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■最終話 ずっと


 

 

木漏れ日が降り注ぐベンチ。


飽きもせずにふたり、ゆったりした時間に身を任せていた。

 

 

 

並んで座るふたりの距離は以前に比べて近く、わずかにふれる肩のぬくもり

に心が凪いでゆく。


なにもしゃべらず、ただ真っ直ぐ、ふたり。公園中央にある噴水の噴き出す

水のアーチを見ていた。シャボン玉のように舞う水飛沫が、陽に照らされて

キラキラと光り輝いている。なにも音楽など流れてはいないのに、まるでピ

アノが弾けるような旋律が耳に聴こえてきそうな気がした。

 

 

すると。一瞬、強い風が吹いて、ベンチ後方の大きなケヤキがざわめいた。

 

大振りの枝が右に左にゆらゆらと揺れ、卵型の葉が幾重にも擦れあう音がす

る。そして、青々とした煌めく葉が風に乗って舞って、優しく降って来た。

 

 

くすぐったそうに目を細め、小さく首を左右に振って見渡したキタジマ。

自分の頭に、肩に。青く若いツヤツヤの葉が、ひらり。舞い落ちていた。

 

 

それを、そっと指先で摘み目の高さに上げて見つめる。


やさしく視線を流しミホにもそれを見せると、玩具を見付けた子供のように

それをキタジマの指から奪って嬉しそうに眺めている。たかが葉っぱの1枚

でなにがそんなに嬉しいのか、その白い横顔を盗み見てキタジマは頬を緩め

た。『自然ってキレイ・・・。』 ミホは葉を裏にしたり表にしたり弄び、

小さく触れ合わせていた肩を更にキタジマへ寄せて、そっと頭を傾けた。

 

 

ふと見ると、ミホの前髪にも小さな小さな生まれたての青葉が。


ミホはそれに気付いていないようだ。

いまだにキタジマの下へ降って来た葉っぱを見つめて、ひとりニコニコ微笑

んでいる。

 

 

キタジマはそっと手を伸ばし、ミホのふんわりとした斜め前髪に留まるそれ

を払った。


その瞬間、キタジマの指先がミホのおでこに小さく触れた。それは思った通

りひんやり冷たくて、すべすべで透き通るような肌の質感を与える。

 

 

ミホが、くすぐったそうに肩をすくめて目を細めた。

眩しそうに、嬉しそうに、恥ずかしそうに・・・

 

 

胸の中の一番やわらかい部分を掴まれたような気分だった。

 

 

 

  ミホが隣にいる


  ミホが笑ってる


  ミホが寄り添っている

 

 

 

この笑う顔を、ずっと、隣で見ていたい。

そう思った。

 

 

 

10年後も、20年後も、50年後も・・・

 

 

 

きっと、ずっと、一緒にいられる。

漠然としているが、でも確かにそんな気がした。

 

 

 

 『ミホ・・・。』

 

 

 

小さく名前を呼ぶと、小首を傾げ更に眩しそうに微笑んだその顔。


キタジマはベンチの背にあずけていた上半身を起こすと、少し震える手をそ

っとミホの白い頬に当てた。

 

 

そして、

 

 

 

 

     そっと、小さく唇をよせた。。。

 

 

 

 

きっと、ずっと、一緒にいられる。

ふたりで、ずっと、永遠に・・・

 

 

 

木漏れ日が降り注ぐ、暑い夏の日の蝉時雨。

いつものベンチにふたり、そっと手を繋いで噴水を見ていた。

 

 

 

                      【おわり】

 

 

 


引き続き、【眠れぬ夜は君のせい】スピンオフ(アカリ編、キタジマ編part2)・番外編(コースケ&リコ)をUPしていきます。暇つぶしにでもどうぞ。併せて【本編 眠れぬ夜は君のせい】も宜しくお願いします。

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