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破滅転生譚  作者: chalk
第三生 偽りと愛
18/33

17転目 両親

「ん? 今俺ぇ――」


「あかりんてめぇ! 今まで何してやがったんだよ!!」


 朱莉は実の所、ついに自分であかりんと言ってしまったことに気づき1人虚しくがらんどうに陥りかけていたのだが、今の偽気にそんなことを気にする余裕はなさそうだ。


「ん? あぁ、ええとだなぁ...」


 朱莉もすぐに気持ちを切り替え説明を始めた。


「まぁよ、簡単な話さ。前にビルから飛び降りた時使った『エアロドロップ』ってあったろぉ? あれと同じことをしたのさ」


「あれと同じ?」


 〈エアロドロップ〉

 狂死郎と戦う前。崩れ落ちるビルから脱出する際に朱莉が用いた技だ。


「要するにぃだ。大量に撒き散らしたシャボン液でシャボン玉を作る。そのシャボンに伝う液体で稲妻を全て地面に流す。衝撃は無数のシャボンクッションで和らげ、腕のバレルで空気を急冷させてからシャボンを作ることで熱を防いだのさ! まぁ、完全には防ぎきれなかったんで、ちぃとばかし休ませてもらったがなぁ!」


 朱莉が腰に腕を立て大きな声でガハハと笑う。

 しかし本人が言ったように、朱莉の身体には無数の火傷が出来ていた。

 決して軽傷では無さそうだ。


「本当に良かった......」


「しゃ、シャボン玉でそんなこと出来んのか...」


「俺も不安だったがなぁ!」


 朱莉の元気そうな声を聞き、偽気と愛女の空気が和んだようだ。


「おっとぉ! もちろんあいつも無事なはずだぜぇ? 咄嗟だったから保証は出来ねぇがな」


「あいつ?...ってまさか!」


 朱莉が親指で後方に倒れている人物を指した。

 そう、三波だ。

 だが、そうはいったもののあの状況下だ。

 朱莉自身も完全には防ぎきれなかった落雷、 あれだけの負傷で受ければ一溜りもあるまい。

 しばらくの間は目を覚まさないだろう。


「もう好き! あかりん愛してる!!」


「おえ! やめろてめぇ!! キモイから離れろ! それからあかりんもやめやがれぇ!」


 朱莉に偽気が飛びつき、唇を尖らせるが、流石に気持ち悪がられた朱莉に無理やり引き剥がされる。


「さてぇ? そんなこんなで形勢逆転だなァ! 坂崎ィ!!」


「クッ...。ゴミ共...が!」


 朱莉から不意の一撃をモロに受けた坂崎。

 シャボンとはいえあの速度に威力。

 致命傷は免れないだろう。


「人数が増えたからどうだと言うのだ! 私も1人ではないということが分からんのかね?」


「あぁ、そうそう。悪いがァ、あいつらには1度黙っててもらうことにしたぞ?」


 朱莉が視線を送った先には、張力の力でぴっちりと地面に貼り付けられ、身動きが取れなくなっている二人の男の姿があった。


「ぐ...。貴様ら如きが...生意気な!!」


「如きィ? おめェみてえな半端者の言うセリフじゃねェなあ! そういうのはあの世で言ってな!」


『バブルショットォ!!』


「ぐはぁッ!」


 坂崎は為すすべもなく、朱莉の攻撃に吹き飛ばされ、そのまま気を失った。

 それに伴い操られていた2人の洗脳も解け、再び眠りについたようだ。


「けっ! 口ほどにもねぇなぁ...」


 朱莉は下唇を尖らせ、坂崎の飛んだ先を眺める。


「勝ったの...? これで...お父さんとお母さんの仇が......」


 愛女は呆気なく終わりを迎えた敵討ちに驚愕しながらも、胸の奥でザワつく何かを訴えた。


「なんだろう...仇討ちって......虚しいな......」


 愛女は念願だったはずの仇を目の前に、素直に喜ぶことが出来なかった。


「てかよ? いくらなんでも、呆気なさすぎないか? なんか隠しダネがあるとか――」


 偽気が尋ねる。

 確かに漫画やアニメの世界ではこう言った場合、最後の手段の様なものを残している事も多いだろう。

 しかし朱莉ははっきりと答えた。


「安心しなぁ偽気ぃ。ああいう影でしか生きられない人間ってのは、いざ表に出るとすぐに散るもんなんだよ。いくら威張っていても、所詮表の世界じゃまともに生きられないのさ」


「あ、朱莉...?」


 朱莉はそう吐き捨てると、クルリと背を向け愛女の方へ歩き出した。


「さてぇ? お嬢ちゃん。無事護衛は終わった訳だがぁ...本当に、お前の目的はこれだけなのかァ?」


 未だに腑に落ちぬ点があったのだろうか。

 朱莉は自ら腰を曲げ、顔を覗き込みメンチを切った。


「やっぱり、これだけだって言っても信じて貰えないかな...?」


 いつか来る事は理解していたが、気持ちの整理もつかぬまま追い討ちを掛けてきた現実に、愛女は悲哀に満ちた表情を浮かべ俯いた。


「まぁ、信用するには足りねェよなあ」


「そうだよね...私は所詮殺し屋の娘。あなたの言う影の人間。ずるくて弱くて、哀れな人間だものね...。」


 偽気は、彼女のその姿に言葉を失っていた。


「でもさ...だからって! 誰しもが影で生きていたいなんて思わないよ! 私だって...名前を晒して、学校に通って...普通の女の子として生きていたい!」


 愛女は強がるように笑って見せた。

 しかし言葉からその力強さは見えず、まるで少女が必死に訴えるような弱々しさが滲み出ていた。


「私はこの破滅しかない世界を終わらせて、平和を取り戻したい! そのためなら罪だっていくらでも償う! 世界だって救ってみせる! だからさ......ちょっとくらい...幸せになったっていいじゃない!!」


 彼女は常に月詠を求める人間に命を狙われ、安息のない夜の中ひとりぼっちで眠っていた少女。

 彼女の心象は実に悲痛なものだろう。


「お願いします。これからはあなた達に協力します。ヘマもしません。必ず役に立ってみせます。だから...私が生きることを許してください。」


 愛女は深々と頭を下げた。

 表情は見えないが、涙の落ちる音だけが辺りに響く。


「...けっ! 許しを乞う相手なんてもういねぇんだ。謝るくらいならこれからを考えろ」


「...それって」


 朱莉が愛女から背を向け、言葉を続ける。


「疑って悪かったなぁ...! さっきのは試しただけだ。最初にお前がやって来たことのお返しだ。悪く思うなよなぁ?」


 朱莉の心に何か響いたのだろうか。

 どこか顔を曇らせながらも、愛女に謝罪した。

 固唾を飲んで見守っていた偽気も、駆け寄り喜びの声を上げる。


「よっしゃー!あかりんが屈した! これで愛女さんも俺らの仲間だ!!」


「悪かったなぁ! 疑り深くて!!」


 飛び跳ねる偽気を見て朱莉が更にムッとする。


「本当に...本当にありがとう...! 私...わたし......!!」


 緊張が解け、愛女はその場で崩れ落ちるように号泣した。

 たった二人ではあるが、自分の存在を認めてくれた事。

 これは命を狙われ続けてきた愛女にとっては何よりも嬉しい事なのだろう。


「...よし! せっかくみんな無事で済んだんだし、もっと明るい話しようよ! 俺、愛女さんの話いっぱい聞きたい!」


 偽気が愛女を少し気遣うように話題を振った。


「...うん! そうだね! でも何を話せば......。そうだ! 私の家族のこと話させてよ!」


 偽気の意図を察したのかは分からないが、愛女も涙をふき拭い無邪気な表情で話を始めた。


「ご両親は2人とも忍なんだっけ?」


「うん! そうだよ! お父さんはおっちょこちょいでいつもカッコ悪かったけど、お母さんは忍の中でもすっごい人だったんだよ! お父さんもいざと言う時は頼りになるんだけど、お母さんはいつもかっこよくて私を守ってくれてたの! あのね!えっと...! えっ...と......。」


 その時、愛女は言葉を詰まらせた。


 お母さん達の...名前......」


 突然愛女の顔が曇る。

 笑顔は次第に消え、声も再び掠れ始める。

 そして溜め込んでいた涙を零し、顔を上げる。


「どうしよう、私...お母さんとお父さんの名前...忘れちゃった......」


 月詠による物だろう。

 一番忘れるはずのないもの。

 忘れたくないもの。

 その愛の証明を、彼女は忘れてしまったのだ。


 そして震える声で彼女は続けた。


「私はこの破滅が続けば続くほど、両親との思い出を忘れちゃう...。私、家族の思い出を捨てたくなんてないのに...!」


 2人には声をかけることなど出来なかった。

 忘れる恐怖など、到底理解が及ばないのだ。

 かける言葉など思いつくはずもない。


「これが凡智だって言うんなら、私...英智なんていらないよ...! 誰か...誰か助けてよ......」




 愛女はその夜、それ以上何も喋ろうとはしなかった。

 ひたすら偽気にしがみつき、一晩中泣き続けることしか出来なかった。

 偽気には、その姿がまるで愛を求める空っぽの幼子のように見えたそうだ。

おまけ10

17転目 両親

今回の小話は、愛女の両親のお話です。


まず、坂崎は何年も昔から月詠を狙う裏側の人間の1人でした。

そして、愛女が10歳の時に坂崎は月詠の秘密にたどり着き、一家を襲いました。

愛女の両親は、月詠に従えば本来坂崎に勝つことが出来ました。

しかし両親が月詠で見たその世界は、愛女を犠牲にするというものだったのです。

両親は命に変えても愛女を生かすことを選び、それを月に願いました。

その結果、月詠は娘を生かすための道として、自分たち両親が死ぬ世界を見せました。

両親はその時涙を流し、そして笑いながら「本当に良かった」「生きてあげられなくてごめんね」と愛女に抱きついたそうです。

ちなみに月詠は、両親の死が確定した時と同時に、愛女に引き継がれたそうです。

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