伝説の三頭犬-3
「中は結構暗いですね。」
そういったのは、『デストロイヤー・オブ・ザ・ワールド』の職であるサクリュウだ。
サクリュウの職は、超攻撃型の魔法使いである。
それ故に、<ナイトビジョン/暗視>や<インフィニティ・トーチ/永久松明>など、補助系の魔法が使えない。
防御系の魔法も使えないため、簡単に敵のコンボに、はめられたりする人気のない職である。
いつもは、1金で買った店売りのトーチを使うのだが、今日は違う--仲間がいるのだから。
「<パーティーマジック・ナイトビジョン/パーティー内魔法・暗視>」
その直後、まるで洞窟内まで太陽光が届いているかのように、目の前が明るくなった。
「これでバッチリですね。」
魔法をかけたのは、『サポーティング・バーサーカー』の職であるカ・キオーかっこよめだ。
彼女の職のメインは、仲間へのバフや回復系の魔法だが、バーサーカーのクラスを入れているため、接近戦も得意とする。
普通のヒーラーなど、仲間の支援に回るものは、敵に近づかれたりすると危ないため、味方が、近づかせないように守るのが普通だが、カ・キオーかっこよめは、自身のプレイヤースキルの高さから近接職寄りのクラスを取ったのである。----取ったというよりか、取らされたのである。戦士である夫に言われ。そう、バフもなにもつけていない、ヒーラーのサブ武器であるダガーに負けた、あのカ・キオーに----
「じゃあ行くっすよー」
洞窟の奥の方からちゃめしの声が聞こえた。
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「...にして、なんもないっすね」
無垢な子供のようなキラキラした目が、ため息と一緒に、16歳のものに戻っていた。
「--いや、なんか来たっす」
さっきまで緩みきっていた空気が、その声に一気に張り詰めた。
----目の前に4,5匹の、犬のような見た目をもつモンスターが現れた。
「<シー・ザ・ネーム/名前表示>----ガルム?」
「その名前聞いたことあるっす!」
ガルムという名を聞いた途端、はね飛びそうな勢いでちゃめしが答えた。
「なんかの神話に出てくる番犬っす。番犬がいるってことは、何か守らないといけない物があるってことっす!!!」
「やっと冒険らしくなって来やがったな」
そう言った時にはすでに、ちゃめしと彼のペットはガルム達の方へ走っていた。
「せめて、リザレクトのバフだけでも付けてから行ってください!」
そんなサクリュウの声は、未知を目の前にした、ちゃめしには聞こえていない。
「そんなに強くはないモンスターだと思いますが、カ・キオーさんはスキルでガルムのヘイトを取って、タンクをお願いします。それと、ちゃめしさんに弓を使うよう言ってください。嫁さんは、念のためリザレクトのバフをお願いします。私は、いつものように後ろから魔法で攻撃します。」
「わかったである」
「了解です!」
そのサクリュウの指示に、まるで互いに声を掛け合っているかのように動いていく。
それに合わせて、ペット達も自らの主人をサポートするように動いている。
「<スティムレント/挑発><レンフォース・シールド/盾強化>よし、来るである。」
「あれ?カ・キオーさん?」
「ちゃめし殿、弓を使うである。」
「自分、弓職だったの忘れてたっす」
ちゃめしはダガーをしまい、メインの弓を構え後ろに下がる。
「ペルちゃん、今合わせられる?」
「いつでも大丈夫よ」
「<<コネクト・パーティマジック・レンフォース・レイト・リザレクト/パーティ魔法・超強化・遅すぎた祝福>>」
カ・キオーかっこよめの魔法で、仲間の体の周りに緑色のオーラが現れた。
----<レイト・リザレクト/遅すぎた祝福>とは、HPが0になった瞬間に発動する、後発性の魔法である。
HP10%で一回だけ復活できる。
だが、カ・キオーかっこよめの魔法は、パッシブスキルで+10%、コネクトマジックで+30%され、HP50%で復活できる。
一度死んでしまうと、キャラクター消去というゲームにおいて、この魔法は必須である。
「あとは...<パーティマジック・ストレングス/物理攻撃強化><パーティマジック・ハードネス/物理防御強化><パーティマジック・レンフォース・マジックパワー/魔法攻撃強化><パーティマジック・レンフォース・ヒットポイント/最大HP強化><パーティマジック・レンフォース・マジックポイント/最大MP強化>これで大丈夫かな?」
すべての魔法をかけ終わり、味方の体は、色とりどりのオーラに包まれていた。
「こっちも合わしてみるか?」
「いいですよ!サクリュウ様と合わせるなんて久しぶりですね!」
「ではいくぞ、<<コネクトマジック・レンフォース・フォールン・メテオ/超強化・隕石落とし>>」
サクリュウの立っている位置から、円を描くように幾何学な模様の光が広がって行く。
この魔法は、発動までに詠唱時間があるため、少し待つ必要がある。
「あ...コネクトマジック...レンフォース・マジックパワー......これ....まずくね?」
その言葉の意味を理解したターシャが、急いで前で戦っている、カ・キオーとちゃめしに叫ぶ。
「急いで後ろに下がってください!!」
サクリュウは、自分にバフを付けることが少ない。
それ故、コネクトマジックとレンフォース・マジックパワーのバフのついたフォールン・メテオの攻撃範囲を見余ったのだ。
このゲームには、フレンドリーファイアーがあるため、サクリュウの魔法は味方にも当たる。
ターシャが、それに気づいて叫んだとしても、時すでに遅し、サクリュウの魔法が発動してしまった。
「ちょっと!!なんスカこれ!?!?」
「--終わったである」
サクリュウは、ガルム5匹をカ・キオーとちゃめしもろとも消し去ったのである。
この時の、主人を見るターシャの目は、冷たいというか、厳しいというか、どこかゾクゾクする目であった。
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この続きはすぐ出します。多分