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■第2話 手と手


 

 

とある日曜日。

いつものように、ふたりはのんびり散歩をしていた。

 

 

日曜のたびに、なんてことない通学路や近所を散歩するようになったキタジ

マとミホ。ふたりの歩幅はゆっくりとしたもので、然程会話をする訳でもな

く手を繋ぐ訳でもない。それでも並んで歩き、互いの靴裏がアスファルトを

擦る音がシンクロする瞬間に、胸はときめき照れくさそうにそっと目を伏せ

る。ふたりの間で揺れる手がたまにぶつかりそうになると、その指先は相手

のそれを掴みたいと触れたいと、歯がゆさを滲ませた。

 

 

散歩の最終目的地としてやって来ることが多い、学校近くの大きな公園。

ふたりは木陰のベンチに腰掛けて、公園中央にある噴水を眺めていた。

 

 

暫しなにも喋らずに、勢いよく噴き出す水が太陽の光に反射してまるでプリ

ズムのように目映く輝くそれに目を細める。木漏れ日をくれる緑の隙間から

差した夏の陽が目元に当たり、キタジマは眩しそうに顔を伏せた。

 

 

すると、黙ったままだったミホが言った。

 

 

 

 『ねぇ、手 みせて。』

 

 

 

ふたり並んでベンチに腰掛けた時から、キタジマは座面に置かれたミホの

白く華奢な手をこっそり盗み見ていた。触れたらどんな温度なのか、握っ

たらミホは嫌がるのか、繋いだらそれを繋ぎ返してくれるのか。


まるで心の中のそれがバレてしまったのかとビクっと一瞬驚き、別になに

も悪いことはしていないのだと冷静になって自分に言い聞かせる。

 

 

そしてミホに言われた通り、キタジマは左隣に座るミホの前に左手を差し

出し広げた。軽く腕を伸ばして、ミホから斜め下方の位置で見えるように。

 

 

その大きなゴツゴツした手を、まじまじと見るミホ。


そっと白い指先でキタジマの手首に触れると、どこか愉しそうに嬉しそう

に手の甲やら手の平やらせわしなくひっくり返して見つめている。

 

 

突然手首に感じたミホの指先の温度に、キタジマは思わず息を止めて固ま

った。想像以上にひんやり冷たいそれに、一気に顔も首筋も熱を持つ。

 

 

 

 『こんなにゴツい手で、


  な~ぁんであんな絵が描けるんだろうね~?』

 

 

 

そう言うとミホは、自分の手をキタジマの目の前に広げた。

キタジマのそれよりひとまわりは小さく、指の細さがやけに際立つ。


しかし、ミホらしさがキレイに短く切り揃えられたナチュラルな爪に表れ

ていて、初めて間近でしっかり見たそれにキタジマは思わず頬が緩んだ。

 

 

 

 『あたしの手の方が、ほら・・・


  ・・・なんてゆーの? 繊細な感じ?で。

 

 

  なんでも上手く描けそうなのにね~ぇ?』

 

 

 

青い空に浮かぶ雲間から真っ直ぐ差し込んだ陽の光に、白く細い手をひらひ

らと花びらのように翳して、ミホはまた愉しそうにクスクス笑う。

 

 

『ドラえもん描けんじゃん。』 キタジマは咄嗟に、自分のノートに勝手に

描かれた青くて丸い珍妙なそれを思い出し、わざとからかってチラリと意地

悪に視線を流し笑う。

 

 

すると、

 

 

 

 『そう! あたしが描ける唯一のだからね。』

 

 

 

ドラえもんに関しては、なぜか本気で自信満々なミホ。


胸を張って言い切る自信溢れたその横顔が可笑しくて仕方なくて、キタジマ

声を出して笑った。やわらかく目を細めて、頬をやさしく緩めて。

 

 

ミホは、そんなキタジマに眩しそうに目を細める。

 

 

そして、キタジマの広げた手の平に、自分のそれをそっと重ねた。

やはり、ひとまわりはサイズが違う、ふたりの手。

 

 

はじめて触れ合った互いの手の感触。

それは、心のやわらかい部分を優しく苦しく締め付ける。

 

 

 

 

  心臓が、音を立てて鳴り響く・・・

 

 

 

 

キタジマは、ゆっくりと、開いていた指を少しだけ閉じて握りミホの細い

手をつかんだ。自分の指と指の間に、相手のそれが組み合わさってゆく。


すると、すぐさまキタジマの大きな手もまた、白く冷たいミホのそれにや

さしく包まれた。

 

 

 

 

  はじめて繋ぐ、手と手。


  ふたり、俯いたまま。

 

 

 

 

  

 『キタジマ君・・・ 手、アツいね。』

 

 

 『ぅ、うるさいなっ・・・。』

 

 

 

ムキになって言い返すも、ミホに指摘された手だけじゃなく頬も首も全身

全部なんだか熱くて、キタジマは照れくさくて仕方なさそうに眉根をひそ

めた。


からかわれて不機嫌そうに口を尖らせ、しかし更に繋ぐ手には力を込めて

赤い頬を隠すようにそっぽを向いた。

 

 

 

青い夏風がふたりの火照った頬をなでていった。

 

 

 


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