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妖狐とゾンビの渋音恋物語  作者: 北風とのう
第六章 京都
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「それより渋音に少し寄付をしてもらおうと思っています。私も『お金なんてどうにでもなる』なんて大きなことを言いましたが、私の持ち物はこの前の琵琶のように古すぎて、ちょっと表に出しにくいんですよ。それを女将が引き取ってくれるんです」

その時ルームサービスのコーヒーが運ばれてきた。千古は言う。

「では、私はコーヒーを飲んだら出ていきますので、お二人は京都の夜を楽しんでください。それから本当にすみませんが、私が帰ってきた時にドアを開けてくださるとありがたいです」

「え?気が付かないかもしれないけど」と水音は冷たく言い放ったが裕也は心配そうな顔をして千古に言った。

「千古さん、物が見つかったら携帯にメールちょうだい。それから気を付けてね。何があるか分からないから。もしも危機になったら連絡するんだよ。僕に助けられるかどうかわからないけどさ……」

「裕也さん、やさしいですね。ありがとうございます」

そして千古はコーヒーを飲むと出て行った。

そして後には、……ベッドに倒れ込んで既に熟睡している二人の姿があった。


* *


 翌朝、水音は先に眼を覚まし、服も着替えずに隣に寝ている裕也を発見する。

「裕也」水音は小声で言ってみる。自分も服を着たままだ。すでに七時。窓から外を見るとすでに陽が昇って街には人が歩いている。

「裕也」今度は肩をゆすって起す。

「あれ?僕は寝ちゃったんだ。」

「あの狐女、やってくれたな。」

「えっ?何を?千古さん帰って来てないの?」

「裕也、私が寝ている間に、本当は千古さんが帰ってきたとかじゃないよね?」

「えっ?知らないよ。」

「本当に?」

「本当だってば。どうしちゃったんだろう。」

「ドア開けなかったからね。ってそういう問題じゃないよね。」

二人はロビーに行って千古を探し、見つからないので仕方なしに二人で朝食を食べる。そして部屋でしばらく待っていたが、昼になっても千古は帰って来なかった。

携帯にメールをしても返信は来ない。電話をかけたが圏外だ。

 裕也はホテルの従業員に、オーナーの女性の居所が分かるかを聞いてみた。裕也たちはオーナーの知りあいと言われていたようで、従業員はオーナーの個人宅や料亭、それに携帯に電話をしてくれたが連絡はとれないと言う。やはり携帯は圏外になっているそうだ。水音が言う。

「どうしよう。何かトラブルに巻き込まれているかもね」

「僕たちに何ができる?」

「う~ん、とりあえず神泉苑に行ってみようか」


 水音は神泉苑に行く前に、スマホで神泉苑と二条城の地図を検索し、ホテルでコピー用紙をもらってそれを大きく書き写した。

 神泉苑に着くと人気の無い場所を選び、石畳の上にその紙を広げ、カバンから十個ほどの水晶柱を出して紙の上に等間隔で立てる。そして目をつぶって祈り始めた。

しばらくすると水晶柱の一つ、二条城の方に立てられた物がガタガタと鳴りだす。

「やっぱり二条城だね」

水音はそう言って、裕也と二条城に行った。敷地に入り神泉苑に近い南の端に着くと、すぐに水音は言う。

「ここだ。見つけた。霊界の穴が開いているよ。でもお堀と道路の下をくぐって神泉苑の地下に向かって伸びているね」

裕也は関心して言う。

「千古さんが昨日、一所懸命に探して見つからなかったのに、水音はすぐに見つけたね」

「いや、昨日は開いてなかった。千古さんが開けたんだと思うよ」


 しかしそういう傍から水音の顔は曇って、みるみる元気が亡くなっていく。裕也が心配して聞く。

「水音、どうかしたの?」

しかし水音はだまって裕也の手を引き、人目に付かない木々の間の芝生の方に引っ張っていった。そして裕也を芝生に座らせ、自分もその横に座った。裕也は水音が何をしようとしているか全く理解できずにとまどっていたが、水音が真剣な顔をして言った。

「裕也、前に言ったかもしれないけど、私はこの身体から離れると戻って来れないかもしれないのよ」

「……」

「だけど、千古さんが心配だからちょっと様子を見てくる」

「え?それなら、もう少し待っていようよ」

「何かこの中で起こっていると思うよ。どうせ行くなら早い方がいい。千古さんをほっておけないでしょ」

「でも……」

「まあ、この身体は私のために作られているそうだから、大丈夫だよ」

「え?何言ってるの?」

「もしも……もしも戻って来れなかったら、それが運命なんだと思うよ。裕也、もしもそうなったら普通の人間の彼女を作るんだよ。」

「何言ってんだよ水音。少し様子を見ようよ。」

「裕也、私の身体を見張っていて。裕也がしっかり抱いてくれていたら戻って来れるから。……手をつないで」

裕也が水音の肩を抱き手をつなぐと、水音は目をつぶった。

「裕也、それでももし危なくなったら、私の身体を置いてすぐ逃げてね」

「……」

裕也が返事の言葉を選んでいるうちに、水音は首をがっくりと落とし意識を失った。


* *


 水音は広い洞窟にいた。壁が濃い青色にボーっと光っている。横幅は五メートル、天井も同じぐらいある大きな洞窟。外とは違って蒸し暑かった。水音は奥に向かって歩いた。洞窟は緩やかに傾斜し、確かに神泉苑の池の方に向かっているようだ。

水音は進んでいくうちに、壁に細かい凸凹がある事に気が付く。よく見ると、それは人骨。何十、何百もの人骨が重なって壁になっている。骨はすでに石化し、変形して原型をとどめない物もあった。壁の両側にびっちりと人骨が積まれている。その人骨がそれぞれ少しだけ青い光を放ち、それが集まって壁が光っているように見えるのだ。水音は一瞬驚いたが、それでも決然と奥に進んで行った。

 やがて洞窟が一層広くなっている所に出た。だいぶ歩いたし、深くもぐっている。ところどころ水滴も垂れていて、神泉苑の池の地下のように思われた。

奥の方から図太い笑い声が聞こえる。人間では出せないようなボイスチェンジャーで変換したようなのっぺりとした笑い声がいくつも重なって聞こえた。水音は気味悪いのを我慢して壁づたいに歩き、ゆっくりと声のする方に近づいて行った。

すると、広くなっている場所に檻が置いてあるのが見える。一メートル四方ぐらいの、木だか細い石の棒だか分からないような物で作られた檻。暗いのでよく見えないが、中には狐が二匹いるようだった。一匹はぼーっと白く光っている。もう一匹はもう少し暗い灰色のようだった。二匹の狐は水音に気が付いたようで、座って水音を見ていた。眼が光っている。

檻の向こう側、十メートルほど離れたところには、身長二メートルを超える鬼たちが、五~六人、大きな石のテーブルを囲んで何かを飲んでいる。お酒だろうか。声が図太いのは図体が大きいからだ。そして昨日の夜に見た子鬼も二人、大人の鬼たちの傍でどくろを積んで遊んでいる。


 水音は檻をよく観察した。走っていけば檻を開ける事ができるだろうかと。

檻には扉があり、簡単なかんぬきがかかっている。これならすぐに開けられそうだ。しかしよく見ると檻を形作っている細い棒には妖気が流れている。千古たちが檻に触れないようにおとなしくしているのはこのためなのだろう。

水音は檻に直接触ると妖気に当てられてまずそうだと考え、壁から棒上の人骨をそっと引っ張り出した。大腿骨の部分だ。そして鬼たちに気づかれない事を祈り、足音を忍ばせて檻に近づいて行く。その距離五メートル。檻と鬼たちとの距離は十メートルぐらいだ。

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