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破滅転生譚  作者: chalk
第一生 始まった終わり
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1転目 破滅

 夏の半ば、夕暮れ時。

 1人の少年が芝の生い茂る土手に座りこみ、茜色に輝く空を眺める。

 何を考えているのだろうか。どこまでも真っ直ぐに伸びるその空の先、沈みゆく太陽を一心に見つめ、迸る陽光を避けるよう手をかざし――。






「あぢぃ...」

 少年は腑抜けた声で呟くのだった。




 〜破滅転生譚〜 第一生(プロローグ)

 1転目 破滅




 河川敷の橋の影で、1人の少年が暑さを凌いでいた。

 その少年は、ずっとそこに住んでいたのだろうか......。

 みすぼらしく、だらしのない服装を身にまとっている。

 靴はあちらこちらに穴が空いており、ズボンも汚く寄れている。

 長袖のシャンブレーシャツをTシャツの上から羽織っているが、明らかにサイズが大きい。

 無地に薄紫色をしたシンプルなデザインだが、所々にツギハギがなされていた。

 服装から見るに、少年はこの橋の下でホームレスをやっているのだろう。


 やっとの事で重い腰を上げた少年は、何かを求め土手の上を彷徨い始めた。


 2025年現在、世界は度重なる大災害により深刻な被害の後が色濃く現れていた。

 その災害は、火山、地震、津波、台風、etc......。

 大小交え、幾度となく繰り返された災害は、世界を大きく変えてしまった。


 見渡す限りに建ち並ぶ家々は、どれも廃れている。

 瓦の剥げた屋根、崩れかけの壁、中には跡形もなく潰れてしまっているものもいくつかあった。


 人口に関しては、10年前の地球から3分の1まで落ちたとまで言われている。

 そんな廃れきった日本のとある田舎道。

 夕暮れ時とはいえ30度を優に超える炎天下、セミや子供たちの声がより一層の熱を発する中、少年はひぐらしのなく土手の道をよろよろと歩いていく。

 無限にも感じられるその道を少年は歩き続け、若干20分が経過した。



「...お」

 少年が枯れた井戸のような掠れた声を上げたその先には、老婆の営む小さな店がひっそりと佇んでいた。


 世界はこの廃れ様だ。

 既にほとんどの人間が避難所や少しでも安全な場所へと逃げ続けているのだが、店主の老婆は「どうせ老い先短いから」と暇つぶしに経営を続けているようだ。


 実の所、避難をしない人も少なくは無い。

 都心には国が立てたシェルターや民衆を守るための設備を設け、多少の災害なら逃げ延びられる対策を立てている。

 しかし、それがいつまで持つかというのは誰にも分からない。


 中には命を諦め、やりたいことをやる人。

 逃げ場がないことを悟った人。

 危機感を全く感じていない人。


 こうして僅かではあるが、変わらぬ生活を送っている人もいるのだ。

 その1人である老婆の下に、少年はアイスを買いにやってきた。

 燃えるような日差しの中で食べるアイスはどの世でもやはり至福である。

 少年もまた、生きることを諦めた人間の1人。

 なるがままの彼は、暑さ故にアイスの魅力に惹き付けられやってきた。




 店を切り盛りしている老婆が少年に声をかける。


「おや、君は確か......。勇気くんじゃないか、久しぶりねぇ...」


「勇気...? ええっと...誰ですか?」


「あら...ごめんなさいね。 人違いだったかしら......。最近物忘れが激しくてねぇ......」


 少年は、その名前に聞き覚えがなかった様だ。


「大丈夫ですよ! とりあえずええと...... これください!」


 少年が手にしたのは青と黄色のデザインをした大きめのカップアイスである。


「はーい、148円ね」


「ええと、ひゃくよんじゅうはちえ――」

 突如少年の動きは固まった。

 少年の開いた財布には100円玉が1枚、1円玉が2枚しか入っていなかったのだ。


「あぁ...ええと......やっぱこっちのゴリゴリくん下さい」


「はーい、ゴリゴリくんは72円だね。まいどありー」


 少年は残された最後の小銭をかき集め、会計を済ませた。

「まさかアイスがあんなに高いものだったとは......」


 少年は軽くなってしまった財布を悲しげにポケットへしまい老婆の店を出ると、坊主姿の子供の絵が書かれた青いアイスの袋を破く。

 念願のアイス。

 その青に包まれた美しい長方形。

 キラキラと反射しながら静かに滴る液体。

 長方形自体も日照りに反射し少年の顔を照らす。

 正に至高の逸品と言えるだろう。

 少年はうっとりとそれを眺め、そのアイスを口へ運ぶ――。


「いただきま――」






 ――刹那。

 彼方より赤く激しい光が迸り、それは1秒と時を満たすことなく少年...いや、「世界」を包み込んだ。


 少年がその光に気づいた時には一足遅く、光に包まれた後だった。

 あまりの眩しさからか思考は停止し、気が飛び、身体は硬直する。

 そして、気が付いた少年は辺りを見渡す。


「なんだったんだ...今の光は――」


 そして一言、声を漏らした。

 目の前を走る自転車、自分の横を通り過ぎる犬と飼い主、近くの公園で起きる子供同士の喧嘩、すべてが記憶の折そして過去と呼ぶには些か新しい――。


「これ...............って」






 先より1か月前の世界であった。

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