきたSOSに、三人の心は限界を迎えていたのだろう。

 愛女は涙を目に浮かべ、偽気は足が竦み、朱莉のズボンは心做しか濡れていた。

 一行は恐る恐るその扉へ近付く。

 そこに何が待っているかなど知りたくも無いはずだ。

 しかし、ここまで来て引き返すことなど出来るはずがない。

 彼らは既にその恐怖の虜になっていたのだ。


 偽気が扉をゆっくりと除く。

 後ろの二人もそれに合わせ扉の先を見渡すだろう。

 それが間違いだったのだ。

 そこに待ち受けていたものは――。


「才善さ…ん……」


 天井からロープを垂らし、その先に首を掛け宙を浮く副院長の姿であった。


「「「ぎゃああああああああ!!!!」」」


 一行は叫んだ。

 ただひたすらに畏怖し、その恐怖を――。


「呼んだ?」


「「「ぎいいやああああああああああ!!!!」」」


 突如こちらを伺い声を掛けてきた才善良太に、一行は更に声を上げた。


「あっははははごめんごめん! ちょっとやりすぎちゃったかな?」


 笑みを浮かべる良太は、首元に巻かれたロープなど意にも返していないようであった。


「ややややややりすぎも何もあなたなんでそんな平然としてられるの?」


 声が上擦りながらも、愛女は良太に話しかける。


「ああこれ? もう大丈夫だよ、ありがとう!」


 良太はその虚空に向けて語り掛けた。

 するとそこには、ロープの輪を掴み気道を確保する男と、良太を担ぎ宙に浮かせていた男が現れた。


「いやぁ、ご苦労様! お陰で面白いものが見れたよ!」

 

「あんた…相変わらず趣味が悪いな」


「よく言われるよ」


 良太はロープを首から外し、地面に着地する。

 彼が親しげに話している男たちは、よく見れば少し透けているように思える。

 そんな様子を一行はただ震えて見ている事しか出来ずにいた。

 朱莉に至っては泡を吹き気絶している始末である。


「ごめんごめん! 彼らは僕が一時的に具現化した魂…言わば幽霊さ!」


「「納得出来るかァ!!」」


 度肝を抜かれていた偽気と朱莉も思わず声を上げる。

 そんな様子に良太は笑いながらも再び語り始めた。


「前に朱莉君が暴露した僕の能力覚えてる?」


「た、確か…死者と会話が出来るとか……まさか!!」


「そう、僕の意石は〈魂〉。死者の魂と会話をしたり、少しの間具現化する事が出来る! 何やら君たちが面白そうな事をするって幽霊から教えて貰っちゃってさ! だから協力してあげようと思って!」


「「よかったぁぁぁ!!」」

 

 驚く二人に得意げな表情で説明をする良太に対し、肩の力が抜けた二人は抱き合いながらもその場にへたり込んでしまった。


「…それにしても朱莉は相変わらずだね」


 泣きじゃくる子供達を他所に、良太は地べたに倒れ込む朱莉の頬を小突く。

 そうしてようやく目を覚ました朱莉は文字通り飛び起きた。


「うわああああああ!!!!」


「いや、もうお化けいないから安心しなよ」


「て、てめェ! またはめやがったな??」


 起きて早々の朱莉だったが、良太の胸ぐらを掴みかかり鬼の形相で睨みつけた。

 しかし良太は動じる事もなく、身体をひらひらと勢いに委ねていた。


「いやぁ、そもそも僕のいる病院で肝試しなんかやるのが行けないんじゃないか」


「てめェのそういう所がムカつくんだよこの野郎!」


「まあまあそう言わずにさ! 楽しかったでしょ?」


「ンな訳あるかァ!!」


 幾ら朱莉が怒鳴りつけようと、彼の態度が変わることはなかった。


「ま、まあ…一先ず一件落着って事なのかな?」


「そうだね、まさか幽霊なんている訳無いもんね!」


「いやまあ一応さっきの幽霊なんだけどね…」


 上手く現実を受け止められずいる二人に対し、良太は静かに突っ込んだ。


「てことはさっき引き返せって言ってたのも才善さんの仕業ですか?」


「そうそう、魂に協力してもらったんだ! お陰で面白いことが出来たよ!」


 各々思う所はありつつも、事情が分かった一行はいつものテンションを取り戻していた。


「な、なんか釈然としないけど。それなら俺が見た女の人もその才善さんの――」


「え、何言ってるの?」


「「「……え?」」」


 この時までは……。





 


  

「僕、女性の魂なんて具現化してないけど…」



 

 この時、才善を含め四人の表情は徐々に影を落としていった。


「まさか…」


「じゃああれって……」


「い、いやぁ…本物の幽霊って……いるんだね!」


「「「ぎゃああああああああ!!!!」」」


 再び部屋は阿鼻叫喚の地獄を取り戻した。





 

 一方ここは賑やかしい部屋の外……。

 足の透けた黒髪の女性が、くすりと微笑えみそのまま何処かへと去っていった。

今回の小話は肝試しのその後についてです。


流石に騒ぎすぎた彼らは、駆けつけた看護師によってこっぴどく叱られました。

もちろん良太も含めての話です。


結局偽気達は夜中の外出を禁止されてしまい、偽気が見たという女性の真相は分からずじまいでした。

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