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第7話 新装備

お金の設定を少し変えました。

 冒険者生活を初め7日目。銀次はトラス武具店へと訪れていた。

 注文した防具を受け取るためだ。

「よく来たなギンジ」

 店に入ると隠居したはずのトラスが出迎えてくれた。

「噂はきいてるぞゴーレム使い」

 銀次の姿を見つけたトラスは愉快そうにそう言った。

 この7日間の銀次の冒険者生活はフォーラの町の中で行われ続けたものだ。

 受けた仕事は荷物の運搬から始まり、倉庫の警備に清掃。土木作業なんていうのもあった。

 それらの仕事をすべてディガーや保安ロボットを使ってこなしていた。

 そのおかげで銀次はこの町で二人目のゴーレム使いと呼ばれるようになった。

「来てたんですねギンジさん。注文の品はすべてできてますよ」

 店の奥からライドが現れて銀次を歓迎する。

 ライドは早速受け渡しのために銀次を倉庫へと案内する。

「見て下さい。なかなかの出来上がりですよ」

 ライドは倉庫の中央で五月人形のように飾られている防具一式を銀次に指し示す。

 そこにおかれた暗褐色の皮鎧を見て銀次はそのできに感動していた。

「おおっ!」

 感嘆の声を上げてペタペタと鎧にさわりまくる。その質感にも充分満足していた。

「それからこちらもどうぞ」

 そう言ってライドが渡したのは防具と一緒に注文したアクセサリーだ。

 渡された品は頼んだとうりネックレスと指輪の形に加工されていた。

 どちらも牙を材料に細工されたそれらは象牙のような質感を誇っていた。

 まず初めに指輪をはめてみる。

 指輪には宝石の飾りはされていなかったが複雑な幾何学模様が施されていた。

 両手の人差し指に一個づつはめてつけ心地を確かめてみる。

 とてもしっくりくるつけ心地だった。まるで何十年も着け続けているみたいに。

「鎧を試着してもいいかな?」

「どうぞ」

 ライドに手伝ってもらいながら鎧を装備し始める。

 胴鎧、篭手、ブーツと装備し、最後にヘルメットを被る。

 ヘルメットには最初、角飾りか羽飾りを着けようかと思ったが、マントのフードが被れなくなると困るので断腸の思いでそれらはつけなかったが、これはこれで質実剛健でかっこいいと思った。

 ここまで装備して軽い運動をしてみる。

 スクワットや反復横跳びをやっても違和感がない。

 木剣を借りて素振りしてみたがとてもスムーズに動ける。

 まさに職人技の集大成と感心してしまう。

「とてもいいできだ。感動しましたよ」

「気に入ってもらえてなによりです」

 ネックレスをつけながら鎧の感想をライドに伝える。

 首を飾るネックレスはサンドワームの皮で作った革紐に親指ぐらいのビーズを数珠つなぎにし、ビーズ同様牙で作られたメダルが中央に飾られている。

 メダルの表面はドラゴンのレリーフが施されてとてもかっこいいできになっていた。

「なかなか様になっているぞギンジ」

 トラスも鎧を装備した銀次の姿に好感を覚えた。

 そこからからさらに鞘に納めた剣を腰に下げて盾を持つ。そしてリュックを背負ってマントをはおれば銀次の装備は完成する。

 指輪は手袋、ネックレスはマントの留め具などで隠れてしまうが、そこは江戸っ子じゃないけどこれが江戸っ子の粋だと思えばいいだけだ。

 もともとおしゃれではなくアイテムの素材合成で得られる能力強化を狙って作ってもらったのだ目立たなくても気にする必要など無かった。

 ライドが倉庫の奥から姿見を出してくれたのでぐるりと回って様子を確かめる。

 全体的に暗い色調の鎧にフードで顔を隠すと言葉にできない怪しさが漂うのが何とも言えないくらいいい感じを醸し出していた。

「ありがとう。早速ギルドで仕事を探しにいこうと思うから、このままで会計をたのむ」

「わかりました。防具一式とアクセサリーを三つで合計56200メルトになります」

 見積書を取り出したライドが料金を提示する。

 この世界で使われているお金はファンタジー世界らしく金、銀、銅の貨幣が使われている。

 お金の単位はメルトとなっており、1メルト銅貨、10メルト銅貨、100メルト銀貨、1000メルト銀貨、1万メルト金貨、10万メルト金貨という貨幣が主に使われている。

 また極稀にだが100万メルト白金貨というのも使われることがある。

 銀次は即座に料金を支払い悠々と店を後にした。


 装備が充実した銀次は早速屋外に出て魔物を討伐する仕事をはじめた。

 狙う対象は畑や農場を荒らすジャッカローブ、スグヴェンダー、ゴブリンだ。

 どれもランクFの魔物でこの辺りでは一番弱い相手だ。

 銀次は町の城門を抜けて北へと歩いていく。

 フォーラの町の三方は農耕地になっていて、それを抜けて畑と森の間にある平地へと向かっているのだ。

 ジャッカローブとスグヴェンダーはこの辺りで巣を作って潜んでいる。

 平地に着いた銀次はまずはマントを脱いでアイテムボックスに入れれることにした。それから周囲に目を凝らして獲物をさがす。

 するとウサギを一羽見つける事が出来た。ただし銀次の良く知るウサギとは違うところが一つあった。それは立派な鹿の角があるということだった。

 その姿を見つけた途端、銀次は剣を抜き戦いの構えをとる。

 銀次が見つけたこの角のはえたウサギがジャッカローブである。

 周囲を警戒する素振りを見せていたジャッカローブも戦闘体制をとった銀次の姿を見るや猛烈な勢いでこちらへと突っ込んでくる。

 ジャッカローブはかなり好戦的な魔物で、追い払おうとした農民が逆に体当たりをされてケガをすることがよくあるのだ。

 銀次はジャッカローブの体当たりを盾で受け止めて払いのける。

 その勢いで地面に叩き付けられて体勢が崩れたところで斬りつけてたおす。

 血溜まりの中に倒れているからといって不用意に近づくようなことはせずしばらく様子をみる。

 息絶えたことを確信してから死体に近づいてアイテムボックスに収納した。

「ふう。危ないところだった」

 MFを使わない初めての戦闘に銀次は大いに精神が消耗する思いを感じた。

 この世界にきてから全ての戦闘行為はMFに搭乗して行ってきた。

 そこにはやはり自分がゲームをしているという思いがどこかにあった。

 それが今、生身での戦いを体験して弱肉強食の世界に足を踏み込んだことを実感した。

 体当たりを盾で受け止めた時の衝撃や剣を振り下ろして命を奪う感触はゲームの中ではもちろん元の世界でだって体験することのできないことだった。

 吐き気を感じることはないが疲労感が全身を襲う。だが座り込んで休んでいる場合ではない。

 背中には町があるとはいえここは戦場だ、銀次はすぐに気を取り直し次の獲物を探し始める。


 あれからさらに数羽のジャッカローブを狩ってから銀次は違う獲物を見つけた。

 一見するとやはりウサギだが今度は角がない。代わりに体の後ろ半分が鳥になっている。

 これは討伐依頼を受けた二つ目の対象となる魔物、スグヴェンダーだ。

 その姿を捉えた銀次はアイテムボックスからアイテムを一つ取り出す。

 それは長い紐の両端に拳大の石を括り付けた狩猟道具ボラだ。

 身をかがめた銀次はそろりとスグヴェンダーに近づいていく。

 そしてある程度の距離に近づいたところで思い切り駆け出す。

 向こうもこちらに気づいて警戒していたのか銀次が駆け出した途端に飛び上がる。

 飛んで逃げようとしたスグヴェンダーに向かって銀次はボラを思いっきり投げた。

 投げ出されたボラは狙いたがわず目標に絡み付き、そのまま地面へと墜落させる。

 それを確認した銀次はそのまま駆け寄って斬りつけた。

 ジャッカローブの時と同じように絶命したと確信してから狩った獲物をアイテムボックスに納めた。

 町での仕事をこなしている合間に討伐対象の魔物の情報を集めていた銀次はスグヴェンダーが危険を察知するとすぐ逃げる傾向にあると聞いてボラを作り貯めていたのだ。

 もちろん作るだけでなくうまく目標に当るよう練習することも忘れなかった。

 毎日の修練と手袋に着いた【投擲C】の効果で見事スグヴェンダーを狩る事ができた。

 二種類の魔物を狩る事ができて銀次はこれからの冒険者生活に確かな手応えを感じることができた。

 だが、慢心して油断しないよう自分の両頬を叩いて気合いを入れてから狩りを続ける。

 日が暮れてギルドに戻った銀次はそれぞれ十羽以上の素材を買い取ってもらえた。


 夜、宿で一休みしていた銀次はアイテムボックスのメニュー画面を開いていた。

 装備は全て外して身につけてはいない。しかし脱いだ装備は部屋の中に散乱しているということはなく、それどころか部屋の中を見渡すかぎりどこにも見つけることはできなかった。

 この場に見当たらない装備はどこにいったのかというと全て銀次のアイテムボックスに納められていた。

 本来なら素材合成でカスタマイズするところだがそれはしないでいた。

 今日は装備を受け取った後、あえてカスタマイズせずに戦闘することにしてみた。

 なぜそのようなことをしたのかといえば今の自分に実力が知りたかったからだ。

 今の自分がチート能力なしでランクが一番低い魔獣相手でも通用するかを確かめるためだ。

 そのためマントを脱いで【隠密C】の効果を使わずにジャッカローブやスグヴェンダーと対戦したのだ。

 同じようにカスタマイズした手袋をとらなかったのはちょっとしたうかっりだったが。

 とにかくしばらくは素材合成というチート能力は使わずに地力を上げる事に専念するべきだろうと銀次は思った。

 チートに頼った戦い方にはいつか限界がくるだろうと銀次は思っていたのだ。

 ノブおじさんも「チートに溺れる者は、チートに泣く」と言っていたのだ。心に留め置くべきだろう。

 ならばなぜ全てを一旦アイテムボックスに入れたのかというとお手入れのためだ。

 MFWでは機体の損傷は勝手に直らない。直すにはゲーム終了時に獲得したポイントを消費しておこなうしかなかった。

 もちろん修理せずにそのまま廃棄することもできるが、使い捨ての装備でないかぎりそんなことをする気はなかった。

 そういう訳なのでこれもチートだが装備を長く使い続けるために気にせず積極的に使うことにした。

 それにポイントのほうはまだまだ余裕がある。またこの世界での戦闘でもポイントが貯まるのはすでに確認してある。

 ポイントを消費しての装備の整備が終わったので、銀次はアイテムボックスから愛用のミスリルの剣を取り出した。

 両手で正眼に構えると一つのことを強く念じながら気迫のこもった声で呟いた。

「酸属性!」

 その呟きに応じるように刀身の周りが霧のような物で覆われていく。

 刀身を覆うこの霧は剣に宿るスキル、【酸属性D】の発動によって発生した酸の霧だ。

 銀次は剣のスキルを発動したまま宿屋の備品を壊さないように軽く素振りをした。

 ほどよい運動を終えると先ほど同じ感じで毒のスキルを発動させる。

 今度は紫色をした霧状のものに覆われた剣でやはり先ほどと同じように素振りを開始する。

 ミスリルの剣はこの世界に飛ばされた当初にチート能力の検証のために素材合成を行ったものだ。

 その時は気づかなかったが、能力の元となったMFWにはなかったスキルが剣にはついていた。それが酸と毒のスキルだ。

 このゲームにはファンタジーによくある土水火風といった属性のスキルはなかった。

 なぜならヒートソードや電磁ロッド、火炎放射器といった武器があるのだからそういったものは必要ないと運営が判断したため存在しないのだ。

 おかげで銀次はチェーンソーに雷属性をつけることができなくて悲しい思いをしたものだ。

 ではなぜ見逃していたのかというと銀次が経験した他のゲームには普通にあったので特に気にならなっかのだ。

 後でそのことに気づいた銀次は早速このスキルの検証をすることにした。

 その結果、属性とついたスキルはパッシブではなくアクティブだということがわかった。

 発動の仕方は先ほど見せたように精神を集中してからの音声入力。最初は叫んで発動させてたが小声でも大丈夫なことがわかった。

 スキルを使った瞬間に精神的な何かが抜けていく感触があったのでMPのようなものを消費しているのだろう。

 ロミルのもとで魔法の訓練はしたので、魔法は使えないとしてもMP的なものは自分にはあるのだろうと銀次は思うことにした。

 ゲームの時になかったスキルが突然増えたのは奇跡の魔法陣の影響なのかもしれなかった。

 このような結果から銀次はチェーンソーに雷属性をつけるという夢をはたせるかもしれないと思ったが、残念ながらチェーンソーはランクDの武器であり、放電現象をおこすモンスターはゲームではランクC以上でしかいなかった。

 MFWの素材合成は無制限に出来るものではなく、パーツよりランクの高い素材を合成することはできないとう制約があった。

 この制約は異世界に来ても適用されることはすでに検証し終わっていた。

 そうなると銀次はゲームにいなくてこの世界にいる魔獣で条件が当てはまるものがいることを期待するしかなかった。


 翌朝、銀次はトラス武具店へと再び足を向けていた。

 もちろんクレームをつけるためではない。

「いらっしゃいませ」

「おはよう。ライド」

「今日はどういったご用件で?」

「うん。実はまた作って欲しい物が出来てね」

 銀次が再びこの店を訪れたのは昨日思いついた装備を作ってもらうためだ。

 銀次からの説明をうけてライドは驚きと困惑が入り交じった顔になる。

「それはまた変わった物を注文しますね」

「思いついたら欲しくなってね」

 銀次が新たに注文した装備はスパイクだった。

 それも今履いているブーツを改造してもらうのではなくカンジキのように外付け出来る形で注文したのだ。

 なぜそのような物を注文したのかといえば理由は簡単。最近のラノベで流行っているような気がしたからだ。

 それに加えてつま先に鉋や彫刻刀のような刃を着けたブーツを履くのは厨二的にかっこいいと思ったのだ。

 注文をうけたライドも最初は困惑していたが、すぐに新たな客層の開拓になると気づき乗り気で注文をうける。

「なにぶん初めて作る物なので今回も7日ほど時間をいただけますか?」

「わかりました」

 注文に対する返事を聞いた銀次は答えに満足したような足取りで店から出て行く。

 店を出た銀次は城門の外には行かずにギルドのほうへと向かっていく。

 今日は狩りは行わずにギルドの奥にある訓練場を訪れて一日中訓練をするつもりだ。


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