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妖狐とゾンビの渋音恋物語  作者: 北風とのう
第三章 決意
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-3

 次の月曜日の朝、水音が裕也に言った。

「ねえ、今日の放課後、千古さんと三人で話そうよ」

「嫌だ」

「……まだ怒ってるの?」

「……」

「じゃあ、また私と千古さんの二人で話しちゃうよ」

「勝手にしろよ」


 昼休みが半分ぐらい終わろうとしている時、裕也はいつものように机に突っ伏して寝ていた。その後ろでは水音は何か文庫本を読んでいる。そこに突然、クラスの後ろの方から一人の女子がつかつかと歩いてきて寝ている裕也の前に立った。

「上条君、メアド教えてくれる?」

裕也はさすがに起きてその子を見た。霧島紗木子だ。冷たいほどに整った顔立ち。腰まで伸びた漆黒のストレートヘアが歩く度にさらさらと揺れる。しかし紗木子はクラスで誰とも話さずにいつも孤立してほの暗い雰囲気の子だった。

クラス中の視線が水音に集まる。水音が立ち上がって怒るかと期待しているのだ。しかし、今日はそういう展開にはならなかった。裕也がノートの端にメアドを書いて、それをちぎって紗木子に渡すと

「ありがとう」

そう一言だけ言って、紗木子はまたつかつかと自分の席に戻って行った。

クラス中の生徒が水音を見ていたが、水音は読んでいる本から目をそらす事は無かった。


 放課後になり水音が教室を出ると、すぐに裕也が追いかけて行った。教室棟を出たところで裕也が水音をつかまえて言う。

「いいのか?霧島さんとメアド交換しても」

「いいよ。別に。狐女以外なら」

水音は怒っているふうもなく、淡々と言う。しかし反対に、裕也が怒った。

「お前、そういうのやめろよ」

「えっ?なんで怒るの?狐女以外なら誰とメアド交換しても、誰とデートしてもいいって言ってるじゃない。裕也が干渉するなって言ったんじゃない。それとも干渉して欲しいの?」

「お前、なんでそう保護者目線なんだよ」

「……」

「これから千古さんの所に行くんだろ。一緒に行こう」

「あっ、そう。……じゃあ、そうしよう」


 二人は代々木八幡まで歩いて行き、千古の待つカフェに入った。

席に着くなり裕也が切り出す。

「千古さん、今日、紗木子からメアド聞かれたよ」

「えっ、どなたですか?」

「ピアノのうまい子。ほら…………」

そこまで言った時、正面に座っていた千古が一瞬裕也を睨む。裕也がそれに気づいて次に何を言おうか困っているそぶりを見せたので、千古が口をはさんだ。

「ああ、あの教室の後ろの方にいる暗い雰囲気の美人の方ですか。霧島紗木子さんですね」

「そうそう」

水音が関心したように言う。「千古さん、よく分かるね」

「ええっ。一応職員ですから。生徒の方の名前と顔は全員分かります」

「へえ……」

「それで、どこでメアド聞かれたんですか?」

「教室で昼休みに堂々と。水音の見ている前で」

「何でメールしたいのか言ってましたか?」

「いや、何も。ただメアド知りたいって言っただけ」

「そうなんですか。心配ですねそれは。二人だけで会ってはだめですよ」

裕也の横に座っている水音が、斜め前の千古の方にちょっと身を乗り出して言う。

「千古さん、そういう干渉される事、こいつはすごく嫌がるよ」

「嫌がられても私は心配しますよ。というか、嫉妬してしまいます」

「えっ?」水音が驚く。

「冗談ですよ。あの方は普通の方ではないですから」

「えっ?人間ではない?」水音がさらに驚いて言う。

「いいえ。人間ですよ。しかし普通の人間ではないですね」

「えっ?どう普通じゃないの?」裕也が聞く。

「メンヘラです」

水音と裕也は笑い出した。裕也が言う。

「千古さん、面白いなあ。たまにそういう今風の言葉を使うから」

「本当に紗木子さんには気を付けた方がいいですよ。もしも二人で会う事になったら、心配ですから私が裕也さんに憑依してついて行きましょう」

「ちょっと待った!」水音が大きな声を出す。

「なんで『裕也さん』って言うんだよ。いつも上条くんって言ってただろう」

「あっ、ちょっと間違えました」

「裕也でいいよ」裕也が言う。

「お前はだまってろ。なんで間違えるんだよ」

「冗談ですよ。ちょっと水音さんをからかいたくなっただけです。憑依の方はいいんですか?」

「いいわけないだろ。憑いたら速攻で祓うぞ」

「ははは。でも、本当に心配です」

「どうして」

「だって、裕也さんと水音さんは」

「裕也って言うな」

「裕也でいいよ」

「雄也さんと水音さんは皆が公認の仲なんですよね」

「いや、違うよ。私らは幼馴染なんだ。それだけだよ」

「そうは見えませんけど。……それはともかく、その水音さんが見ている前で堂々とメアドだけ聞いて、目的を何も言わないって、普通じゃないでしょ。何か意図があると思いませんか?」

「……」

「宣戦布告?」と水音が首をかしげる。


「まあ、もういいよ紗木子の事は。何かメールしてきたら考えればいいじゃないか」

「メールして来たら必ず教えてよ」

「だからそういう保護者みたいに上から目線で話すのやめろよ」

「裕也さん、私には教えてくださいね」

「裕也って言うな」

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