ペットなターシャ
サクリュウは密かに、ギルド内イベントを考えていた。
「...今度は何をするべきか」
「次のギルド内イベントの事ですか?」
一人ごとに反応したのは、サクリュウのペット、ターカッシュアンゴラの真っ白な毛並みと、宝石のように透き通った真っ赤な赤い目を持つ猫、名を<ターシャ・ルビー>という。
魔法が使え、サポート系の魔法を得意とする。
「そうだ、前回はギルメンとアップデートで追加された"シー・オブ・ザ・ホエール"を探索して、遺跡を見つけてしまい大変だったからな」
「私は楽しかったですよ?久しぶりの戦いは昔を思い出しました!」
「未知の物へと挑む時は、しっかり対策を取るのが基本だってのに、ちゃめしさんなんて目をキラキラさせながら遺跡の奥の方に走っていって、俺らが少し遅れてたらクジラに食べられてキャラ消去くらうとこだったんだぞ」
「あの時のサクリュウ様の驚きっぷりといったらっ...っぷ.......私がいなかったらちゃめし様と一緒に食べられてましたよ!」
「本当にあの時は助かった--お礼と気分転換って事で、久しぶりにマタタビの樹にでも行くか!」
「ニャ!!」
誰が見てもわかるぐらい、ターシャの目はキラキラ--いや、ギラギラしていた。
「そうと決まれば!<テレポート・ゲート/瞬間移動の扉>マタタビの樹へ!!」
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「ニャァ〜ニャァ〜」
マタタビの樹に着いたと気付いた時には、甘い声で鳴きながら、その小さな体をマタタビの樹へ擦り付けているターシャの姿があった。
「ここに来ると、<魅惑>のバッドステータスがつく代わりに、ペットとの好感度が爆上がりするから、昔はよく使ったなー」
このゲームにおいて、ペットとの好感度はとても重要だ。
好感度が低いと言うことを聞かなかったり、行動が遅れたり、マイナスに行くと逃げ出したりもする。
逆に、ペットとの好感度が高いと、ペット自身が考え、主人の役に立とうとしたり、ステータスの伸びが良くなったり、何と言っても「ご主人様ぁ〜」なんて言いながらよって来る自らの猫は、言葉では言い表せないぐらい可愛いものである。--中には、わざと好感度を下げて「しらない」とか「どっかいって」とか「寄らないで」なんて言わせて喜ぶプレイヤーもいるが--まぁ、私には関係ないことだ。
「ターシャ、そろそろ戻ってこい、それ以上いると<昏酔>のバッドステータスが付くぞ」
「ッハ!?」
<昏酔>という言葉にターシャは過剰に反応した
「昔のターシャは私の忠告を聞かずに<昏酔>を貰って、女の子なのに大の字で仰向けに...」
「それ以上言わないでくださいっ!!」
「『ご主人〜...サクリュウ様ぁ〜...大好きぃ〜』だっけか??」
「ニャァァァァ!!」
ターシャは爪を立て怒っている様子だが、どことなく楽しんでいるようにも見える。
「はっはっはっ、ちょっとやりすぎたな、悪かった。お詫びにこれをやるから許してくれ」
マタタビの樹のせいで少しおぼつかないターシャに一つの箱を渡す
「開けていいですか?」
「もちろんだ」
ターシャは前足を器用に使い、箱の中から一つのリングを見つける。
「これは何ですか?」
「それはな--<大賢者のリング>というものだ。とりあえず、そのリングを貸してみろ」
言われるがまま、ターシャはサクリュウにリングを渡す。
そして、ターシャの首輪を外し、その首輪にリングを通してターシャの元へ付け直した
「!?」
「感じ取れたか?」
「なんか...いつもより力が出せるような感じがします。レベルアップに近い感じ?」
不思議そうにしているターシャにサクリュウは説明する。
「そのリングは、装備している者の最大MPを増やし、魔法回復量や魔法範囲を大きくする能力がある。私が調べた感じだと、そのリングのグレードは+40というところだろう。」
「+40ですか!?」
驚くのも無理もない、このゲームでは、装備品を強化することができる。だが、+25までは楽に行けるのだが、その上になるとそこまでとは比べものにならないぐらい費用がかかる。
職が300Lvになった者が使う、一般的なHPポーションが2金のこのゲームで、+1上げるには、<神秘の黒曜石>という材料と、10金がかかる。
神秘の黒曜石だけで30金はくだらない。
それでも成功するかわからない。
もし失敗すれば、その装備品のグレードが0に戻ってしまう。
+25を超えて失敗すると、その装備品は破壊される。
これは+1の時の話で、+1から+2に強化するのに神秘の黒曜石2つと20金。
+2から+3で神秘の黒曜石3つと30金。
+0から+40まで、一回で強化できたとしても神秘の黒曜石820個と8200金必要になる。
すべて金に換算すると32,800金必要になる。
わけのわからなくなる数字だ。
そうターシャは感じ取っていた
「本当にもらってもよろしいのですか?」
「もちろんだとも、ターシャのために用意したんだからな」
ターシャはサクリュウに抱きつきたい衝動を抑えながら続けた。
「このリング、耳をすますと音がするのですが」
「あぁー、忘れてた。そのリングにターシャの昏酔していた時の音声を入れっぱなしだった。」
--今すぐこのリングを首輪ごと投げつけてやりたいとターシャは思ったが、それはそれで勿体無いので、あとで音声だけは消して、いつか仕返しをしてやろうと強く思った。