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妖狐とゾンビの渋音恋物語  作者: 北風とのう
第八章 ゾンビ娘
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-2

 裕也は千古を連れて家を出るとすぐにタクシーを拾った。タクシーの中で裕也は必死に涙をこらえていた。千古も黙って裕也の隣に座っていたが、水音の家に近づくと口を開いた。

「裕也さん、着く前に一つお聞きしておきたいのですけど」

「…………」

「私が水音さんにお会いしたら、すぐに分かります。私たちの知っている水音さんの心がそこにあるかどうか」

「…………」

「それで、もし心があったら二人で全力で説得しましょう。今のままでいて欲しいと。……しかし、もし心がそこになかったらどうするのですか?」

「…………」

「ごめんなさい。辛い事を言って。今、裕也さんから答えが返って来ない事は分かっていますが、着く前に一応覚悟だけはしておいて欲しかったんです」


 やがてタクシーは水音の家の前に止まる。裕也が呼び鈴を出すと、水音の母親が出た。そして彼女がドアを開けると裕也も千古も驚いて一気に緊張する。母親が目を真っ赤にして涙ぐんでいたからだ。裕也がそれでも必死に正常を装って話す。

「一日に二度も来てすみません。で、水音さんは……」

すると母親は笑顔を作って言った。

「すみません。ちょっと泣いてしまって。突然あの子の記憶が戻ったんです。ご存じだと思いますけど、二年前の飛行機事故の時にあの子はその前の記憶を失っているんです。それをさっき思い出したんです」

やがて水音が家から出てきた。白いジャージの上下にダウンジャケットを羽織っている。三人はそばにある柏の宮公園の方に歩き出した。

「裕也、千古さん、私、記憶が戻ったんだよ。神様のクリスマスプレゼントだね」と明るく言った。千古がすかさず言う。

「昨日の演奏は素晴らしかったです。ニコ動でも『銀花ちゃん超美少女』と『水音ちゃん可愛い』が拮抗していましたね」

「う~ん、可愛いの方がどうみたって格下だなあ」

「昨日は銀花に付きまとわれて大変でしたね」

「そうそう。もう、かわすのが大変だったよ」

「…………」

「で、何の用?」

裕也が慌てる。

「いや……」

「っていうか、千古さんとなんで二人でうちに来るの?」

裕也が答えに詰まっていると、千古が水音のすぐ目まで歩いて行って、にこにこしながら言った。

「実は今日は裕也さんとデートなんです。でもその前にちょっと水音さんに宣戦布告しないと悪いかなって思って」

水音は急に怒った顔になり、

「え?この狐女、何言ってるの。絶対に裕也は渡さないよ」

と言って裕也の腕をつかんで千古を睨んだ。

裕也は、あっけにとられていたようでしばらく呆然としていたが、急に暗い顔になって千古に、

「千古さん、もう分かった。やめようよ」と言い、水音に

「水音、嘘だよ。僕が水音以外の人とデートするわけないだろ」と言って、水音を抱きしめた。

「はあ、やっぱりだめですか。じゃあ私はあきらめて帰ります。お二人でデートを楽しんでください」


 水音は最初はしくしく泣いていたが、裕也が抱きしめているうちに落ち着いてくる。そして二人は公園の芝生で一時間ほどしゃべってから別れた。


 裕也が極度に落ち込んで浜田山駅までとぼとぼと歩いてくると、千古が待っていた。

「千古さん、待ってたの。悪いね。ずっと。寒いのに」と裕也は力なく言う。

「裕也さん、やはり……」千古が言いかけた時に、裕也はそれを遮る。

「言わなくていいよ。よく分かった……。もしも僕らが知っている水音だったら、千古さんと僕がデートするなんて言ったらまず僕に怒るよ。千古さんに怒るのはそれからだ」

「それと反応速度が速すぎますね。普通だったら、あんな事を言われたら、しばらくは何を言われたか分からずに茫然としますよ」

「……」

「で、どうしますか?」

「悪いけど今日はもう家に帰る。何も考えられないんだ。……千古さん、ごめんね」

「そう……ですね。何かあったらいつでもメールをください」


 そう言ってはみたものの、二人は同じ電車に乗った。電車の中で二人は隣に座ったが、長い間沈黙していた。しかし明大前に近づく頃に裕也は聞く。

「ねえ千古さんはどこに住んでるの?一度も聞いた事がないから。まさか那須じゃないよね」

「ははは。那須じゃないですよ。知りたいですか?」

「聞いていいんなら」

「実は今は富ヶ谷に住んでいます」

「へえ、代々木八幡か」

「はい。最初は通勤電車で通う自信が無かったんで、歩いて通える所を探したんです。でも、そろそろ引っ越そうかなって思ってるんですよ。どこがいいですかね」

「う~ん、白山とかどうかな」

「そうですか。一度行ってみますよ」


* *


 正月休みの間、裕也は水音とはメールで連絡を取り合っていた。しかし裕也は水音にどう接していいか分からないので、どうしても会う気にはなれず、水音の方からも裕也を誘って来なかったので、結局二人は休みの間は一度も顔を合せる事はなった。


 そして一月六日。三学期が始まる。その朝、裕也は誰よりも早く学校に行った。いつも早く来る生徒たちが次々に登校してきて裕也に挨拶する。

「上条君、あけおめ。どうしたの、早いね」

「いやあ、心機一転で……」

「ふ~ん」


 裕也は水音の登校をひたすら待っていた。なかなか登校して来ないので心配になってきたが、最初の授業の始業ベルが鳴った時になって、やっと教室に入ってくる。

「あけおめ~」と水音が元気に挨拶をする。裕也が

「水音、ぎりぎりだね。心配したよ」と言うと。水音は

「裕也こそ、ちゃんと来るかどうか心配したよ」と返事をした。


 休み時間になる度に裕也は水音の方を振り向き、水音に色々と話しかける。そして昼休みになると裕也の方から、

「水音、一緒に食堂に行こうよ」と声をかけた。

生徒たちは

「どうしちゃったの。今度は裕也が保護者みたいじゃん」

「一体、何があったの?ってか、何があると裕也がああいう風になるの?」と噂し合う。水音の様子を見て変だと言う者はいなかったが、裕也の水音に対する接し方の変わり様にクラス中の生徒が驚いた。そしてその後、裕也の変貌はさらに『なりふり構わず水音の面倒を見る』というレベルになっていく。

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