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破滅転生譚  作者: chalk
第三生 偽りと愛
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19.5転目 求愛

 私は忍だ。


 睡眠時は常に身を隠し、僅かな風の音でも目を覚ます。


 食事は短時間で作れるものを中心に自分で作る。

 家はあるが1箇所に居続けては危険な為、基本空き家を転々としている。

 外に出る時は必ず姿を消し、物音は一切立てない。


 母が死んでから約6年......。

 あれから誰かと会話をする機会はあっただろうか。


 確かに、ないと言えば嘘になる。

 だがそれは全て命を狙われている時だけだ。

 生きた心地がしない。


 痛い。

 辛い。

 重い。


 私は寂しさを感じた時、ふと家族の事を思い出す。

 父の優 母の愛 幸せを一つ二つと数えるように......。


「あ...」

 

 私は声を漏らした。

 またひとつ、家族との思い出が減っている。

 今度は何を忘れたのだろうか、それすらも分からない。

 ただ抜け殻になった頭の隅の記憶が、力なくそこにある気がした。


 今私は、止まった時の中で生きている。

 誰と話すわけでもなく、ただ逃げ延びる生活の中でひたすら大切なものを失い続けている。


 いっそ死んでしまいたい。

 それでも、忘れゆく記憶の中で唯一鮮明に保存された「生きて」という母の言葉が頭から離れない。


 母、思い出、本能、月詠、意思......。

 私は、一体何に生かされているのだろう......。

 薄れゆく記憶の中に生き続ける私は、これからどこへ向かうのだろう............。






 こうして又......。

 破滅がやってきた。






 私はまた、生きるため、自分が記憶の中に居続けるために、月詠で見たあの少年へ会いに行った。




 彼は、ひどくみすぼらしい格好をしていた。

 自分より歳下であろうその少年は、老人のような灰色の髪。そして、見るからに大きすぎる服を着ている。


 穴だらけの靴。

 傷だらけのズボン。

 所々に継ぎ接ぎのある上着。

 よれてだらしなくなったシャツ。

 これから助けを求めるにはあまりにも頼りがない。

 だけど彼の表情は明るくて、どこか未来を見据えるような美しい目をしていた。


 私は酷く心が痛かった。

 怒りなのか悲しみなのかすら分からないその感情に、私は押しつぶされそうになった。




 少年がどこかへ向かおうとしている。

 きっと私はそこへたどり着けない。

 何故かそんな気がした。


 必死だった。

 頭は真っ白で、なんて言い出せばいいのかも分からなくて、瞳にはただその少年だけが映っていて。

 私は、ただ慌てて......。


 少年の手を引いた。




「一緒にデートしよ?」


 涙が溢れ出るのを必死に堪えて、私はそこから逃げるように立ち去った。

 そこに何があるのかも分からぬまま......。




 神様。

 どうか今日だけは......。


 私に、新しい思い出をください。

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