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妖狐とゾンビの渋音恋物語  作者: 北風とのう
第五章 渋音祭
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第五章 渋音祭

 新学期が始まってすぐ、千古が寄贈した琵琶の鑑定結果が出た。正真正銘の五弦琵琶。八世紀に唐で作られた物だとされ、楽器博物館にはテレビや新聞が取材に来た。いくつかの雅楽・古典芸能の団体、それに有名音大の邦楽科の先生たちが楽器博物館を見に来た。熱心に見て関心している人もいた。普段はほとんど訪問者のいない楽器博物館だが、この時は毎日パラパラと人が来た。

 しかし、世間の反応はそれだけだった。楽器博物館の前に行列はできなかった。テレビのテロップや新聞に、ほんの一行だけ『渋谷音楽高校』の名前が出たが、それで渋音の名前を覚えた人がいるとは思えなかった。その後はひたすら琵琶の貸出し依頼ばかりが来た。


 千古と水音はすぐに二人で会って対策を考える。放課後、楽器博物館の小部屋でインスタントコーヒーを飲みながら水音が言う。

「甘かったよ。いくら歴史的に貴重な物だって言ったって、単に弦が五本付いてるだけだからね」

「結局、一番興奮されていたのは国立博物館の学芸員のお二人だったという事ですね」

「専門家は興奮したけど、一般の人は何の関心も無いんだ。まあ、そうだろうね」

「そうですね。失敗しました」

「う~ん、困ったね。千古さん、再来年の選抜演奏会の会場、外部を予約するように学長を説得してくれたんだよね」

「そうです」

「それならまず来年三月の選抜演奏会がテレビで取り上げられるようにしたいな」

「そうですね。ひとまずそれを目標にしましょう」

「でも、どうしようかな」

「水音さん、テレビに出すための何かアイディアないですか?」

「う~ん、思いつきのアイディアじゃだめだよ。琵琶の時と同じ失敗をするかもしれない。ここはまず、ターゲットを決める事だ。例えば平安京なら、殿上人をターゲットにするとか」

「ははは、水音さん、平安の勉強されましたね。そうです。楽師や舞師は、殿上人に売り込むか、市中の下級貴族を相手にするかを決めて売り出していましたよ」

「単にテレビに出て有名になるって言っても、どういう人達の間で有名になるかを最初に決めてから、どの番組に出るかを決めるべきだよ」

「水音さん、本当にあなた高校生ですか?まるで実業家のようですね」

「ははは。……で、どうしようか」

千古は今までにこにこしていたが、急に真剣な顔になって言った。

「水音さん、私の意見を言っていいですか?」

「はいどうぞ。千古さん」

「ターゲットは夜十一時以後にテレビを見ていて、同時にPC画面でネットも見ているダブルスクリーンなサブカル・オタクです。その人たちが、『渋音ウォッチングの方がAKBより面白い』と感じれば、そのうち一般の方たちも渋音の行方を気にするようになるでしょう」

「…………」

「でも、これを裕也さんに言ったら絶対に怒るでしょうね」


 水音はしばらく黙って考え込んでいたが、やがて落ち着いた口調で言った。

「千古さん、……それ正解かもしれない。裕也に言わなければいいんだよ。誰にもその作戦を言わなければいいんだ」

「今日は裕也さん呼ばなくてよかったですね」

「……いや、なんとなくこういう展開になるような予感がしたから」

「水音さんご自身は抵抗ないんですか?オタク・ターゲットに。」

「抵抗は無いよ。まず、応援してくれる人の関心が、私たちの目指す音楽の方向と違っても全然かまわない。昔の音楽家とパトロンの関係をみても、そんなもんだと思う。それから、私らは芸術の殿堂に挑戦するんだ。一流と呼ばれている音楽高校、大学に、弱小音高が勝負をかけるんだ。それを応援するのは芸術のファンじゃないだろ。だって芸術のファンはうちらの事を三流だと思ってバカにしているんだ。それを応援なんてしない。それより、そういう『対決のシナリオ』が好きな人たちにアピールしなければだめだ」

「では、その路線でやってみましょうか」

「そうしよう。……で、一つ考えたんだけど」

「なんでしょう?」

「紗木子を売り出そう。美人だから。本人もチヤホヤされて喜ぶから一石二鳥だ。徹底的に紗木子を使ってやるぞ。握手券も売り出そう」

「水音さん、ひどい人ですね」千古は笑って言った。

「紗木子にはひどい目に合わされたからな。よし、燃えて来たぞ」


「そうですか。では水音さん、燃えてきたところでお願いがあります。実は少し前に水音さんがふるった熱弁をビデオで撮ったものがあるのです」

「ふぇ?」

「『時が来れば、……環境が整えば、そういう勉強が嫌いだからここに来たような人たちが毎日十時間も練習するようになるんだよ』『自分の表現したい事を真剣に聞いてくれる場のある音楽高校が最高の音楽高校だよ』って裕也さんに言ってたの覚えていますか?」

「えっ?あれ撮ってたの?隠し撮りかよ~最低」

「この時の水音さん、素敵だと思うんです。三流が一流に挑戦する宣言に相応しいと思いませんか?」

「……」

「このビデオをテレビ局の人に見せたいんです」

「嫌だよ。それ」

「で、どこの番組がいいでしょうか」

「私のビデオを使わないという前提で言うけど、ずばり言って渋音を最初に取り上げてくれそうなのは夜十一時台のニュースワイド番組だよ。それも国内の一般ニュースにもフォーカスしているところ。」

「それはどうしてですか?」

「毎日何かのミニ特集をやってるんだよ。すぐにネタ切れになるでしょ。制作下請けをいくつ使っているかわからないけど。どこも困ってると思うよ。しかも取材とか制作の予算なんてほとんど無さそうだから、取材に来やすい渋谷にあって、ちょっと他の特集と違う雰囲気の出せる音楽高校なんて手頃なんじゃないかな」

「水音さん、あなた本当に高校生ですか?」千古は笑って言った。

「裕也がいなくて良かったよ」

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