表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破滅転生譚  作者: chalk
第三生 偽りと愛
17/33

16転目 罪人

「偽気くん...!?」

 戦いの最中、遠くで崩れ落ちる偽気を視界に捉えた愛女は激しく動揺した。

 

(一体何が...)


 先程の静寂からの異変。

 如何に離れていようと、あれが非常事態なことは見て取れた。

 すぐに駆けつけようとする愛女だったが――。


「待ってて! 今そっちに――」


  当然、意志を持たぬ人形達がその意図を汲み取るはずはなかった。


「くっ...! 人形の癖に.......」


 隙を伺う愛女であったが、人形と成り果てた兄弟達はただ無我に愛女へ襲いかかるばかりであった。


(ごめん偽気くん......もう少しだけ待ってて...!)




 ――――――――――――――――




「が...あが......」


(何だこの全身の熱さ......それに、この血...!)


 偽気は地面につくばう中、何が起きたのかも理解出来ずただ自身の口から流れ出る血を眺めていた。


(これ...どう考えてもあいつの技だよな...だとしたら何だ...? 波の力で吐血...血......まさか体内の血液を!?)


 偽気の頭に最悪の考えが頭を過ぎったその時、何故か技を放った本人からも吐血と呻きの声が零れ落ちた。


「カハッ...!」


(な...!?)


 力を振り絞り顔を上げた偽気は、あるものを捉えた。

 それは先程まで戦っていた少女が、自分同様に突っ伏している姿である。


「なん...で! お前...まで......!」


 血を口から吹き出しながらも溢れ出たその言葉は、小さいながらも三波の元へ届く。


「なん...で......かしら...ね。きっと...もういいやって......思っちゃったから...かな......」


 技の影響だろうか。

 悲痛な声をあげる三波の目からは、血が流れ落ちていた。

 それはまるで涙のように。


「そ...んな......」


「いい...聞い...て? 私はもう...何人も......殺めて...ガフッ!」


「まて...! ...無茶すんじゃ...ねえ!!」


「いいから聞いて!!」


 慌ててなだめようとする偽気だったが、それ以上言葉を発することは出来なかった。

 三波の言葉から瀕死とは思えない程の強い力を感じたのだ。


「もう...私の罪はね......消えな...いの。 どれだけ生きても......どれだけ...苦しんでも。 きっと...1人でも殺めてしまった時点で......手遅れ...だった...ん...だろうな...」


「そんな...事ない! これからその分......人を救えば...きっと...」


 罪は消えない。

 殺してしまっている以上、許しを乞う事も出来ない。

 そんなことは偽気も承知の上だろう。

 それでも彼は訴えた。

 このままでは自分も死んでしまうだろう。

 それをわかっていながらも、この儚すぎる少女を心配せずには居られなかった。


「貴方...自分が殺されそうなのに......本当に......優しいのね。 私も...あなたみたいな人が......お兄...ちゃんだったら...変わってたかな。」


「今から....だって......変われるだろうが...!」


「ふふふ...ありがとう。でも...ごめんね。これが...最後の...お仕事なの......せめて仕事だけは...じゃないと私...生きた意味が...ないものね。最後にあなたみたいな...優しい人に会えて......よかった。まき...こんじゃって......本...当に......ご...め......」


 三波の搾りかすのような声が途切れた。

 最後まで言い切ることも無く、ただ静かにその場で動かなくなった。


「嘘...だろ?」


 血と共に涙が溢れ出る。

 戦闘中とは思えぬ程に静まり返った2人の空間。

 偽気は動かなくなった三波をただじっと見つめた。

 ただ、その目は絶望や悲壮などといったものではなく、ただひたすらに真っ直ぐなものであった。


「死ぬな...死ぬんじゃ...ねえ! まだ...! 諦め...ねぇ!」


 腕を立て、呻きを上げながら立ち上がった。

 口からは血反吐を撒き散らし、千鳥足のまま歩み出す。

 三波の元まで歩み寄れば、足の震えを無理やり飼い慣らし両手を合わせた。


「ぜってー...死なせねえからな...!」


 そして願う――。

 

「頼む...! 俺に...誰かを護る力をくれ!」


 誰に向けたものでもなかったその言葉。

 しかしその願いは形となる。


 叫びと共に不思議な波紋が広がった。

 それは暖かく、静かで穏やかに。


『リセル』


 するとどうだろうか。

 二人の体を襲っていた熱は須らく消え、吐血が収まる。

 傷こそ癒えることはなかったが、身体にのしかかる枷が全て消えたのだ。


 今偽気が起こした波は、全ての力を凪ぐ波紋。

 つまり、力の無効化である。


「なんで...?私.....」


 意識を失っていたはずの三波が、間一髪のところで目を覚ます。


「良かった...お前! 目ェ覚ましたんだな!」


「え、ええ...」


 なぜ自身を助けたのか理解が追いつかず、頭を抱える三波だったが、自身の生を一心に喜ぶ目の前の男を見て何かを察した。

 心に暖かいものを感じた彼女は、考えることを諦めた。

 紛れもなく初めての感覚を味わった彼女は、自身の命を救った少年の顔を見上げ言葉を漏らした。


「助けて...くれたのね......あなたって本当に馬鹿な人」


 三波の表情は先程とは一転し、見えずとも伝わる程に晴れやかなものであった。


「ああ! 馬鹿で結構だ! お前も一緒に馬鹿になろう! そんで、その罪とやらも抱えて生きてりゃいい! そうやって悔い改めて、心痛めて、その度誰かに優しくすればいい。みんな罪背負って生きてんだ! お前一人真面目やってんじゃねえ!」


 偽気は三波の前で膝を着き微笑み返す。

 そして親指を立てて前に突き出した。


「その度誰かに優しくする...か.....なんだかとっても貴方らしい...。ちょっと元気出たわ...本当に...ありが――」


 

 三波が感謝を述べたその瞬間、あの忌々しい稲妻は再び大地に降り注いだ。


「...!?」


 そしてその光に包まれたのは......。


「...嘘だ。嘘だ......!」


 偽気の痛烈な悲鳴が響き渡る。

 そしてその叫びに呼応するように、あの男は姿を表した。


「所詮は罪人か...。結局は成長させてしまっただけとは、なんとも情けないよ。」


 暗闇より出でしその男は――。


「...坂崎ィ!」


「偽気くん! 遅くなっ...た......」


 駆けつけた愛女も目の前の光景に言葉を失った。

 その男は、今回の主犯 坂崎達也だ。


「やはり私が直々に手を下すとしよう。」


「坂...崎......」


「お前だけは...お前だけは...!」


 偽気が息を荒げ、坂崎に牙を剥く。


「随分ボロボロだが、まさかその状態で私に勝てると思ってるのかね。」


 坂崎はニヤリと笑った。

 邪悪で、卑劣で、残酷な表情だ。

 同じ人間とは思えない。 いや、それ以前に思いたくもないだろう。

 そんな悪に身を染めた男を前に、偽気が再び己を鼓舞する。


「うるせえ勝つんだよ! 意地でも! 多くのものを奪い続けるお前みたいなやつは、俺が絶対に許さねえ!」


「ほう。それでは見せてもらおうか。」


 坂崎がその淀んだ笑みで偽気を蔑んだその時――。




「よく言ったぁ! 偽気ぃ!」


 どこからともなく聞き覚えのある野太い声が聞こえる。


「!?」


「貴様! なぜ......グハッ!」


 坂崎は対応する間もなく、高速で飛んでくるシャボン玉によって強く吹き飛ばされた。


「悪かったなぁ、待たせちまって!」


「あかりん!」


「朱莉さん!」



「あぁ!! 頼れる兄貴あかりん様の再臨だァ!!!!」

今回の小話は波の能力の補足になります。

今後作品内で説明が出てくるとは思いますが、一応載せておきます。

何かとややこしい能力ですみませんm(_ _)m


波はあらゆるものに干渉でき、又それらに波紋や流れを引き起こすことが出来ますが、例外や制約があります。


・波の能力と波の能力でぶつかりあった時、強さ等の存在しない波ではどちらが勝つ等ということはまずありません。

川に石を2つ投げ入れた時のように、お互いの波は打ち消し合います。

・人体に直接影響するもの(筋肉 血 骨など)に波紋を起こす場合、相手だけに影響を及ぼすことは不可能です。

相手に起こす場合、自分にもその影響が跳ね返ります。

今回三波が自分の能力で瀕死になったのも、それが原因です。


相手を直接死に至らしめるには自分も相打ちの覚悟が必要ということですね。

また、自分にだけ起こすことなら可能です。

まあそれが役に立つことはあまりありませんが...

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ