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僕の幼馴染は全知全能の天才だった  作者: 板本 悟
第三話 桐咲零花の開戦宣言
21/25

最悪は続く

 桐咲舞花は戸惑っていた。一度死んだ人間が生き返って人を殺すなんてまるでホラー映画じゃないか、と。さらにいえば、桐咲や玖碾の多くは殺人鬼ではなく殺し屋である。それは桐咲舞花も類に漏れない。つまり、仕事以外で人を殺したことがないのである。そんな自分が果たしてこの状況で人を殺せるのかが心配だった。零花に刀を渡された時からずっとそれだけが気がかりだった。そんな思いを抱えながら山中を走ってそしてついに、初めてこの山の中で玖碾に遭遇した。


「桐咲の方ですよねー?」


 とりあえず、その確認の仕方に舞花はイラっとした。語尾を伸ばすんじゃねえよ。可愛いとでも思ってんのか?確かに可愛いよ。ああもう、最悪だ。


「私はこの世で最も可愛い玖碾李愛です。可愛いは正義。正義は必ず勝つ。必ず勝つということは最も強い。だから可愛いは最も強い。最も可愛い私は世界で最も強いんです。ですから投了をお勧めしますよ?」


 災難だが、最悪じゃなかった。まだマシだ。これだけ苛だたしい人間が相手なら殺意のままに殺せる。そう思った。


「そう、私はあんたのことが大嫌いだから私はあんたを切り裂いてやる」

「それは残念です。じゃあ、可愛い私があなたの首を切り落としますねー」


 お決まりとも言える宣言から二人は武器を手に取り相手に向ける。


 舞花はいつも通り肩から切り裂いていこうと刀を振るう。李愛はそれを両手に持っているナイフで捌きつつ途中途中でナイフを投げて攻撃もしている。距離が近い分、ナイフを避けるのも難しく刀で捌くと相手の攻撃がより強まるという悪循環に陥っていた。

 可愛い私が一番強いとかいってる奴が本当に強いなんてありえないんだけど、と舞花は叫びたかったが殺されないようにすることに必死で叫べなかった。


 どんどんと時間が経つにつれて舞花は追い込まれていった。ナイフ一本対刀一本なら刀が勝てるがナイフの方が多いとどうしても手数で負ける。いや、ただ多いだけならよかったのだが玖碾だけあって技術がしっかりとしているというのも追い込まれる要因としてあった。

 このままじゃジリ貧だなと思った舞花はノーダメージで乗り切ろうという考えから何発かもらっても構わないという考えにシフトした。

 舞花がガードを薄くして攻めようとしたその瞬間、そのタイミングを狙っていたかのように李愛のナイフが舞花の首元に迫った。


◆◆◆◆◆


 玖碾陸斗は地獄絵図に吐き気を覚えた。仕事柄人間の死体は見慣れているとはいえ、自分の知っている人間の死体はどうしたって気持ち悪い。自分の知り合いだけではなく当然桐咲の人間も転がってはいるのだが目につくのは自分の知り合いだった。六花や凛桜が殺した人間はかなり綺麗な状態で眠っているように死んでいる。それはそれで気持ち悪いと思った。とはいえ、いつまでも気持ち悪いとは言ってられない。そろそろ自分も仕事以外で人を殺す覚悟を決めなければ、と思う。陸斗は死屍累々を飛び越えて桐咲を探して走り出した。


「お久しぶりです。玖碾陸斗さん」


 死屍累々を越えて少し行ったところで玖碾陸斗は目の前から歩いてくる人間を見つけた。


「死んだと聞いていたけどね、散花さん」


 向こうから話しかけてきたのでこれはもう戦うしかないんだろうなぁと陸斗は思った。先程覚悟を決めたとはいえその初戦が知り合いというのは精神的に辛いものはあるが、知り合いであって特段親しくもないので別にいいかとも思った。向こうもそう思っているに違いない。


「一度殺されたんですけどね、零花さんに生き返らせてもらいました」


 何が面白いのかわからないが、うふふと笑って散花はそう言った。


「普通は死んだら生き返らないんだよ」

「でしたら私は運がいいですね」


 果たして全能の少女と関ることがいいことなのか悪いことなのかは陸斗にはわからなかった。


「で?じゃあ俺は死人と殺しあわないといけないのか?」

「その通りです。経験者として言わせてもらいますと、死ぬのは怖くないですから落ち着いて死んでください」

「じゃあ、お前が死ねよ」


 陸斗はポケットから拳銃を取り出して散花に向けた。


「玖碾がそんな物を使ってもいいんですか?」

「いいんだよ、俺は玖碾の女じゃないからな」


 そう言って陸斗は引き金を引いたがあっさりと散花は弾丸を躱した。全能である零花の銃撃も全て躱した彼女なら陸斗の銃撃くらいは余裕で躱せる。しかしそこは陸斗もプロである。銃でダメージを与えるのは無理だと判断したのか持っていた拳銃を捨て、短刀二刀に持ち替えた。


「短刀なら私に勝てると思っているのですか?」

「曲がりなりにも玖碾だからね」

「刀はどんなものであろうと桐咲の領分です」

「まぁ、やってみればわかるだろう」


 その後は何も言わずに陸斗と散花は刀を交えた。力の差は歴然だった。玖碾も桐咲も女性が強い。桐咲の女性と玖碾の男性なら桐咲の女性の方が強かった。つまり、散花の方が圧倒的に強かった。ものの十分も経たないうちに陸斗は片腕を失った。


 全く笑えねえ。女性が男女平等を叫んでいる昨今、しかしこの戦争においては圧倒的に女性が強いとか世間から外れすぎだろう。人殺しが何を言ってんだとか言われそうだけどさ、と玖碾は思いはしたが痛みでかき消される。慣らされている多少の痛みとは訳が違った。

 さてさて、どうしようかと策を巡らそうとする。しかしそれも結局痛みに邪魔をされてろくな案が出ない。


「散花さん。俺はお前が好きだよ」


 痛みをこらえて考えた苦肉の策がこれだった。もはや策にすらなってない浅はかな行為だったが一秒でも長く生きていたいがために言った。


「そうですか。さよなら」


 散花は予想外の告白も無視してさっさと首を切り落としてしまうことにした。

 散花は刀を構えて振るう。


「ったくお前、なんて場面見せやがんだよ。知り合い同士が殺しあってると思ったら告白して振られるとか笑えねえよ。笑うしかねえよ」


 散花は思わず刀を止める。止めても殺されない自信があったし、念のため誰かを確認する必要があった。

 散花が振り向くとそこには以前に二度殺した霜鳥空音が立っていた。


◆◆◆◆◆


 危なかった。今のは危なかった。一度死んだとはいえもう一度死んでもいいやとは思えない。桐咲舞花は捨て身の作戦を立てたことを早々に後悔した。捨て身で飛び込んだ先にナイフがあった時は死んだと思った。ギリギリで体を捻って躱した。そしてその一歩で勝負が決まったと言っても過言ではない。それを躱したことで隙ができた相手の首を舞花は切り落とした。桐咲としての本来の戦い方とは違うが戦争で本来の戦い方ができる人なんてそうそういないだろう。ここには戦争にならている人などいないのだ。そういう意味では誰もが公平な立場とも言える。


 辛くも勝利を収めた舞花は一旦息を整えてからまた進みだした。どっちが前かもわからない山の中を進んで進んで誰にも会わずにこの戦争が終わればいいと思った。が、しかしそんなことを思って実際そうなる人などそうそういない。舞花は目の前から歩いてくる二人組を見て、最悪だ、と呟いた。最悪も最悪である。そもそも玖碾の女性である時点で最悪なのにも関わららず、さらにその上その人物も最悪なのだ。玖碾六花と玖碾凛桜の母娘コンビ。災難なんてレベルじゃ済まされない。あった時点で死亡確定の二人組である。しかも舞花は片方だけでも勝てていないのだ。桐咲六花には酔っていたとはいえ簡単に負けた。二人を相手なんて到底できやしない。ここで舞花がとった行動は逃走だった。戦う前に距離をとって作戦を練ろうという魂胆なのだが作戦を練ってどうこうなるかと言えば間違いなくどうにもならない。


 対する六花、凛桜は舞花の存在に気がついたが別段問題ないとして急いで追うことはしなかった。のんびり山の中を散策している気分である。ちなみに霧島誠治は山の前に置いていかれた。近くに居られると迷惑だという言葉とともに。


「お母さん、私が片付けてきましょうか?」

「いえいえ、六花さんは先ほどの連戦でお疲れでしょうし私が出ます」

「そうですか、お気をつけて」


 凛桜に狙われている舞花に六花は少しだけ同情した。私が舞花の立場だったら絶対に逃げ出すなぁとも思った。それだけ凛桜と戦いたいとは誰も思わない。彼女の娘だからこそ恐ろしさは理解しているし、そもそも自分にも勝てないような相手が母に勝てる訳がないとも思った。


 六花と凛桜が舞花が通った跡を見ながら追っていると周到に罠が張ってあった。わかりやすい罠とわかりにくい罠の二重構造でこのての知識に乏しい空音なら簡単に引っかかるだろうな、と六花は思う。

 罠を張りながら逃げているということはそれなりにペースも落ちているということなのでしばらくしたら追いつくだろうと六花と凛桜はペースを変えずに跡を追う。そしてその予想通り五分もしないうちに六花と凛桜は舞花に追いついた。


 凛桜は舞花の姿を見つけると走りだし舞花に迫る。舞花まであと数歩というところで凛桜はナイフを振り下ろした。日の光を反射しないワイヤーは宙をひらりと舞った。気がつかずに突っ込んでいたら全身バラバラになっていただろう。このワイヤーも刀同様桐咲がよく使う手段の一つである。


「見えないように加工したワイヤーまで見破るとか本当に人間なの?」


 と、舞花は思わず悪態をついたが今はそんな余裕はない。目の前に人類最強が迫っているのである。ちなみに舞花は人類に桐咲零花を含めていない。もはやあれは人ではないという扱いである。

 ともかく、舞花はワイヤーを切られたので仕方なく刀を構えたが果たして刀で何秒持ちこたえられるかはさても全く予想がつかなかった。


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