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破滅転生譚  作者: chalk
第二生 孤独な少年は世界に叫ぶ
2/33

2転目 転生

 あまりにあっという間の出来事に少年の脳は追いつかず、気が着いた瞬間目の前に写った光景でさらに驚かされることとなった。

 それもそのはずだろう。

 いきなり光に飲み込まれたと思った矢先、先刻までいた場所とは似つかぬ場所に立っている。

 空も明るい。

 太陽の位置から現在の時間は、午前6時頃と言った所だろうか。

 そして更に驚くべきは、今自分が見ているこの光景。

 少年は何故かこれから起こることを当然のように知っていた。

 そう。今目の前の木からセミが飛び立つタイミングも、遠くから聞こえ出す子供たちのはしゃぎ声も。

 デジャヴュとは違う。知っているようであった。




 しばらく呆然としていた彼だが、程なくして宛もなく歩き始めた。


「何だ、ここ...?」


 未だ起きたことに検討がつかぬ様子で、少年は滅茶苦茶な考察を繰り返す。

 普通ならここで夢でも疑うだろうが、夢と呼ぶにはあまりにも鮮明、聡明、孔明であった為、そもそも「夢」という疑いに行き着きもしなかった。


 しばらく川の堤防の上を歩き続けた彼だが、ついに足を止める。

 まるで何かを思い出したような...そしてそれを忘れようとするような、はたまた何かを諦めるような......。

 少年は頭の中で一言呟く。


(まあ、なんでもいっか。俺はもう......)


 少年は、一向に整理の着かない頭に何かを言い聞かせる。

 しかしその様は何も無い空洞に冷たい風が吹き抜けていく様な寂しさを帯びていた。


 暫く考え込んだ後。

 少年は1ヶ月前のこと、つまりこれから起きるであろう事件を思い出した。


「...あれ?そう言えば、ここって――」

 何か嫌に心がザワつくその記憶は、唐突に――。




 それは砂ぼこりを撒き散らし、突風を呼び、爆音と共に目の前に現れるのであった。




「...おいおいまじかよ?!」


『連続殺人事件』

 少年の記憶が正しければこの時期は丁度そんな物騒なワードがテレビで連日話題になっていた頃だ。

 少年自身も、あまりの事の大きさに、噂ながらもある程度のことは知っていた。

 そしてこの場所は正にその現場の傍だったが、何せ先の事がある。

 まさか今自分のいる付近がこれから殺人事件の起こる現場だとは気づきもしなかったのだろう。


「お? こんな所に人なんて前回はいなかったよなぁ」


 目の前に現れた男は、いかにも何かやらかしてそうな厳つ〜い顔とどう見ても修羅場をくぐり抜けてそうなごつ〜い傷だらけの身体をした20歳前後の大男だった。

 そしてその男は右腕に不可思議な樽を取り付け、奇妙なことを口走りながらこちらを睨みつけてくる。



「ガキィ、お前も意石持ちかァ?」


「意石?」

 一体なんの事だろうか。

 唐突な質問に戸惑う少年だったが、男は考える間も与えず言葉を続けた。


「まあ!こんなガキ1匹が何を持ってようが何も変わんねぇか!」


 しかし、少年に今この男の会話など全く入ってはいない。


(何あのイカついおっさん......! しかも腕の樽何!? ファッション? ファッションなの!?)


 樽を取り付けた男は何かをずっと喋っているが、周囲で異常な事が立て続けに起きている少年には会話を聞く思考力など残っていない。

 ...というか、ヤクザのような風貌の男に対してのツッコミで手一杯なのだろう。


(ああいう大人ってろくな奴いないし......てか顔とか傷だらけじゃん! ヤクザ!? あれは関わらない方が身のためだな! 適当な理由つけて逃げた方が良さそうだ。うん、そうしよう。)


 別にビビってなんかないけど? という心の声が聞こえなくもないが、どちらにせよ手遅れだ。

 先程からずっと無視を決められていた大男は、既に怒りの臨界点に達していた。


「いや聞けよッ!!」


「あ...」


「ふざけやがって! ぜってェ許さん!!」

 

 自身の過ちに気付き一筋の汗を流す少年だったが、大男に慈悲などない。

 彼は更に激高し、怒鳴り続ける。


「ぶっ殺す!」


「わ、わわわわるかった! 頼むまままってくれ!!」


「ダメだ! 待たん!!」


 大男が腕に取り付けられた樽をガチャガチャと弄りだし、少年に無慈悲な予告をする。

 しかし少年が何を言う間もなく驚かされたものは、その唐突な死の宣告...ではなく。



 こちらに向けた右腕から放たれた――。

「喰らえッ! バブルバレットォォ!!」


 樽から放たれた無数のシャボン玉である。


「...ん? ..........ん??」




 男の怒声にも聞こえるその叫び声も虚しく、樽から放たれたシャボンはただただゆっくりと少年に近づいてゆく。


「なんだ...? これは.......」


 威勢のいい叫び声と裏腹に飛んできたそのシャボンを見つめ、思わず少年は笑いを吹きこぼす。


「ぷっ...あっはははははははは!!!! なんだよシャボン玉って! シャボン玉って!!」


 しかしそれもつかの間。

 しばらく呆気に取られていた少年だったが、それが命取りとなる。


「...え?」


 ぷかぷかと呑気に浮かんでいたシャボン玉の群れは、少年の1m手前程まで来た所で様相を変える。

 1つ、また2つと張り裂けるシャボン玉は、轟音を掻き立てながらやがて炸裂する。

 弾けだした宙に解放された爆音と爆風が小規模に、且つ激しく広がった。


 少年はその爆風に煽られ、髪が逆立ち頬は波打つ。

 加えて体はそのまま後ろへ飛ばされてしまう。

 地面に背を叩きつけられ、二三転身体を転がしてから何とか身体を起こした少年は、しばらくの沈黙を置き、やがて言葉を漏らす。


「嘘だろ...!?」


 確かに何の変哲もなく思えたそのシャボン玉は、直撃すれば間違いなく致命傷になりうるであろう爆発力を持っていた。

 5m程後ろに吹き飛ばされた少年が、堪らず腰を抜かす。

 割れると爆発するシャボン玉に、それを打ち出す樽型の機関銃など聞いたことも無い。


 いや、それ以前に......。


(何この人躊躇いもなく俺を殺しにかかってんの?!)


 頭の中では先程から膨大な数のツッコミがひっきりなしに続いており、彼の脳はショート寸前だ。


「そらそらァ! どしたァ!? そんなもんか!!」


「ぎゃああああ!!!!」


 しばらく繰り広げられた地獄のチェイスの末、少年は土煙に紛れやっとの思いで茂みに隠れる。


「落ち着け! 俺は正常だ! 俺は正常だ!」


「ドォコ隠れやがったァ!? さっさと能力みせろやァ!!」


 鳴り止む事の無いシャボン玉の炸裂音と銃声? そして叫び声の中、少年はついに我慢の限界を......。

 というか最早考えることを放棄し、怒りのままに荒い口調で抵抗を見せる。


「うっるセェなァァァ! てめぇは誰でここはどこで何が起きてて能力ってなんなんだよォ! そもそもなんで俺を狙ってんだァよォ!!!!」

 但し身は隠したままである......。


「なんだぁ? お前...あいつの刺客じゃないのか?」


 彼は誰かと勘違いをしているようだ。

 そして男は続ける。


「てかほんとになぁんも知らねぇのか? こんだけループしてて未だになんも知らん奴がいるってのか! こりゃ傑作だな!!!!」


 男には少年が可笑しく見えたらしくしばらく壺にハマって笑っていたが、ひとしきり笑うとそのニヤケ面を崩すことなく語り出した。


「この世界はなァ!? もう死んでんだよ! そして俺らはなァ! 選ばれた人間なんだよ!」


(...何言ってんだ?あいつ)

 思わず顔を引きつる少年だったが、ひとまず表には出さず相手の言葉を待つ。


「てめぇも持ってんだろ? この欠片ぁ」

 男はそう言って薄黄色に透き通り、淡く光る小さな石を取り出した 。


「この欠片があればなぁ、俺らは生き伸びることが出来て、しかもこんな素晴らしい能力も手に入るのさ!」


 そう言うと男は腕に着けた樽を取り外し、その樽に隠れていた手のひらから綺麗な結晶の様な塊を作り出すと、その美しい結晶を破裂させ輝く光の粒を生み出して見せた。のだが......。


「あ、ごめん見てなかった」

 当然ひとりでにそんな芸当予告もなしにやられた所で隠れている当人には見えるはずもないのである。


「なにィ!? てかてめぇ! いィつまで隠れてやがる!」


「いや普通命狙われたら隠れるからね!?」

 突然ヤクザの様な男に絡まれて命を狙われているのだから、少年からすれば当然である。


「わァったわァった! なんかその...妙に図太い所、気に入った! もう撃たねぇよ!」


 相変わらずのけたけた笑いで男が答える。


「ほんとか!?」


 男の上機嫌さからあまり嘘を言っているようには見えなかった。


「じゃあそっち見に行ってもいいのか?そのぉ......」


「意石の能力だ! こっち来い! ガキンチョ」


 先程殺しにかかった男とは思えぬ程清々しい顔に戸惑いながらも、少年は茂みから顔を出す。

 そして恐る恐る近付くが、男に肩をガッツリ組まれ、一瞬心臓が破裂する様な錯覚に陥る。


「ひぇ!」


「何ビビってんだよ、もう撃たねぇっつったろぉ?」


「は、はい...」


 そう言われて不安が消える訳でもないのだが、一先ずは安心して良さそうだ。

 男の反応は正しく友達に自分の特技を自慢するようなものであった。


「んで、この欠片の力を使うとだな...」


 そう言って手のひらを上向きに広げると、手のひらにまとう液体が浮き上がる。その液体は踊るように動き出し、だんだんと膨らみ出した。

 男の手はよく見ると何かの液体に濡れていた為、恐らくはあの樽の中に球体を作り出す為の液体が詰められていたのだろう。

 そして......。


「さっきのシャボン玉...」


 プカプカと浮かぶシャボン玉、それは先程爆裂しまくっていた球体に他ならなかったが、今回は割ったところでただ弾けるだけのようだ。


「つまり、これが俺の能力だ! すげーだろ!」


 得意気な顔をする男だったが、あまりにも顔に似合わぬ能力のせいか、又その子供のような笑顔からか、不意に笑いが零れかける。


「そ、そうっすね、凄いっすね!」


「お前今笑ったろ」


 必死に堪えたつもりだろうが、あっさりと見破られてしまった。


「...ちなみに、さっきの爆発ってどんな仕組みなんすか?」

 少年が話題を逸らすべく、慌てて尋ねる。


「あぁ、あれな、細かく言うと俺の能力は【張力】なんだわ。

 張る力を自由に操れるわけだ。

 んで、さっきの樽あるだろぉ?

 あれはシャボン玉のタンクと同時に、中の気圧を急激に高めてくれる装置になってる!

 つぅまり!中の気圧が異常に高いシャボン玉を能力で無理矢理作り出して、そのシャボンを割ることで気圧が解放され爆発に至る...」


「意外と頭いいんですね」


「意外で悪かったなァ!」


 つい心の声が漏れる少年に、男はゲンコツを入れる。


「いてて......あ、あと世界が終わってるってのは...?」


「お前ほんっとに何も知らねぇんだな...端的に言うぞ? この世界はなぁ、もうすぐ滅びるんだ」


「...え?」

 呆気に取られる少年を他所に、男は続ける。


「あぁ、今から一ヶ月後にな。んで、この欠片を持ってる人間は地球が滅んでも1ヶ月前に転生することができる」


「お前何回か、丁度今日を周期に一ヶ月に1回変なこと無かったか?」


「...何回かはないですけど、今日は確かにありました」


 あまりに非現実的だったが、心当たりは確かにあるようだ。

 赤い光、瞬間移動、未来予知、そしてこの騒動である。

 これだけいきなり起こってしまっては結び付けずには居られないだろう。


「お前、今回が初なのか? そんなはずないと思うんだがなぁ」

 

 男は顎に手を当て考え込む。


「...まあ、でもなんとなく分かった気がします! まだ信じ難いですけど...とりあえずそう思っときます! ありがとうございます!」


 自分は死んで、一ヶ月前に転生した。

 その事は何となく理解出来てはいた。

 しかし少年はその欠片の力と言うものに覚えがなかった。


「最後に、その.....もう1回意石っての見して貰えませんか?」


「お、いいぜ!」


 そう言って男がポケットから欠片を取り出したその瞬間――。


「今だくらえッ!」


「おわ! ちょ! てめ、てめェ!!!!」


 少年はいきなり男を突き飛ばし、これでもかと言わんばかりのタコ殴りを始める。


「さっきはよくも殺そうとしてくれたな!!

 この連続殺人鬼が!!!!

 これでも俺は空手4級だぞ! 舐めんなよ!

 恐ろしく微妙な級を言い放つが、そもそも武術を習っている人間が卑怯な手で相手をタコ殴りにしてもいいものか、非常に疑問である。

 男もこれにはさすがに堪らずK.O。

 こうしてあっという間にボコボコになった男を見下ろし、「よし」と一言......。


「よしじゃねェよ!!」

「あ、まだ喋れたのか、もっかい――」

「待て待て! お前は鬼か!!!!」


 この日河原で遊んでいた子供曰く、しばらくの間この辺りでは男の悲鳴が鳴り響いていたとかなんとか......。

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