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僕の幼馴染は全知全能の天才だった  作者: 板本 悟
第二話 等咋茉莉の選挙公約
13/25

彼と彼女の家

 結局、零華の言う通り等咋茉莉が生徒会長に選ばれた。投票率98%の選挙で実に7割以上の票を集めた。霧島の根回しの甲斐はなかったと言える。ちなみに僕は楠木さんに投票した。


 等咋茉莉が生徒会長になったことで学校の空気がピリピリしているようだった。ただ僕が霧島の話を聞いて敏感になっているだけなのかもしれないが。ただ、原因はわかっている。間違いなく就任が決まった後、最初の演説がそうである。


「みなさん、こんにちは。この度生徒会会長となりました等咋茉莉です。皆さんにお配りした公約には書かなかったもう一つの公約をここで宣言させていただきます」


 彼女はそう前置きをした。もうその時点で不穏だった。


「私、等咋茉莉は任期の間に財力、権力、その他全ての力を用い、ここにいる全ての人を手駒とすることを宣言いたします」


 一般生徒にはあれはかなり過激な冗談として捉えられたようだが、しかしその他の生徒からしたらあれは暴力的な宣戦布告と言えるだろう。いや、生徒だけじゃない。ここにいる全ての人には間違いなく教員も含まれているはずだ。霧島は今、どちらの立場なのだろうか。どれだけの力がどちらに動くかがわからない。

 確かに地盤固めは必要だったけど楠木さんは頼れなさそうだな。玖碾はどうだろう。どっちかがまだわかってないからな。それとこれはあまり関係ないのだが、玖碾が最近えらく機嫌がいい。曰く、アルバイト上の障害がなくなり、自分に仕事がまわってくるようになったので収入が増えたそうだ。今度何か奢ってもらうことにする。


 僕は早々に霧島と話すことにした。最近このおっさんと話してばかりだが仕方がない。僕もあまり話したくはないのだが、誰が味方かを見極めるのには必要な作業だ。

 僕は保健室に向かった。


「よく来たな。待ってたぞ」


 僕が保健室に入ると同時に霧島に声をかけられた。台詞は前回と同じだが、様子がまるで違う。疲れ切っている様子だった。


「あなたは今、どの立場なんだ?」

「まだ、等咋の陣営には入ってない」


 まだ、か。時間の問題かな。

 霧島は咳込みをして話を変える。


「それより、全能のお嬢さんはどうなんだ?この件に対して何か言っていたか?」

「ああ、言ってたよ。選挙の結果が出る前に」

「それで、なんて?」

「この件に関して私がソラにしてあげられることはない、だと」

「愛想つかされたのか?」

「どうなんだかね」


 そうじゃないことを願いたいが、あまり期待はできない。


「最良の未来のためらしい」

「全能少女の最良の未来か。恐ろしいな」


 最良の未来がなんなのかは未だによくわからない。


「そういえばお前、全能少女のことどれくらい知ってるんだ?」


 零華のこと?なんでも知っているとは思わないが、他人よりは間違いなく知っている。が、今この話題はまずい。僕はスマホを取り出し、メモ機能を使って文字を打つ。


『今、僕の体の中には盗聴器が仕込まれてます』


 それを見て霧島はこの話題を取りやめた。


「まあ、いいか。これは今度にしよう」

「ああ。それじゃあ今は味方ってことでいいんだな?」

「これに関しては信じてくれていい」


 霧島はいつものふざけた風ではなく、嫌に真面目にそう言った。


◆◆◆◆◆


 定期朝会にて、等咋茉莉新生徒会長から挨拶があった。あの新たな公約の宣言の後、初めての公の場での発言ということもあって注目が集まっていた。

 体育館に集まった生徒を前に壇上に上がった等咋さんの横には見慣れた人が立っていた。


「本日は特別ゲストをお呼びしました。こちら早明大学付属高等学校、生徒会長の桐咲零花さんです。高校の代表として、そして桐咲の代表として来ていただきました」


 等咋茉莉は演台を零華に譲った。


「みなさん、こんにちは。ご紹介に預かりました、早明大学付属高等学校生徒会長の桐咲零花です。一部の生徒はご存知でしょう、桐咲散花の従姉妹にあたります。よろしくお願いします」


 僕も知らない零華についての情報がどんどん彼女の口から語られていく。桐咲の代表?苗字が違うのは従姉妹だからか?いや、本来桐咲だったのかもしれない。というかあいつ、生徒会長だったんだ。知らなかった。


「桐咲散花さんは今、こちらの学校で研修をしています。ご希望の生徒は散花さんのように研修することができます。当然、その分の成績はつくようになっていますので大学への推薦も問題ありません。希望する生徒は担任の先生に相談してください」


 桐咲散花の居場所を知っている?失踪は嘘だった。あの時にはもう、全知を持っていたってことだろうか。

 さて、身の振り方を考えないと。零華が等咋茉莉についた以上、支配は完了したも同然だろう。全能の少女に誰が勝てるというんだ。研修に参加する手もある。玖碾はどうするんだろうか。


「おい、玖碾」


 僕は前にいる玖碾に声をかける。


「なんだよ」


 最近妙に機嫌が良かったのに今日はあまりよくないようだ。玖碾の視線は零華に固定されている。


「零華…、早明の生徒会長がどうかしたのか?」


 普通に名前で呼んでしまったことに気づき、すぐに言い換えた。


「知り合いか?あの生徒会長と」

「ああ、一緒に住んでる」

「なるほど、愛恋人はあいつか。ったく、散花が転入してきたのにも驚きだったってのにクラスメイトと零花が一緒に住んでるとかありえねえ」

「知ってるのか?零華のこと」

「有名人だよ」


 全能少女はやはり有名らしい。


「これはおとなしく手駒になるわけにはいかなくなった」

「いや、無理だろ。相手は全能だぞ」

「関係ない。これは桐咲と玖碾の問題だ。最悪、学校とか等咋とかそっちのけで戦争になるかもな」


 そうはならないと思いたい。そうなったら地盤も何もない。


「で?お前はどうするんだ?まさか、等咋の手駒になるのか?」

「いや、とりあえずは霧島のところでお世話になるよ。バイトの内定はもらってる」


 これなら学校をサボった甲斐があったってもんだ。やはり、あの一日は無駄じゃなかった。


「ああ、あの死体処理屋か。あいつは多分、こっちにつくから大丈夫だ」

「なんでわかる」

「なんでってそりゃあ、あいつの奥さんは玖碾だからだよ」

「つくづく俺の周りは殺人鬼ばっかだな」


 よく今まで平和に暮らせていたものだ。かなりの割合で零華のおかげだし、今こうなっているのは零華のせいとも言える。


「一応確認するが、お前もお前の家も人殺しでいいんだよな?」

「その通りだ。この学校にはそういうのがうじゃうじゃいるが、うちが一番規模が大きい。桐咲と同じくらいだ」


 桐咲と同じくらいと言われてもあまりピンとこない。


「各都道府県に10人くらいいる」


 つまり全部で約470人。結構多いな。その規模で戦争なんかしたら普通に警察が駆け出す。


「最悪戦争になった場合、そいつらは一箇所に集まるのか?」

「さあ、どうだろうな。状況次第だろう」


◆◆◆◆◆


 朝会後、授業が始まる前に零華と話した。


「どういうつもりだよ、零華」

「何も変わってない。最良の未来のためだよ」


 前と変わらない表情で零華は言う。それが心底ムカつく。なんか動揺しろよ。


「最良の未来ってなんだ?」

「私が生きていて、ソラが生きている未来」

「それなら別に今だって」

「今はそうかもね。でも、これからはどうだろうね」


 もう、どうにもならないのだろうか。


「零華。お前はあそこに帰れよ。あそこはお前が作ったんだろ?」


 零華の居場所はあそこしかない。自分で自分のために作った孤児院。そういえば、院長先生はどうしたんだろう。最近見てない気がする。


「なあ、零華。院長先生はどうした?」

「院長先生なんて最初からいないよ。だってあの場所は私が私のために作ったんだもの。孤児院でもなんでもない」


 ただ単純に私の家。零華はそう言った。


「いや、でも話してたし。零華も話してただろう?」

「誰と?」


 零華はニッコリと笑ってそう僕に聞いてくる。


「弁当だって作ってたし」

「誰に?」

「だから、院長先生に」

「だからいないってそんな人。そもそも孤児院じゃないんだから」


 零華が何を言ってるのかさっぱりわからない。


「弁当はいつも2つしか作ってないし、院長先生とやらと会話なんてしたことがない」


 は?いや、だってあの時。零華は弁当を2つ持ってて、自分のはもう持ってるって言った。ああ、確かに持ってるのか自分の手に。それは零華の主張通りだとしてもじゃあ会話は?


『ホントに手が早いわね』


 って言ったのは院長先生に同調したわけじゃなくてただの自分の感想?確かに院長先生の言葉がなくても会話の意味が通っていく。


「ふふっ。ソラって本当に純粋だね。子供の頃に言ったことを未だに信じてるんだ。

『ここはね、親に捨てられちゃった子が来るところなの。院長先生はね、ソラの親みたいなものになるんだよ』なんて、いまどき孤児院なんてあるわけがないのに。あるのは児童養護施設でしょう?ま、児童養護施設でもないんだけどね」

「なんでそんな嘘を?」


 理由なんて正直どうでも良かった。ただ、謎解きを終えた探偵のような義務感が僕の中にあった。その義務感に従っただけだ。


「なんでって子供が子供を育てるって大変でしょう?だから大人がいることにしたかったの。大人がいれば、いることにすれば御しやすい」


 零華はなんでもないように言う。実際彼女からしてみればなんでもないのだろう。最初から存在しないのだから。


「そうそう、私の過去を知りたくなったら霧島なんかに聞かないで自分で考えなさい。そうすればついでに私のしたいこともわかるわ」


 零華はついでとばかりにそう言った。

だから僕もついでとばかりに質問する。もう何回もしたあの質問だ。


「桐咲散花は生きてるのか?」

「もちろん。私の学校に通ってるわ」


 零華は自信を持ってそう答えたが、あまり信用できないでいる。

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