-2
「京都の銀花が渋音に編入して来たいと言ってきました」
水音があきれて大声を出す。
「はあ?なんだよ、『そういうベタな展開は私の感性に反しますから阻止します』って言ってたじゃないか」
「だから、まだ編入してないですよ。来たいと言ってきただけです」
「で、楽器はなんなの?」
「だからヴァイオリンです」
水音があきれたような声をだす。
「えっ?そんなのだめに決まってるだろ」
「あれ?言っていませんでしたっけ?同じ楽器だから相性がいいって。それとも『キャラが被るから』とかっていう理由でだめですか?」
「だって、実技試験だってあるでしょ。寄付をいくらしたのか知らないけど」
「寄付はかなりいただきました。当分、この学校はお金の心配をしなくて大丈夫です」
「で、うまいの?」裕也が聞く。
「ヨーロッパの方のコンクールで入賞しているらしいです」
「…………」
水音は驚いたというよりもあきれたような顔をしていたが、裕也が代わりに聞く。
「どのコンクール?」
「それを書いた紙を探しているのですが、見つからないんです」
「それから彼女は水音さんに助けていただいた恩返しがしたいと言っています」
「だから、恩返しなんて今時はやらないんだよ。そんな事より裕也を狙ったらどうするんだよ」
千古は水音が興奮気味なのに全然かまわずに平然と話を続けていく。
「あと、彼女はですね、男性には全く興味が無いんですよ」
「……だから?」水音がますますあきれたような顔をする。
「お二人を料亭で彼女に会わせた時、銀花はさんざん羨ましがっていたと言いましたよね。実は、彼女が気に入っていたのは水音さんの方なんです」
「おい、阻止しろ」
「はい。分かりました。阻止します」
しかし裕也が言った。
「いいじゃない。銀花さんならすごいハイスペックだよ。水音、女の友達いないだろ?彼女を友達にすればいいじゃない」
「おい。これは友達っていう感じじゃないだろ」水音の顔がみるみる赤くなった。
「水音さん、顔が赤くなって可愛いですね。私もそう考えたんです。これで水音さんが裕也さんにつきまとうのを阻止できれば裕也さんは自由になるかな……と」
「おい、狐女」水音が怒って言う。「おまえ嫌い」
「……しかし、それは無理でしょう。銀花が編入してきても、水音さんの裕也さんへのつきまとい行為がやむとは思えません。」
「その点なら心配いらないよ。もう絶対、裕也に付きまとわない。」水音はきっぱりと言い放った。
「でも、ここで一つだけ話しておきたいポイントがあるんです」
「なんだよ」
「私は可愛くて知恵もあり、性格もいいスーパー狐ですが、一つ欠点があります」
「だからなんだよ」
「今の世ではコネが全くないんです。平安の時代には殿上人すべてを知っていましたが……」
「そうだろうね」裕也が言う。
「しかし銀花はああいう隠れ家料亭の女将ですから、ご想像できると思いますが、そうとう広範囲の人を知っています」
裕也がつくづく関心したような顔をする。
「へえ~、妖狐って時の権力者に愛人として取り入って自分の思い通りに動かすっていうイメージがあったけど、現代の妖狐は料亭の女将をやってコネを作っているんだな。銀花さんならほんの二~三分話しただけで、みんな、メロメロになってしまうだろうからな」
「そうですね。現代の日本の場合は突出した権力者がいないですから、広範囲のコネを持っていた方がいいんですよ」
「なるほど」裕也は本当に関心しているようだ。
「それと、裕也さんには誤解して欲しくないので言いますけど、私は別に権力者の愛人では無かったですよ。私は医者として権力者にも庶民にも接していました」
「ああ、ごめん。たしかに千古さんは愛人っていう感じは全然しないよ」
「どうでもいいから、早く話の続きをしろよ」水音がぶすっとした顔で言う。
「で、実はニュースイレブンに話を付けてくれたのも銀花なんです」
「ああ、だからなんだ。すぐに話がついて、すごいなと思っていたよ」裕也が納得したような顔をする。
「まず、水音さんの熱弁ビデオを銀花に見せたら、彼女が痛く気に入って……」
「おい、なんでそんな事したんだよ」
「だから相談しようと思ったんですよ。そうしたら彼女が勝手にそのビデオをニュースイレブンのディレクターに見せてしまったんですよ」
「……」
「いいなあ、銀花さん」裕也が遠くを見るような目をしてつぶやいたので、それを見た水音は、
「でも編入は阻止」ときっぱりと言った。
「で、やっと言いたいところまで来たのですが、彼女が、編入できなくてもいいから水音さんとデュオをしたいと言ってます」
「え……それは……」水音が嫌だと言う前に、裕也が遮って言った。
「それいいね! ウケるよ」
「嫌だ。そんなんでオタクに受けたくない。」
「水音さん、紗木子さんをこき使っといて自分だけ顔出しNGとかだめですよ」
「いや、そういう問題じゃないだろ」
しかし裕也が言った。
「水音、オタクうけとかじゃないよ。知っているだろ?ヴァイオリンのデュオってあんまりいない。水音と銀花さんなら美少女デュオで絶対売り出せるよ」
「別に私は自分がデビューしたいわけじゃない」
水音は言うが、裕也は続ける。
「それに、ヴァイオリンのデュオっていい曲が少ない。プロコぐらいだよ。だから僕が曲を書くよ」
「そう。……分かったよ」水音はうなずいた。
「ほんとうに、裕也さんが言うと水音さんは素直ですね。」
「では、銀花は転入はしないけど、クリスマスコンサートで水音さんと弾くという事でいいですね。これでチェロのデュオ、紗木子さんのピアノ、それとヴァイオリンのデュオになりますから九十分はいけるでしょう」
「え?裕也は出ないの?」
「いいよ僕は。企画をやる。それとヴァイオリンのデュオ向けに編曲するから結構忙しい」
「……分かった。で、生徒以外の人がコンサートに出ていいの?」
「別に公式行事じゃないですから。ホールを借りているだけです。外部の人には言わなきゃわかりませんよ」
「…………」




