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破滅転生譚  作者: chalk
第四生 道化の涙
23/33

21転目 天使

 転生後、初めに訪れた丑三つの夜。

 ここは若者色に染まった渋谷の街だ。

 まだ世界の崩壊など知るはずもない街人たちは、我が住処はここにありと、ネオンライトに溶け込んでいた。

 そしてその街の一角では、一風変わった姿をした長身の男が歩いていた。

「さてと......」


「...なにあれ!」


「今どきピエロ...?」


「芸人さんかな。

 写真撮っとく?」


 杖を突き、鼻歌を歌うその男を、周囲は人々は物珍らしげに見ていた。


「ギミックは上々。情報も手に入れた。そろそろ――







 殺ってもいいよね。

 朱莉。」


 ひょうきんな笑みを浮かべたその男は、小さく呟き、人混みの中へ消えて行った。




 ――――――――――――――――




 時刻は少し遡る。

 雀が朝を告げる頃、朝飯時の偽気達はまたも朱莉の家に集まっていた。


「わんだら!飯だぞ!」


「メェシだあああ!!!!」


 1ヶ月ぶりの房州弁で一同を駆り立てるのは、朱莉の父 剛だ。

 剛はその豪胆な外見とは裏腹に、唐突に招き入れた2人を訳も聞かずに受け入れていた。

 3人の覚えていた罪悪感も彼のおかげでいくらかは和らぐようで、昨日より自然と寛いでいた。


「にしても朱莉ぃ、こがんちゃっこいおなご連れてくるけぇなぁ」


「んだよ親父文句あっかァ!?」


 父 剛は、息子を見るや不安そうな趣で問うた。


「お前...ロリコンだっ――」


「違ぇよ!!」


「ガハハハハッ!! 冗談に決まってるっぺ! まあわんだらも好きにくつろいでけぇ!」


 「「ありがとうございます!」」


 朱莉の憤りも虚しく軽くあしらわれてしまう。

 2人はそのやり取りでひと笑いすると、目の前に出された御膳に箸を運ぶ。


「「いただきます!」」


 その後剛は、少しの談話を挟み二人に挨拶をすると、足早に仕事へ出向いた。


「あの親父...初め俺を汚物でも見るかのような目ぇしてなかったかぁ?」


 事実、最初に引き連れてきた時は誤解をされていたようだが、ヤクザ顔の朱莉が一回り小さな女の子を連れていれば一般市民なら通報すらされてもおかしくはないだろう。


「それより、見たんだろぉ? 月詠」


「うん...来るよ、あかりんの探してる人。」


「あ、あか......もういい、やっぱり来やがるんだなぁ」


「狂死郎さんか...」


「なんであいつはさん付けなんだよ!」


「それで...いつ来るの?」


「無視かよ!!」


 朱莉は自身があかりん等と呼ばれていることが未だ気に食わないようだが、最早その願いが叶うことはないのだろう。

 愛女はそんな彼を他所に、自身の見た神託を淡々と話し始めた。




 ――――――――――――――――――




 そして時が流れる事、1週間――。


「ここかぁ? あいつが送ってきた住所は...」


 昨晩、今まで何一つ音沙汰のなかった狂死郎から、勝浦 朱莉に向けて一通のメッセージが届いていた。

 住所のみが書かれたメッセージだが、その意味を朱莉は直ぐに理解した。


 そうしてやって来たのは住所の指し示す立体駐車場。

 ここは既に老朽化が進み工事の予定もたたぬまま廃ビルと廃車だけが残された場所だ。


「俺たち、本来ならここで殺されてたんだな...」


「んー、まぁそうなるなぁ」


 愛女が見たお告げでは、この場所で二人は有無も言わせず殺されていたそうだ。


「さあ偽気ぃ、そろそろだ。気ぃ張ってけ!」


「あぁ...準備バッチリだ!」


 用心深く立体駐車場の探索を続ける二人。

 寂れたこの場所では、人為的な音など何一つしない。

 二人の足音が駐車場内に反響し、恐怖を駆り立てる。

 そして二人が三階へ足を踏み入れ、吹き込んだ風の音がより緊張を高めたその時――。


 二人を中心に、周りに置かれた廃車たちが悲鳴を鳴らしながら押し寄せた。


「偽気ぃ!」

「任せろ!」


『クレイグ!』


 偽気が手を床にあて、波を起こす。

 既に脆く廃れていた床は、容易く二人の足元に穴を開く。


『エアロドロップッ!』

 

 二階へは朱莉のシャボンで無事着地するが、当然引き寄せられた廃車郡は二人の頭上へ落ちていく。


『バブルバレットォ!!』


 予測していた朱莉は廃車の群れへ無数のシャボンを打ち上げる。

 降り注ぐ廃車は須らくシャボンに弾かれ、辺りに散っていった。

 しかしそれらは轟音とともに古びた柱、壁、ヒビだらけのコンクリートに叩きつけられた。

 その衝撃に耐えられなかった建造物は、支柱がへし折れ、預けるものを失い雪崩のように崩壊を始める。

 朱莉達の立っていた地面も一層崩れ、二人は地上へ落下する。


「や、やべぇ! やっちまったァ!」


「は、早くここから出なきゃ!」


「無茶言うな! 上の何とかしろ偽気ィ!」


「ダメだ...こんな量今の俺じゃ流しきれない!」


「クソッ!間に合わねぇ...!!」



 廃車や瓦礫の群れは、嬉々として2人を埋め尽くす。

 その様はさながら非力な猛獣使いを食い殺す獣だろうか。


「うわああああああああ!!!!」


 転落を続ける二人は、身動きの取れぬまま崩れゆく天井や廃車に押しつぶされて行く......。

 二人の叫び声も、崩れ落ちる音にかき消され、やがて静寂が訪れた――。




「いい眺めだね〜 ここまで声が聞こえないのが実に残念だよ」


 隣の廃ビルから二人の状況を観察していた道化師が口を綻ばす。

 呆気なく散った二人の終わりを見届けると、気狂いピエロはそのまま悦に浸るだろう。


「あとは君のお父さんだけ。これで...やっとボクは過去を消せる......」


 彼の笑顔に僅かずに哀色が滲んでゆく。

 朱莉の存在が消えるその瞬間まで、彼は消え去る思い出に身を寄せる――。




「...?」

 狂死郎が虚空へ手を突き出すと、伸ばされた腕にの先に首を捕まれた少女が現れた。


「...!!」


「キミの存在は理解っていたよ〜 前期まではその為の準備だったんだから」


 愛女が首を締められ息苦しさに身を捩る。

 しかしその力は弱く、もがけばもがくほど狂死郎の手に力が強まってゆく。


「苦労したよ、君の情報中々出てこないんだもん! でも、これで君もようやく楽になれるね〜」


 次第に愛女の抵抗は力を失い、ついには指ひとつ動かすことも叶わない。

 愛女はそのまま暗くなる視界の中に身を委ね、とうとう事切れた。




 はずだった――。


 亡骸となったはずの愛女がふと微笑む。


『フェザータッチ』


 身体と思われたそれは、羽根となり飛散する。

 更にそれらは狂死郎を取り囲むように宙を舞い、鋭利な尖端を狂死郎へ向けると群れをなし一斉に核へ襲いかかる。






 ――――――――――――――――

 ――――――――――――――――


 朱莉宅。

「...と、ここまでが私達が死ぬまでの未来よ」

「なんか、自分が死ぬ未来を聞かされるってちょっと怖いな...」

「まぁ、あんまいい心地はしねぇわなぁ...」


 愛女が語る未来は実に鮮明に情景を描き出し、2人の恐怖を駆り立てる。

 しかし愛女は、それも想定済みだと言わんばかりに微笑む。


「安心して、ちゃんとどうすればいいかも分かるから」


「す、すげぇ...」


「さすがは忍者だなぁ!」


 いたずらな愛女の笑みにまんまと乗せられた男二人であった。


「まず前提として、あなた達本人があの駐車場に入ればほぼ確実に殺されるわ」


 どうやら、あの立体駐車場自体が崩落寸前のようで、そう強くない磁力や衝撃でもあっさりビルは崩落するようだ。

 さすがに瓦礫の山となってしまうのであれば、朱莉も偽気も回避は困難だろう。


「んー、じゃあ狂死郎さんのいるビルへ直接殴り込むか!」


「なんでお前は時々口調が荒いんだぁ...?」


「それもいいけど、奴はどうやら探知系の技を持ってるみたいだからそれじゃあ不意は付けないわね...私の事もバレてるみたいだし」


 二人の漫才も今となってはあっさり躱され、愛女はそのまま話を続ける。


「...じゃあどうするの?」

 

「偽気くんは、私の能力って覚えてる?」

 

「翼の意石だよね...?」


「そう。翼に出来ることは主に四つ......。


 空を飛ぶ事。

 抜け落ちた羽根を自在に操る事。

 羽根の重さや形、強度を変えること。

 そして――


『色彩を自在に変える事』よ!」


 自慢げになびかせた翼からは、多くの羽根が七色に輝き舞い落ちてゆく。




「......お前ぇ、その羽根後でちゃんと片しとけよ」

「あ...」


 ――――――――――――――――

 ――――――――――――――――




「ぐッ!」


 今しがたの羽根による攻撃を受け後方へ飛び退く狂死郎だったが、そこは廃ビルの窓の外。

 狂死郎の身体が宙へ浮く。


(この女......!! 翼の色調を変えてデコイを作ったな...?)

 狂死郎を強襲した愛女同様、狂死郎が遠目で見ていたビルの2人は、羽根で仕立てられたまがい物。

 とはいえ能力も使えない偽物では、狂死郎欺くには及ばない。

 だが彼女は、ビルで生じる事象、それ事態を羽根のスクリーンで映し出していた。


(ボクの感知が駐車場で反応していたのはおそらく羽根に血を染み込ませてあったからだろうね...なら感知の精度も割れてるか)


「まさか...ここまでの羽根を操る事が出来るとはね〜 ...?」


 狂死郎の飛び出した更に上、日出る炎天から影が1つ。

 そのどす黒い羽根を広げた天使。

 彼女は愛女だ。


「あら、まだ何も終わってないわよ?♡」


 ビルの事象を映し出す程の大きなスクリーン。

 それ即ち膨大な羽根を浮かべていたということだ。

 そしてそれらは彼女の意のままに動き出す。


 羽根達が、舞い降りた天使の元へと還る。

 だがそれだけには留まらない。


『...フェザースコール!』


「...マジか!」

 自由落下を始めた狂死郎へ、無数の羽根が飛び掛かる。

 1枚1枚が鋭い針の雨と化したそれらは、ためらいもなく地面まで降り注いだ。


「ふふ。呆気ないのね、ピエロさん。忍びの技は、どうやらあなたの芸より優秀だったみたい」


 愛女は高らかに嘲る。

 まさに天高く。


 破滅を繰り返す現世の街に......。

 最も黒い天使が降臨した――。

今回の小話は〈翼〉の意石についての解説です。


意石によって生み出された羽根は、抜けば10分程で生え変わり、又抜け落ちた羽根も1時間は術者の手中にあるという。

また、1時間を過ぎた羽根は次第に消えて行く為、自身の手を離れた羽根を残し続ける事は出来ない。

翼は約3000枚程の羽根で形成されており、1枚1枚がそれなりに大きい。

飛行に必要な羽根は約1000枚程。

術者の操る羽根は

・硬度:綿から鉄くらいまで

・重さ:一枚につき0.01gから100gまで

・形状:大きさも多少変えることが出来る

・色彩:練度次第で大きく変化する

を自由に変えることが出来るので、羽根で軽い剣を生み出したり、カメレオンの様に姿を隠す事も可能です。


ただ、羽根を抜くのには痛みを伴い、抜く度に意識が少しずつ遠ざかって行き、最終的には気絶に至ります。

愛女がポンポンと羽根を抜くことが出来るのは、忍としての鍛錬や今までの苦難の末手に入れた並々ならぬ精神のおかげでしょう。

さらに、羽根は操れると言ってもパワー自体はほとんど無い為羽根1枚で人間を浮かせたり、物を運搬すると言った事は出来ません。

術者に飛行能力があるのは、あくまで背中に翼として羽根が集まっている時だけです。

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