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妖狐とゾンビの渋音恋物語  作者: 北風とのう
第七章 クリスマスコンサート
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 しかし一旦やる事が決まると、それからの水音の頑張りは凄まじかった。銀花に連絡をとって東京に呼び出し、毎晩、夕暮れの渋谷の街角に立ってヴァイオリン・デュオをゲリラ的に弾いた。二人の美少女の演奏にいつも人だかりができ、数曲弾き終わると水音はクリスマス演奏会のチラシを配る。一週間もすると、二人は渋谷を通行する人たちの間で「有名人」になり、二人を見かけると「今度は何時に弾くんですか」と聞く人まで現れた。水音は恥ずかしがる銀花の機嫌をとるために、銀花と食事にも行った。

 千古の方は演奏会をニコ動で生中継する計画を立てる。さらに運営会社に、水音と銀花の街角演奏の動画とニュースイレブンの放送録画を送り、演奏会の宣伝をしてもらうよう交渉する。やがて『突然のお知らせですが、私たちはクリスマスコンサートをやります』というバナーが出され、チェロの松野・浜垣デュオ、ピアノの紗木子、ヴァイオリンの水音と銀花の画像も出た。


 そしてイブの当日、会場は満員になる。『ちょっと時間があいてしまったから来てみたんだ』的な男、女、カップルが大勢訪れる。それでも会場の方はクリスマスらしい落ち着いた雰囲気に終始したが、中継された画面の方は派手に盛り上がった。紗木子がショパンを弾いている時には、『おまえらの愛で見えない動画』というタグが付けられる。チェロのデュオ、ヴァイオリンのデュオとも、イケメンや美少女を崇拝する米が溢れ、この日、渋谷音楽学園の名前はサブカル・オタクたちの間で一躍有名になった。


* *


 コンサートが終わって客たちが帰ると、出場者たちもすぐに帰っていった。急に静かになっていく渋音の建物。水音は控室の外の廊下で裕也を捕まえた。

「ねえ、裕也。今日は本当は裕也と弾きたかったのよ。ちょっとさあ、今から練習室でいいから、一緒に弾かない?ディナーはちょっと遅れてもいいからさ」

裕也がOKすると、水音は裕也の手を引っ張って練習室に入る。もともと練習室に入ると外の音はほとんど聞こえないのだが、この時はクリスマスイブの夜だと思うからか、特に静かに『深々と』という言葉がぴったりだと思われるような時間が流れていた。水音はヴァイオリンを取り出し、調弦をする。

二人はそれから、渋音祭で合せたクライスラーなど、数曲を弾く。二人の弾く二人だけのためのクリスマスコンサートだ。ほんの十分ほどだが。そして弾き終わると水音は下を向いたまま言った。

「裕也、どうもありがとう。裕也と弾けて本当にうれしいよ」

水音が涙をポロポロ流したので、裕也は心配しておろおろしたが、すぐに水音は元気な顔に戻り、二人は近くのレストランに遅いディナーを食べに行った。

 食事をしながら、二人は出会ってからの思い出をあれこれと語り合う。水音がとても楽しそうだったので、裕也も安心した。

 深夜近く、二人はレストランを出て、すっかり静かになった松濤の住宅街を抜けて山手通りでタクシーを拾った。最初に浜田山の水音の家に寄り、それから裕也は目白の自分の家に帰った。


* *


 裕也が家に着いて、ベッドについた時には午前一時になっていた。成功したコンサート、水音との練習室でのミニコンサート、それにディナーの光景が頭に浮かぶ。充実した一日に裕也は満足して眠りについた。


 明け方、裕也はメールの着信音で眼が覚める。外はまだ暗い。時計を見ると五時。寝てからまだ四時間しか経っていない。

スマホを見ると、水音からのメールだった。こんな時間に起きているんだ、と思いながらメッセージを開ける。

『裕也、今までどうもありがとう。二年間、裕也と一緒に過ごせて毎日が本当に楽しかったよ。……本当に。今日のクリスマスも最高だった。いい思い出になる。

 でもごめんね。もう裕也と一緒には過ごせないんだよ。だって私はこんな身体だから。やっぱり裕也の彼女にはなれない。こんな生活をいつまでも続けてちゃいけないよね。

 私は天国に行きます。いつまでも裕也を応援しているよ。ちゃんと人間の彼女をみつけるんだよ。あと、霊に憑かれたら榊でそっと撫でるんだよ。作曲、頑張ってね。裕也の曲は素敵だったよ。あと、身体に気を付けてね。

じゃあ、さようなら。水音』

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