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ある時の観察 理解出来る理不尽

 暗闇の支配する空間。


 此処は牢獄。何人たりとも出入りできぬ封じられし場所。


 数十年の長きわたり、この場所は放棄されていた。訪れる者も無く、出て行くものも居ない。この空間に至る唯一の道は、重厚な扉と、くどいほど施された多重結界により完全に封印されていた。扉自体にも特殊な細工の施された鍵か掛けられており、開ける事は容易ではない。完全に閉鎖された空間。


 そこには、闇の奥底には確固たる存在感を持つ一本の剣が安置されて、いや、封印されていた。数百年も昔の彼の時、この剣はある人物の腰に在った。表の歴史では語られる事はなかったが、それは事実だった。その直系の一族には伝承が残っているし、歴史に詳しい者なら知っている。

しかし、今となっては、誰も扱う者の居ない、朽ちるのを待つだけの金属の棒に過ぎなかった。忘れ去られた存在ほど、虚しいものはない。


 だが、その刃は、光を当てられればわかるだろうが、永き時を過ごしたとは思えぬほどに、輝いている。


 光が差し込んだなら、この剣はその刃の色そのままに光を反射しただろう。何故、手入れもされない剣が、何時までも素晴らしい輝きを称えているのか、それは一重に彼の剣に宿りし尋常ならざる魔力の成せる業であった。


 そう、どこにあろうとも。


 朽ちる事のない剣だった。だから、廃棄ではなく封印されたのだ。


 その剣は、刻まれし銘、名が在った。


 しかし、今はその名を唱える者は居ない。忘れられた空間に、名を忘れられた剣が一振り。今も孤独に存在する。在り続ける。在り続けるしかない。


 他にも、この暗闇の中には様々なものが置かれ、あるいは封印されていた。


 それは、魔力を持った魔法の宝物であり、


 それは、莫大な魔力を秘めた魔石であり、


 それは、この世のものではない禁断の書物であった。


 今の人の世に出すには危険すぎるもの、それがある程度集められ、ここに封印されていた。忘れられるほど、長い時間。悠久にも等しい時間。


 剣は今でも待ち続けている。今一度、自身を振るってくれる優秀な主を。自分が仕えるに値する、卓越した人物を。


 だが、この数百年、誰一人として手に取らなかった。最後にこの場が開かれたのは数十年前。それ以来、誰一人として入ってこない。


 剣は待った。封印されて以来、待ち続けている。今も変わらず、自分を使いこなせる人間の出現を。意志というものは存在しなかったが、剣は待っていた。だが、ここにくるものは居なかった。なぜなら、人の記憶にも残っていないような場所にあったから。そういう場所に作られた空間だったから。


 そう、地下の一室。誰も来ることの出来ない私有地の最下層。


 此処は牢獄。何人たりとも出入りできぬ封じられし場所。


 最も安全な地区。



 暗黒の支配する空間。






 過去、私は自分を僕と呼び、俺と直し、今は私になっている。単眼鏡を掛ける様にもなった。一重に、責任ある立場に立たされたせいであるわけだが、公爵の位についている人間が、自分のことを俺、などと言っていては示しがつかない上に、他の爵位を持つ者達に、色々と陰口を叩かれて厄介な事になる。私自身は一向に構わなかったのだが、私一人の問題ではなくなっている。


 私には一生を賭してでも護り通さねばならない人間が二人居る。


 聡明で、よく気が利くレイフィアレナ。


 無邪気で、よく懐くレンゼリィナ。


 二人の為なら、私は命を張る。私の、最愛の二人の妻。


 カツカツカツ。


 私の靴音が響く。騎士団訓練所の宿舎。その廊下を、私は一人で歩いていた。平時の服装で。


 私とすれ違う騎士、もしくは騎士見習いは私に向かって敬礼をしていく。私はこの騎士団の二番隊隊長だったから。


 だった。そう、もう過去形となる。


 一歩一歩、足が重くなっていく感じがする。しかし、それでも私は向かわなければならない。向かう事を止めるわけにはいかない。


 私と、レイとレンの為に。


 私の足は、ある扉の前で止まった。扉に書いてある文字は、団長室。


 三度ノックし、室内に入る。


「ルシア=クォン=ファンディアハル、到着いたしました」


「うむ。来たか」


 団長が、渋い顔で待っていた。ただ私に一言、言うだけだが、それが言いたくない内容なのだ。それは分かっている。


 しかし、私はこの場に来た。責任を問われるわけでも、罪を架せられるわけでもないが、この場に居た。


 ここは私の所属していた騎士団の、団長室。そこには渋い表情をした団長が、執務机の向こうから、私を見ている。


「では、ルシア=クォン=ファンディアハル。貴公は、本日をもって、我が騎士団からの除隊を命じる」


「了解いたしました。


 今まで、お世話になりました」


 私の言葉を聞いた団長の表情が、より一層渋くなる。これ、私の除隊は団長の苦渋の決断。それがどれほど苦しいものだったか、団長のあの顔を見れば否が応でも分かってしまう。それほどに、渋い顔をしている。


 私は踵を返し、団長の団長室を後にする。恐らく、もう二度と訪れる事は無いだろう。私は、騎士団を除隊したのだから。


 その事実は、私の心に、少しだけ刺さった。



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