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妖狐とゾンビの渋音恋物語  作者: 北風とのう
第四章 紗木子
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-3

 水音が裕也の家に着くと、裕也が門まで迎えに行った。水音がお母さんに挨拶をすると、すぐに二人は裕也の部屋に入る。裕也がドアを開けると千古は部屋の隅のソファに座っていた。それを見た水音があきれた顔をする。

「千古さんも呼んだの?私より早く着いたんだね」

「ええっ。私も呼ばれたんです。でも私の事はとりあえずおいといて、今は紗木子さんの事を話しましょう。ちょっと危ないです。私では手に負えなくて水音さんの力が必要なんです」

「…………」

 水音は当然のように千古の隣には座らずに少し離れた裕也のベッドに腰掛けた。

裕也は水音の前まで歩いて行き、恐る恐る紗木子のメールを水音に見せる。

水音は落ち着いたそぶりで言った。

「で、この裕也がキスをした相手が誰かはとりあえずおいといて、裕也が紗木子に会うかどうかを決めればいいんだよね。そんなの会えばいいじゃない。とりあえず話を聞いてみないと。相手の出方を見ないと何も対策が立てられないよ」

「水音さん、それがそう簡単じゃないんです。紗木子さんは裕也さんがこの女性にキスをした次の日に、裕也さんにメアドを聞きにきています。しかもクラスで公認の仲である水音さんの眼前で。理由を言わずに思わせぶりな行動をとっています」

「だから宣戦布告でしょ。それで私の出方を見たんでしょう」

「そうですね。まずチャンスをつかんですぐに行動したと言えます。もしもそこで水音さんが激怒りしたら、裕也さんをキスの事で脅して言う事を聞かせ、水音さんが入ってこれない状況を作らせて取り憑こうと考えたのでしょう」

「えっ?取り憑く?」水音と裕也が驚いて顔を見合わせる。しかし千古は二人の疑問を無視して続けた。

「しかし水音さんは大人ですから全然のってこなかった。その場合は自分だけが裕也さんを脅すような事をして会ってもばかみたいです」

「そりゃそうだ」

「だからしばらく様子を見て、こっそりと裕也さんに取り憑く切っ掛けを探していたのだと思います。しかし水音さんが毎日、裕也さんの後ろで見張っているので、取り憑く事ができなかったのです。そして、夏休みに入って、しばらくしてから裕也さんを呼びだそうとしているのです」

「えええ?紗木子は人間だって言ったじゃない?」裕也が聞く。

「紗木子さんは人間ですよ。しかしメンヘラです」

水音があきれた顔をする。

「またそれを言う。まだメールもらっただけでしょ。何も要求して来てないのに、何でそう思うの?」

「しかし二人で会ってしまうと手遅れです。その後で紗木子さんは裕也さんに取り憑く事ができるようになります」

「本当に?」水音があからさまに疑っているような声を出す。

「はい。一対一で会って話したことのある相手なら、離れたところから魂だけ飛ばして取り憑く事ができます。しかし自分の心を飛ばして相手の心に被せていくわけですから、そのためにはまず相手をじっくりと観察して細部までイメージできるようになっていなければなりません。じっくり相手と話し、心を通わせて、その存在をよく五感に浸みこませる必要があるのです」

「なるほど。それは確かに水音がそばにいたら難しいな。少しぐらい水音と喧嘩していても、こいつはしつこいからな。僕が意図的に水音を排除しようと考えていなければだめだ」

「裕也」水音が裕也を睨んだ。しかし千古はかまわず続ける。

「紗木子さんはじっとチャンスを狙っています。先ほど、水音さんがこの家に来る一時間前にも、紗木子さんの霊体だけがこの部屋を覗きに来ていました」

水音が驚いて言う。

「えっ?千古さん、そんなに前から来ていたの?もしかして裕也が私にメールを送る前からここにいたの?」水音の声が上ずった。

「水音さん、今、突っ込むところはそこじゃないです。その話は後でしましょう」

「……わかった。けど後でしっかり説明してね、裕也」水音は今度は裕也の方を見て言った。


 千古が続ける。

「で、ここで作戦です。いいですか。まず、裕也さんが紗木子さんに会って話を聞きます。その時には私が狐の身体になってペットという事で裕也さんについていきます」

「はあ?」裕也も水音も笑い出す。

「ペットのかわいい狐が気になって、紗木子さんは裕也さんをじっくり観察できません。その後、水音さんが紗木子さんに会って『おい、裕也に何話したんだよ』と言って近づき、なんとか仲良くなって彼女がなぜ裕也さんに取り憑こうとしているかを探ってください。取り憑こうとしているには何か目的があるはずです。目的を聞きだせば、それを防ぐ方法も見つかるかもしれません」

水音はじっと聞いていたが、

「その案は却下だよ。はい、次の案」とそっけなく言った。

「ではもう一つの案です。裕也さんが紗木子さんに会って話を聞きます。その時に、水音さんも一緒じゃないと会わないという条件を付けて、二人で会ってください。たぶん紗木子さんはキスの事は言わないでしょう。それは最後の切り札ですから、最初から使ってしまう事はないでしょう。それから、私が彼女のピアノの事でなんとか切っ掛けを作って話します。しかしこの場合、職員の私が彼女と打ち解けて話せるかどうか分かりません」

「じゃあ、その案で行こう」と水音が言ったが、そこで今まで黙っていた裕也が口を開いた。

「もう一つ案があるだろ。僕が一人で会って、そのまま紗木子の話を聞いて意図を探るのが一番シンプルだろう」

「いや、それはだめだよ。取り憑かれるだろ」水音が言う。

「そうです。それはだめです」と千古も言うと

「千古さん、初めて意見が合いましたね」水音が千古の方を見てガッツポーズをした。

しかし千古はそれを完全に無視して続ける。

「裕也さんの優しい心遣いは分かるのですが、それではだめなのです。もしも紗木子さんが裕也さんの事を好きで、彼女の目的が裕也さんの独占だとしたら、そのまま裕也さんとの恋にのめりこみ、裕也さんを離さなくなってしまうかもしれません」

「ああ、それ源氏物語にあったような……。誰だっけ?」水音がそれを思い出そうとしている傍で、裕也があきらかに不機嫌そうな顔をしたので、水音が途中でそれに気が付いて言った。

「じゃあ、しょうがないから裕也にオプション一か二を選ばせてやるよ。それでいいか。千古さんも裕也の決めた事に文句を言わない事」

「はい。わかりました」

「あ、そう。じゃあ、オプション一」

「えっ、本気なの?」水音が驚いた顔で言う。

「千古さんの狐の姿、また見たいから」

「……」水音は下を向いて一瞬泣きそうになったが、気を取り直してぜんぜん違う事を言った。

「裕也、そういえば、この部屋には丹羽子さんが結界張ってたでしょう。お札の。あれ、役に立たなかったのかな」

「水音、よく知ってるね。それも丹羽子さんから聞いたの?たしかにまだお札は部屋の四隅に張りっぱなしだよ」

そこで千古が言った。

「お札はまだ効いていますよ。並の霊では入って来れないと思います。しかし生霊の場合は非常に強いので、お札も役にたたなかったのでしょう。ちなみに私も全然平気です」

裕也は不安そうな顔をして言った。

「えっ、そう?なんだかここで寝るの怖いなぁ」

そこで千古が少し慌てた感じで言った。

「じゃあ、すぐにメールを出して。『明日、学校で会う』という事にしてはいかがでしょう」

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