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夜桜のメモ3  作者: 夜桜
短編
1/8

とある夏の出会い

古畑(ふるはた) 隼人(はやと)16歳。彼は今、夏休みと言うことで母方の実家に家族全員で遊びに来ていた。母方の実家はドが付くほど田舎であり、その証拠に家の近辺を見渡せば山、川、田んぼ、畑と民家がちらほらとしかない。


「やることねぇな」


都会っ子の隼人は夏の強い日差しが照りつける縁側でソーダーアイスを食べながら蝉の鳴き声を聞いていた。

別にやることは探せばたくさんある。山にある澄んだ水の池で魚釣りや昔ながらの遊び、蝉捕りなどなど。ただ隼人自身が動かないだけで遊ぼうと思えば遊べるのだ。


「田舎だから通信悪いし」


携帯を開き電波を見ればアンテナは5本中、1本しか立っていない。しかもたまに電波が切れて0本の時もある。

それを確認した隼人はふと視線を夏の綺麗な青空から庭にある1つの倉へと視線を変えた。実は母方の実家には先祖代々から受け継がれる倉がある。それが今、隼人が見た倉だ。いつもはでかい倉だと何となく思っていたが、今まで入ったことはない。


「暇つぶしに何かないか行ってみるか」


ソーダーアイスを口に咥え、サンダルを履いた隼人は大きくて年季の入った倉の前に立つ。こうして見ると意外と倉は大きく感じられる。大きさは大体、縦がビルの3階分で横が大体10メートル、奥行きが25メートルプールを少し縮めたくらいだと考えられた。


「それじゃぁ、おじゃましますっと」


現在、隼人の両親と祖母と祖父は隼人を置いて遠くの方へと出掛けている。倉の扉を開くと中から夏とは思えないくらいひんやりとした空気が流れてきて一気に隼人の体を冷やす。


「寒いし埃くさい」


ぶつくさ文句を言いながら倉の中に入った隼人は辺りを見回すと、床や棚にはいろいろな書物や箱が置いてあった。

とはいえ、隼人の気になるような品物はなく、なんだかつまらなくなってきた隼人はくるりと扉の方へと向かい帰ろうとした時、視界の隅で白い何かが動くのを見る。


「なんだ?」


ゆっくりと近づき、物陰に隠れた白い何かを上から見るとそれはネズミでもなく埃でもなく、高さ10センチほどの小さくて可愛らしい色とりどりの綺麗な着物を着た小人の女の子とバッチリ目が合った。

目の色は新緑で髪の毛は一切汚れのない純白の雪のようで、それはそれはとても長く床にまで達している。そんな可愛い小人に不思議と見入ってしまった隼人は怖いとか不気味だとか思わず、気が付けば普通に声をかけていた。

まぁ、そのうちの半分は好奇心と言うなのやつだ。


「ねぇ、君は誰?」

「ひっ!」


隼人の声を聞いた小人の女の子は脱兎の如くその場から逃げだそうとしたところ、反射的に動いた隼人によって小人の女の子は両手で捕まえられた。


「いやや、離して。うちを(めっ)さんといてぇ〜」

「ちょっ、暴れるなよ。大丈夫だ、俺は何にもしない」

「いーやー!まだうちは消えたぁないっ!」




* * *




それから10分後。


「うちは倉ぼっこって言う妖や。気軽に倉ちゃんって呼んでええよ?うちが許可するからな。そんで、あんたの名前はなんや?」

「俺は隼人(はやと)、へぇ、君は妖怪なんだ。てか、今の時代にいるんだすげ〜」


この僅か10分の間に隼人は倉ぼっこと名乗る綺麗な着物を着た小人の女の子の警戒心を解き、今に至る。

どうやったのかと言うと変な話、一心不乱になって逃げ出そうとする倉ぼっこよりも一心不乱になり、滅さないから大丈夫だと伝えただけ。

その光景はよそから見ると『お前、頭のどこかがおかしくなったのか?良い病院を紹介するから今すぐ行こうな?』と言う状況だった。


「座敷童って知っとるか?」

「あぁ、もちろんだ」

「うちは座敷童と同じ性質なんよ、それと同時に防災の神様でもあるん」


今、隼人は倉の中にあった座布団を引っ張り出してきて正座し、その膝の上で倉ぼっこがちょこんと座りながら話している。


「ついでにうちが倉から離れると家運が傾くのは知らんかったやろ」

「うん、知らなかった。まぁあれだ、倉ちゃんは妖精みたいな感じか」

「そう!だからうちはこの家の家運を傾かせたくはないから、ずーとここにおるんや」


腰に手を当ててドヤ顔をする倉ぼっこ。なぜ、家運を傾かせたくはないのかと隼人が聞くと倉ぼっこは昔の話をしてきた。

ともあれ話が長いので簡単にまとめると数百年前、ここに住んでいた若い男が道端で猫に襲われ怪我をした倉ぼっこを見つけ、家に帰り介抱したそうだ。

その若い男に倉ぼっこは惚れてしまったのだが、若い男には妻がいた。そこで倉ぼっこの初恋は終わる。


が、しかし倉ぼっこは惚れた若い男の側にいつまでもいたいと言う気持ちは諦めきれず、倉ぼっこは若い男に自分の特性を話し、助けてくれた恩返しに倉の中に住み着き、家運を下げないようにするからどうか倉に住まわせてと約束した。もちろん、心優しい若い男は了承する。

恩返ししたいと言う気持ちは事実だが、実は本当の理由は倉に住み着けばいつまでも近くにいることが出来るから。


「まぁ、その人がいなくなった後はここから出ようかと考えたんやけど、家運がええ感じやと住む人も明るくて見てるうちも楽しくなるから、うちはずーとここに住むって決めたんよ!」


八重歯を覗かせて笑う倉ぼっこに隼人も自然と笑みがこぼれた。


「それにしても、よくうちに声を掛けたな。普通は驚いて腰を抜かすんやない?」

「驚いたけど倉ちゃんが可愛かったから声を掛けたかな。真夏のビーチでやるナンパな感じで」

「ふふふ、上手いこと言ってぇ〜。褒めても何も出てこーへんよ」


倉ぼっこは照れているのかきめ細かい滑らかな頬をほんのり桜色に染めて体をくねらせる。そんな可愛らしい姿を見た隼人は興味本位でこの倉にきて良かったなと実感した。


それから、隼人は家に帰ってきた親たちに呼ばれ渋々一旦、倉ぼっこから離れるも大事な用事がない以外はずっと倉にこもった。

流石に倉にこもりっぱなしの隼人を見て両親は心配したが隼人は倉に興味があるものがあったからそれを見ていると虚実ないまぜに言い、元の家に帰るまで倉にいたとさ。


数日後。


「今日が帰る日やろ。ほら、さっきから隼人の親御さんが呼んでるで?さっさと行かな」

「……うん」

「ふふ、うちは逃げも隠れもせん。また来た時に遊ぼうや」

「おう!ありがとな」


隼人は倉ぼっことまた会うと約束して倉を出た。

さて、また彼と倉に住む妖が出会うのはいつの日になるのか。それは案外、近い日かもしれない。






なにを執筆したかったのかと申しますと

ただ単に『なまりのある話し方をする女の子』が執筆したかった……ただそれだけです。


あとは妖が出るお話も執筆したかった

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