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破滅転生譚  作者: chalk
第三生 偽りと愛
16/33

15転目 波紋

 目の前に現れた少女『三波』は、恐らく偽気と同じくらいの年齢だろうか。

 白髪で、華奢な身体に低い身長、何故か夏とは思えない程大きなコートで身を包んでいる。

 さらに口元は常にマフラーで隠れており、長い前髪も併せて殆ど顔が伺えなかった。


「これだからお兄ちゃんと仕事なんてしたくなかったのに......」


 三波が気だるげに歩き出す。

 ゆっくり、ただゆっくりと近づいてくる三波を前に、偽気は動くことが出来なかった。

 それは女の子が可愛いからとか、ちっちゃくて警戒出来ないといった甘いものではない――。


「こいつ...この雰囲気......!」


 三波からは何か不気味なオーラと言うべきか、嫌な予感を覚える何かをひしひしと感じた。

 偽気がすぐに動けなかったのはそのオーラに気圧されていたからだろう。


 少女が歩み寄みよる。

 その歩幅は小さく、足音は静かだ。

 ついに目の前にやってくると、懐に隠していたナイフを偽気の首目掛け振り抜いた。


「のわっ!!」

 三波が仰け反る偽気に手を掲げる。


『...リペル』


「今なんて...ぐわっ!」

 

 体制を起こそうとする偽気に不自然な力が加わる。

 いや、この場合は〈力がねじ曲げられる〉とでも言うべきだろうか......。

 偽気はその感覚に、確かな既視感を感じた。


「まさか...その能力......!!」


 そう、〈波〉の意石である。

 堪らず後ろへ転げる偽気に再び波の能力が襲う。

『......リバル』


「な、なんだそりゃ!」


「......貴方に喋っている余裕があるのかしら」


 体制を直せずそのまま後ろに倒れ込む偽気へ更なる力が加わる。

 その力は、偽気の抵抗を微動だにせず身体を後ろへ引き転がしてゆく。

 

「と、止めやがれちくしょう!」

『リペル!』


 ゴロゴロと後転し続けていた偽気は、自身の技で勢いを止め、身体の自由を取り戻した。


(クソッ! 今の感じ、転がる勢いに波紋を起こして力を生かし続けたってことか...?)


 先程リバルと呼んでいた呪文を受けてからの偽気は、等速直線運動のように転がり続けていた。

 波で例えるのであれば、川の流れに似ていた。

 だがそれ即ち、彼女の能力は......。


(あいつも...波の能力者......)


「...どうしたの? 何もしてこないの?」


 一切感情の読めない少女 三波の言葉に、偽気は声を荒らげた。


「うるせぇバカ! どいつもこいつも当たり前のようにナイフだの包丁だの振り回しやがって! こっちゃ丸腰だぞ!?」


 しかし彼の熱弁も虚しく、三波はただ不思議そうに首を傾げた。


「何故命のやり取りに刃物を持ち込んでは行けないの...? 貴方...死にたいのかしら......」


 三波の圧が上がる。

 先程より露呈されたその殺気を前に、偽気は思わず後ずさるが、そんなことなど意にも返さぬ三波は、そこにナイフを投げつける。


「やべっ......」


 もちろん偽気はナイフを躱し、反撃に出る。

 だがここまで戦闘慣れした相手がそれを予期しないはずがない。


『...リペル』


 先程投げたナイフは、空中に打たれた波へ弾かれクルクルと宙を舞う。

 そしてナイフは、再び進路を偽気に変えた。

 三波へ肉迫する偽気の肩に、ナイフが深々と突き刺さる。


「いってえええ! クソっ、舐めやがって!」

『クレイグ!』


 偽気は崩した体勢に合わせ、地面に手を付き技を唱える。

 偽気を中心に地面が激しく揺れ、三波の自由を奪った。

 そして地に手をつける三波の懐に飛び込むと、脇腹に痛烈な回し蹴りを叩き込む。


「...!」


 三波は間に腕を挟み辛うじて受け身を摂るが、地面を二三転し突っ伏した。


「っしゃあオラァ! どうだざまあみろ!」


 だが......。

 痛恨の蹴りを受けながらも、三波は直ぐに立ち上がり服に着いた汚れをぱっぱと払って見せた。

 それは痛みなど微塵も感じていなかったかのようだった。


「このやろう...!」


(くそ...こいつら本当に死を覚悟してやがるのか? 皆死ぬのが当たり前みたいな反応ばっかしやがって.......)


「ケホッケホッ...。ふふ...貴方、私の事ばかり見てていいのかしら?」


「な...しまっ......!」


 気づくのが少し遅かった。

 既に偽気の傍に先程の兄弟が迫っていた。


 偽気の頭に死が過ったその時――。




『フェザーウイング!』


 背後から凄まじい風圧と羽根の矢が放たれ、偽気に迫っていた男たちは鋭い羽根と共に後ろへ吹き飛ばされた。


「愛女さん!」


「ほら偽気くん! ぼーっとしないの!」


 背景を映し出した翼に包まれ隠れていた愛女が姿を表した。


「あいつらは私が何とかするから、偽気くんは目の前の女の子を何とかして!」


「でも愛女さんは護衛対象...」


「ならしっかり守ってください!」


「...はい」


 偽気はむしろ自分が守られている現状に気付き、湯気が出るほどの赤面をする。


「いい? 操られてる奴らは能力も使えないみたいだし、私なら絶対に大丈夫! だからまずあなたは自分のことを心配して!」


「りょ、了解であります!」


 ため息を混じらし答える愛女に、偽気は思わず敬礼をする。

 この緊張感の無いやり取りに耐えきれず、三波が口を開いた。


「......良かったわね、守ってもらえて。それで......あなたやる気あるの?」


 三波はこっちまでやる気が削がれると言わんばかりに呆れていた。


「あぁ、えっと、すまん。」


 この男、あろうことか恥ずかしさのあまり戦闘中である事すら忘れてかけていた。

 そして二つ返事で謝る情けない姿に、三波は再び大きなため息を着く。


(それにしても...何気に待っててくれたんだな...これ本当に戦わなくちゃいけない相手なのか......?)


 ひとつの疑問を浮かべた偽気が三波へ恐る恐る問いかけた。


「あのさ......実は君、優しかったりする?」


「...は?」


 三波は突拍子も無い質問に虚をつかれ、しばしフリーズした。

 今正に自分の命を取らんとする相手に優しい等、どれ程こいつの頭はお花畑なのかと考えたのだろう。


「......違うわ。あなたがあまりに能天気だからこっちまでやる気がなくなるだけ...」


「そっか...あのさ、もうそのままやる気なんて捨てちまったらどうだ?」


 顔色を伺いながらも、偽気の不自然な問は尚も続く。


「...それってどういう――」


「いや、そりゃだって、戦わなくていいならそれでいいじゃん! こんなアホみたいな命のやり取りしたって何があるって言うのさ...もっと楽しく行こうよ!」


 これは殺し合いなど無縁の少年だからこその純粋な訴えだったのだろう。

 そこに嘘偽りなど欠けらも無いはずだ。

 だが......。


「......!」


 常に死と隣り合わせだった人間からしてみればそれはただの戯言。

 当然三波の怒りを買った。


「ふざけないで...! 今更どうやって足を洗えと!? これまで幾度も人間を殺してきた女が! 今更何をしろというの!? 貴方を見逃せば私の罪は消えるって言うの!?」


 か細く消えそうな声でしか言葉を発する事のなかった三波が、初めて声を振るわせた。


「間違ってることだってわかってる! でも生まれた時から正しいことを何も教わってないの! 」


 三波が目に涙が浮かべる。

 悔しさ故か、悲しさ故か、瞼は赤く腫れ上がり、口は歯ぎしりがなるほど力んでいる。

 顔の大部分はコートやマフラーに隠れてはいるものの、その一部だけでも充分見て取れるほどに彼女は悔やんでいた。

 そして――。


「今更......」


 三波を中心に空気が揺らいだ。


「な、なんだ......この感じ」


「今更、私に正解なんて求めないでよ!!!!」






「...え?」

 一瞬の圧から、どうしようもないほどの静寂が訪れた。

 叫びと共に何かが起きたようだったが、特に異変はない。

 三波の技は不発に終わったのだろうか......。

 彼女も下を向いたまま動かない。

 いくら待てども......。


 否――。



「身体が...全身が...熱い......!! お前何...を......」


 その時は突然やってきた。

 偽気を身体の中で何かが暴れ出すような不気味な感覚が襲う。

 そして――。


「ガハッ...!!」

 

 偽気は口から大量の血を吹き零した。

 

「なん...だ......こ...れ...」


 偽気は為す術もなく、そのまま崩れ落ちた。

今回の小話もキャラ紹介です。

毎度毎度、小説内ではわかりにくい部分も多いとは思いますが、そこはどうかご自愛ください。

キャラクター紹介③ 愛女


名前 篠尾 愛女

能力 翼

年齢 16歳

身長 152cm

体重 ?kg

好きな食べ物 甘いもの

嫌いな食べ物 人参 ピーマン セロリetc......

趣味 月詠により消失

座右の銘 心安きは不和の基

イメージソング ハグ(カンザキイオリ様より)

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