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妖狐とゾンビの渋音恋物語  作者: 北風とのう
第六章 京都
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-2

 六時頃になると、運転手は三人を市街の東の丘陵にある料亭に連れて行った。看板も何もない門の古びた木戸をくぐると、うっそうとした竹林の奥へと小道が続いており、何十もの石灯籠が並んでいる。ちょうど日が暮れて暗くなってきた時で、料亭の人が灯篭の蝋燭に火を灯していた。三人は離れの一つに通され、暮れつつある京都市街を見下ろしながら洗練された懐石料理を食べる。普通の高校生なら気後れするような超高級料亭での、おそらく最高のもてなしだった。


 さて、三人がデザートの柿を食べてお茶を飲んでいると、和服を着た「女将」と言われる人が挨拶に出てきた。しかしその人を見て裕也も水音も驚く。すごく若かったからだ。おそらく十代。二人と同じ年ぐらいにしか見えない。しかも人形のような端正な顔立ちをした純和風の美少女だ。

女将は丁寧に千古に挨拶してホテルでもくつろいでくださいと言った。千古が、ホテルに帰る前に比叡山に行きたいと言うと

「それはよろしゅうございますね。運転手に伝えておきますね」と言って部屋を出て行った。その後ろ姿を目で追いながら裕也がつぶやく。

「残り香っていう言葉があるけど、実際に香水の匂いなどしないのに、それを感じさせる人だね……」

普段ならそこで即座に水音の突っ込みが入るところだが、その時に裕也にくぎをさしたのは、水音ではなく、千古の方だった。千古は裕也に耳打ちする。

「あの方は人間ではありませんよ。私と同じ。狐です」

「えっ!全然気が付かなかった!」水音が驚く。

「そうですか。水音さんでも分かりませんでしたか。もう何十年も妖気を隠しているからですね」

水音は少し何か言いたそうだったが、三人はそのまま料亭を出てハイヤーに乗った。車の中で、水音は裕也を一番奥に座らせ、自分が真ん中に座って千古の横になった。

水音は車が動き出すなり、横の千古の方を向いて話し出す。

「千古さん、なんで裕也を別の狐に会わせるの?憑かれたりしたらどうするの?何考えてるんだよ」

「ははは、すごくうらやましがっていましたね。私も気持ち良かったです」

「千古さん、怒るよ。本当に。裕也を危ない目に会わせないでよ。裕也の方もなんか気に入ってたじゃない。あの女を」

「大丈夫ですよ。あの人は裕也さんを狙う事はないと思いますよ。まず、裕也さんの霊気に無節操に魅かれるようなレベルではないです。それに私に対する遠慮もあるでしょうし。まあ、もし何かあったら私が裕也さんを守りますから」

「ちょっと待ってよ。裕也は千古さんの物じゃないでしょ」

「え?そうでしたか?でも私が守ります」

「いえ結構です。別に。私が守るから」

二人の会話を聞いていた裕也は完全に千古の方を向いてしまっている水音の肩を引っ張って席にちゃんと座らせ、水音越しに千古に聞いた。

「で、あの人が千古さんの友達なの?」

「いえ、実は会うのは初めてです。私が眠っている間に生まれたのでしょう。でもかなり力があるようですね。伏見を除く京都全域の狐をとりまとめているそうです」

「で、あの人が料亭とホテルのオーナーなの?」

「そうです。今回の旅行は新幹線以外はすべて手配してくださいました」

「お金も出してくれてるの?」水音が聞く。

「水音さん、何百年も生きているとお金なんてどうにでもなるんですよ。ちょっと知恵があればですけどね。だからみんな、お金では無くて珍しい物を欲しがります。あの人もたぶんお客さんから珍しい物の情報を得るために、趣味で料亭をして女将までやっているのだと思いますよ」

「珍しい物って?宝石とかじゃないよね」

「いいえ。ゾンビ娘とかです」

「ええっ?」

「ははは。冗談ですよ」

「……」


 車は比叡山ドライブウエイの四明嶽駐車場に着いた。ここからは琵琶湖側、京都市街側、両方の夜景が見える。風もなく冷んやりとした空気が広がるなか、裕也と水音は手をつないで夜景に見入っていた。しかし千古はその事に突っ込みをいれようともせず、運転手から双眼鏡を借りて熱心に京都市街を見て、そして空を見上げて星を見た。新月だったので、こんな大都会でも満点の星空が広がり、街の夜景をも圧倒する美しさだ。

 裕也が千古に声をかける。

「千古さん、何を調べているの?探し物の続き?」

「そうなんですけどね。私は陰陽寮の方が天文の話をしてくださる時に、あまり興味が無かったので、聞いていなかったんですよ。もっとしっかり聞いておけばよかった」


* *


 九時を回り寒さがさらに厳しくなってくると、三人は車に戻った。しかしすぐにホテルに行く事はできなかった。走り出してすぐにバイクが事故を起こした直後の現場に遭遇したからだ。若い男が道端に倒れており、近くには生々しい血の跡がある。

 千古たちの車は近くに停車して、運転手と三人は車から出た。運転手が走ってその男に近づこうとした時に、ちょうど反対側から救急車が近づいて来た。救急車はバイクを見つけるとすっと道端に止まり、すぐに二人の救急隊員が降りてきて後ろのドアを開けて担架を取り出し、男に駆け寄る。

「大丈夫ですか」一人がしゃがんで男の顔を覗き込む。


 その時突然、水音は裕也の腕をギュッと掴み、強い力で後ろに引っ張った。裕也は思わずよろけてばたばたと後ろに下がる。しかし裕也が水音の方を振り返る間もなく、今度は千古が駆けだして救急隊員の方に向かって行った。千古が近づくと二人の隊員は一瞬驚き、立ち上って後ずさりしながら千古を見つめる。

千古が静かに言う。

「やめなさい。あなたたち」

すると二人の救急隊員はバイクの男の事など無視し、あわてて救急車に戻り、担架をしまって運転席と助手席に飛び乗るとあっと言う間に走り去ってしまった。

裕也、そしてハイヤーの運転手が茫然と見ている中、千古は近くに落ちていた棒を広い、持っていたハンカチと合わせて手際よく足の止血をし、そして平然と車のところに戻って来て言った。

「偽物の救急車だったようですね」

そしてまもなく、また別の救急車が到着する。

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