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36色の色鉛筆

黄色の容貌(かお)

作者: 仙崎無識

「色シリーズ」二日目「黄色の容貌(かお)」を加筆修正した短編版です。

――――――――――――――――――――檸檬(レモン)に理想の男性の顔を描けば、その通りの外見(ルックス)の人を彼氏に出来るらしい――――――――――――――――――――








それは、他愛もない噂話、だった。





某県某所の山中にある全寮制の女子校。






そこにもそんな噂は広まっていた。



小学校を卒業した後に、最難関ともいわれる入学試験を合格し、莫大な入学金及び授業料を支払わなければ入学を許されないその女子校の高等部。所謂お嬢様達は、世間知らずというか、世間慣れしていないというか、将又(はたまた)擦れていないというか。



とにかく、そういった話が大好きだった。



彼女たちが知っている「男」は許婿(いいなずけ)か小学生男子かの何れかであり、こういった良く言えば他愛もない、悪く言えば胡散臭い話ですぐに盛り上がれるのである。











ここに居る女子生徒、圓成(えんじょう)凜子(りんこ)も、その一人。



「凜子ー、お昼食べよー」


チャイムが鳴り終わり、古文の教師が教室から出ていくと、友人の小鳥遊(たかなし)紗絵(さえ)が可愛らしい桜色の弁当箱を片手に凜子の席にやって来た。



「んー」


凜子は鞄から弁当箱を取り出しながら、先程まで見ていた自分の携帯電話の画面から目を離した。




高校生になってから、親に頼み込んでやっとこさ手に入れた携帯電話。


最近彼女はその中のとあるBBSにハマっていた。




「凜子、何見てたの?」


凜子は親友の紗絵に携帯電話の画面を見せた。



凜子がハマっているBBS。それはよくある恋バナ関連の物だった。




携帯電話の画面を見た紗絵が一気に呆れた顔をする。




「あんたもそーいうの好きだね~」


中学一年生からの付き合いがある紗絵は凜子のことをよく分かっている。


凜子は弁当箱のふたを開け、おかずを食べながら紗絵に抗議する。



「だって面白いんだも~ん」


紗絵も弁当箱のふたを開け、凜子の話を聞く。



「みんな真剣に悩み事書いてるんだよ?」



ほら!!と言って画面の一部を見せる。



「え~と何々・・・『年の差カレシ』?『逆ハー玉の輿』?」




紗絵が益々胡散臭そうな表情をする。



「こんなの大体が作り話でしょ?」



凜子の純粋さ及び素直さに呆れ返った紗絵が腕時計を見ると、昼休みは残り20分。



「げっ。急いでご飯食べなきゃ!!」


二人は急いで弁当をかきこんだ。



* * * * * *






全授業が終了した後、凜子は寮に宛がわれた部屋に戻った。



「おー凜子。お帰り~」



高等部の寮は三学年以外ルームシェア制である。



凜子のルームメイトは音繰(おとくり)玲苑(れのん)。この女子校の芸術科きってのエースである。



玲苑の「お帰り」に、凜子は「ただいま」と返し、自室に入って携帯電話を充電した。


その後玲苑のいる共同リビングに行く。


玲苑は、次の学内コンテストに出品する絵を描いていた。



「おー、相変わらず素晴らしいですなぁ、音繰画伯」



凜子の半ば称賛、半ば茶化しの入った感嘆の声に、玲苑が振り返る。



「私なんかまだまだだよ」


この玲苑という少女は、お嬢様が集うこの学校の中では人一倍努力家で謙虚な人間である。


そんなルームメイトの頑張りを労いたいと思った凜子はとっておきのお茶を作ろうと思い立ち、自室に駆け込む。






* * * * * *


「え~っとインド直送の茶葉は・・・」


凜子が自室を漁っていると、先程机の上に置いた携帯電話に新規の通知が入っていることに気が付いた。



「えーと、なになに・・・」


見ると、凜子が贔屓にしているBBSの新着スレッドである。


「『レモンで彼氏が出来ました』?なんじゃそりゃ?」



茶葉探しを中断し、早速記事を読み進める凜子。






「・・・国産のレモンに、理想の男性の顔を描いて、枕元にそれを置いて眠り、翌日午後五時にそのレモンを食べると、近いうちにその通りの見た目の彼氏をゲットできるって?」


記事の最後にはご丁寧にもレモンに描いた顔と、彼氏の写真が載せられていた。



「おお!確かにそっくり!!」


こんな男前(イケメン)な彼氏、私も欲しいな~





茶葉探しは何処へやら、凜子の頭の中で妄想が膨らむ。


背は高くて、髪は茶髪、目鼻立ちがすっきりしていて・・・・・・・・・・・・・・・






早速レモンを手に入れよう、そう心に誓った凜子だった。





* * * * * *



その後急に自室に消えた凜子を不審に思って部屋に来た玲苑に無事お茶を御馳走した後、定刻に寮の地階にある食堂に二人して連れ立って行った。




この全寮制の女子校、昼食は自分で作り、朝食と夕食は食堂で食べるようになっているのである。



勿論料理は一流ホテルのシェフを呼んで作ってもらっているので、料理目当てに入学してくる者も居るほどだ。



二人で並んで夕飯を食べていると、紗絵と彼女のルームメイト、芹沢愛莉(せりざわあいり)がやって来たので、四人で一つのテーブルを取ることにした。





そこで出たのが、その『レモンと彼氏』の話である。


紗絵は勿論、

「は?そんな詩じゃあるまいし。レモンがどう恋愛に結びつくのよ?」


と疑いの(まなこ)を向けていたが、



凜子はそのロマン(?)を力説し、



玲苑はその話を面白そうに聞き、



愛莉はその話の信憑性を裏付ける話をした。




「・・・いや、あの、それだけで信じるのは良くないけどね、私が入っている天文部の後輩が、実際にそれを試して、本当に彼氏をつくっちゃったの」



愛莉の話に、凜子は鬼の首を取ったかのように笑う。


「やっぱり本当なんだ!!」


「だから、それはたまたまだって――――――――――」


凜子と紗絵の不毛な言い争いが始まりかけたところで、寮母が通り過ぎたため、四人は「礼儀正しく」食事を取った。






* * * * * *


その後数日経っても凜子は『レモンと彼氏』の記事のことが忘れられず、毎日そのスレッドを見続けた。


日ごとに実践者≒成功者が増加していっており、また写真付であったために凜子はその話を益々信じるようになった。


またその噂は他のクラスでも広まっているらしく、成功者も実際に凜子の友達の中に居た。






そんな折、実家の圓成家からレモンが届き、またそれと同時に次の長期休暇に実家に戻ってくるように、といった旨の手紙も入っていた。



レモンを手に入れた凜子は、友人に一世一代の頼みごとをしようと心に決めた。






* * * * * *


「・・・・・・で、私にレモンにイケメンの顔を描けと?」



絵、といえば頼む相手はただ一人、全校きっての芸術家、音繰玲苑である。



「このとお~りっ!!お願いしますッ!!玲苑様!!」



パン!!と両手を合わせ、頭を下げる凜子。



そんな同室の人間の頼みを断れる性格ではなかった玲苑は、嘆息と共に承諾した。






* * * * * *


数時間後。


玲苑から手渡されたレモンには、誰もがうっとりするような絶世の美男(イケメン)が描かれていた。



まさしく凜子の妄想通りである。



凜子は多大な感謝の気持ちを伝え、玲苑に後で最高級品質の抹茶を送ると約束し、早速「噂」の通りにやってみることにした。










* * * * * *



数か月後。

長期休暇になったため、実家に帰った凜子を待ち受けていたのが、父親のこの言葉である。



「・・・許婿(いいなずけ)の候補の一人が、是非一度お前とお付き合いしたいと申し上げているんだ。お前も会ってみなさい」





凜子は「レモン」の効果が出たと心の中でガッツポーズをした。











しかし。






実際会ってみた人は、






まさしく(・・・・)檸檬(・・)のような(・・・・)人だった。






目鼻立ちこそ玲苑が描いたものとそっくりだったが、檸檬のように黄色い顔、そして檸檬のような顔の形、あまり高くない身長と、他はすべて凜子の好みとは合致していなかった。






* * * * * *



実はその「噂」には、条件があった。



容貌(かお)は、自分で描いたものでなければならない、というものと、


容貌(かお)以外の条件を裏面に書いておかねばならない、というものである。




* * * * * *






日本国内某県某市の農園にて。




「近頃はレモンがよう売れとるの~」


「何があったんじゃろな?」






レモン農家の方々が、首を傾げていた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 恋に恋する女の子の心理とその失敗を飽くまでコミカルな雰囲気で描いている点に好感を持ちました。 それまでぶっちゃけトークをしていたのに、寮母さんが通りかかったので急に取り澄ます等の描写もリ…
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