第6話 冒険者生活はじまる
首都フォーラを訪れて冒険者になった翌日、銀次は朝早くからギルドに訪れて仕事を始めることにした。
仕事の受注のしかたはクエストボードに張り出されている依頼書をはがして受付に持って行くだけでよかった。
依頼内容には難易度によってランク別けされていたが、何を受けるかは自己責任になっているので、冒険者ランクが最下位の人間でも最上位の仕事を受けようと思えば出来るが、そうなると失敗した時のペナルティも相当なものになることは覚悟しなければならないだろう。
もちろん銀次はいくらファングという強力な手札があるからといって、そんな無謀なことをする気はなかった。
討伐系の依頼が張り出している所にはいかず町でのお手伝いを主とした雑事系の仕事をやりはじめるつもりでいたのだ。
なぜそのような選択をしたのかといえば、防具がまだ完成していないからだった。
注文をした時に出来上がるまで7日ぐらい時間がかかると言っていたので、ここは野外での仕事はあえてせず無難に町の中で出来る仕事をはじめることにしたのだ。
それに仲良くしてもらっていたノブおじさんが言っていた異世界転移・転生の心得にも「冒険をはじめる前に装備を整えろ」というのがあったのを銀次は思い出していた。
「これをお願いします」
ギルドはいつも朝と夕方が一番人が多い時間なので受付はどこも行列ができている。
その中でも比較的すいている列に並んで待ち、順番が回って来たら受付に依頼書を渡す。
今日の受付は年配の男性だった。
「8番港の荷下ろしだね。場所はわかるかね?」
「昨日町についたばかりなのでなんとも」
受付のおじさんに尋ねられて土地勘がないことを銀次は正直にはなした。
それを聞いた受付のおじさんも簡単な地図を書いて渡してくれた。
「ありがとうございます」
銀次は依頼書ともらった地図を持って目的地へと向かう事にした。
大河に寄り添って作られたフォーラの町には河岸に大掛かりな港が作られていいる。
この港には東の港町グーテルと西の鉱山町ベンドを行き来する船が寄港し、荷下ろしや補給などを行っている。
銀次が元の世界でプレイしていたMFWでもこの大河と城塞都市の並んだ地形には見覚えがあったが、そっくり同じという訳ではなかった。
ゲームの中では城塞都市は物々しい軍事要塞だったし港もいかつい軍艦が何席も停泊する立派な軍港だった。
あのゲームで銀次は要塞を攻略する渡河作戦を何度も行っていた。
もっとも今は夢あふれるファンタジー世界にいるので、あの時のような硝煙の臭いのようなものはここにはないのだが。
「すいません。冒険者ギルドから来ました」
所定の港についた銀次は港内で働き始めていた従業員に話しかけて担当の人間がどこにいるのか聞いてみた。
その結果、目の前に停泊している大きな帆船のそばで陣頭指揮をしているということを教えてもらった。
船に近づいて行くと片手に書類を持った壮年の男性が何人かの作業員に指示を出している姿が見えて来た。
近づいて話しかけると予想通り現場の監督官だったのでギルドの依頼で来た事を告げた。
「そんな細い体で大丈夫かボウズ?」
銀次の姿を一目見た監督官が不安そうな顔をする。
銀次の身長は170センチで中肉中背の基本的な日本人の体型をしていた。
それに比べて銀次が見た限りのこの世界の住人は欧米人並みの大柄な体系をしていた。
そんな訳で銀次の見た目がいくらか頼りなく感じるのは仕方のないことだった。
「大丈夫です。実はオレ、ゴーレムを持っているのでそれを使ってもいいですか?」
「ゴーレム?ボウズ、おまえ魔法使いか?」
「違います。でもちょっとした幸運でゴーレムを手に入れることができたんです」
1000年前に技術革新があったとはいえゴーレムなどと言う物はなかな個人で持てるものではなかった。
持てるのはせいぜい一部の金持ちか優れた力を持つ錬金術師や魔法使いだけだった。
その証拠にこの港で仕事をしているのは生身の人間だけだった。
半分もの珍しさから許可をもらえた銀次はとりあえず充分な広さのある物陰にかくれてゴーレムということにしているMFを呼び出すことにした。
「ディガー!」
町に入る時はMFがなるべく一目につかないようにしていたが、冒険者になったからにはそんなことは気にせず思う存分使うつもりだ。
呼び出したのはメインで使っているファングではなく機体のランクが一番低いディガーだった。
あえてディガーを選んだのは兵器というより重機に見えるこの機体のほうがこの場によく似合うということと、まだファングを出す時ではないとい彼なりの自重からだった。
はたから見ていると意味がなさそうに感じることがあるかもしれないが。
勢いよくコックピットの座席についた銀次はメモリーカードをスロットに差し込み暗証番号を入力してからディガーを起動させる。
設定ではディーゼルエンジンで動いていることになっているのでディーゼルと思われるエンジン音を響かせてディガーはゆっくりと動きだし物陰から衆目の元へと姿を現した。
「親方。これがオレのゴーレムです」
外部スピーカーのスイッチを入れて、その場にいるすべての人間に伝わるように銀次は宣言する。
「おう!すげえじゃねいか。そいつでしっかり励んでくれよボウズ」
重厚感のあるその姿に一瞬度肝を抜かれたが、すぐに気を取りなおして精進するように告げる。
その言葉を受けて銀次はディガーを荷物の前に移動させて慎重に操作して掴んだ。
このように物を手で掴んで運ぶということをゲームのミッションではやったことがなかったので最初は握りつぶさないよう冷や汗ものだったが、トッププレイヤーとしての腕前か次第に馴れていき1時間もしない内に器用にこなすようになっていた。
そうなって来ると銀次の独壇場といった雰囲気で、鈍重に見える動きをしながら圧倒的パワーで瞬く間に仕事を片付けていった。
おかげで大人が数人がかりで一日中かかる量の仕事が昼飯前にはほとんど片付いてしまっていた。
「すげえな」
縦横無尽な活躍ぶりに現場監督は感嘆の声をもらす。
周りの人間も普段見る機会が無いのも相まって、ゴーレムの力強い活躍に魅入ってしまった。
「親方。次は何をしましょうか?」
銀次にそう聞かれて現場監督ははっとなって周りを見回す。
船から搬出された荷物はすべて所定の位置に納まっていた。
「ああ、そうだな……」
しばらく考えてみたが今日のノルマが終わってしまったのでやることはなさそうだった。
「野郎ども今日はあがりだ!」
次の作業をするにも現場監督の書類作業が終わってからでないとできないので、今日はここまでとすることにした。
その言葉を聞いて周りの従業員たちは喜びの声をあげる。
雑談しながらお互い今夜の予定を話し合っている。
「ボウズ、お前もこっちきな」
現場監督の周りには銀次と同じようにギルドからきた冒険者たちが集まっていた。
彼らは仕事が無事に終了したことを証明してもらうために、依頼書に依頼主のサインを入れてもらわなければならないのだ。
銀次もそれにならうためにディガーから出ようとした。
「魔獣だ、魔獣が出た!」
どこからともなく魔獣の襲撃を知らせる叫びがあがる。
見ると停泊している船の両端から一匹づつ、合わせて二匹の魔獣が浮上してきた。
向かって右側からは牛よりも大きい赤と黄色の極彩色に彩られたカエルの魔獣ポイズントード。
左から現れたのはそれと遜色のない大きさを誇るオオサンショウウオの魔獣ハンザギだ。
実はこのグランデル河には大小様々な水棲魔獣が数多く潜んでいる。
そのため港や航行中の船が魔物に襲われることが何度もあった。
それでも多くの船がここを訪れるのはせれなりの利益があるからだ。
そしてまた今日も魔獣が港に上陸し、荷物や人を襲おうとしていた。
「さがってくれ!」
襲撃の叫び声を聞いた銀次は咄嗟に判断して右側のポイズントードへと機体を向けた。
バシュッ ズドーン
機体に取り付けられていたロケット砲が火を吹きあっというまにポイズントードの頭を爆砕した。
銀次はたかが荷物はこびと油断せずディガーにきちんと武装させていた。
ディガーに装備させている武器は機体上部に三連ロケット砲が二つと、肩と腰に一丁ずつ計四丁の機銃を装備していた。
今、その内の一つであるロケット砲を使って襲って来た魔獣の一匹を倒したのだ。
ランクCの機体を手に入れてから近接戦闘をメインでやってきたので少し不安だったが射撃は見事に当ってくれた。
頭を吹き飛ばされたポイズントードが力尽きるのを確認した銀次は続けてハンザギのほうへと機体をむける。
こちらも同様にロケット砲をお見舞いしてやろうかと思ったが、きちんと武器を携帯してきていた冒険者たちが群がって攻撃していた。
この状況で飛び道具を使うと他の冒険者に当ってしまいそうだったので、ある程度近寄って様子をうかがうことにした。
見たところ5人ほどの冒険者が剣や槍で果敢に挑んでいるが苦戦してるのは明白だった。
ポイズントードとハンザギはMFWではランクEという最低ランクの強さのモンスターだった。
だがそれはMFという巨大な戦闘兵器に乗り込んでの基準だ。
MFなしでこれらの魔獣に挑めと言われたら銀次は躊躇していたことだろう。
「ぎゃっ!」
「うわっ!」
ハンザギが全身を鞭のようにしならせてから尻尾を振り回す。
この一撃で周りに取り付いていた冒険者達が一斉に弾き飛ばされた。
そのため体を地面に叩き付けられて気を失ってしまった者もいた。
だがその大きな一撃が銀次にとっては絶好の機会を作っていた。
「今だ!」
地面を力強く踏み出して、右のストレートを魔獣の脳天へと叩き込む。
ディガーの右手は冒険者達が激闘を交えていた間に、三本指のマニュピレータからごっつい鉄球へと装備を変更していた。
もちろん斧や棍棒といった近接武器もあったが、銀次はこうゆう無骨なデザインのロボットの白兵戦は武器をもってのチャンバラよりも拳を使った泥臭い殴り合いのほうがかっこいいと思っていた。
ドグシャ
強烈な鉄拳の一撃を受けたハンザギが頭蓋骨を陥没させて絶命した。
その瞬間、まわりからドット歓声が上がる。
ハンザギが動き出さないことを確認した銀次は緊張をといて肩の力を抜く。
気が抜けたことでちょっとした後悔の念が浮かんできた。
こんな所でロケット砲を使ったのはまずかったのではないのかと。
周りに被害を出さずに早急に事態を解決するために咄嗟に飛び道具を使ったが、もし躱されるなりして外れていたら被害は甚大なものになっていたのではないかと。
自分がゲームではなく現実の世界にいることを改めて思い出し、冷や汗が出てしまった。
そんなことを考えていて頭の中が平静でいられなかったが、結果オーライとやや現実逃避ぎみに納得して冷静になる。
気がつけばディガーの周りに人が集まってきていたので銀次は機体から降りる事にした。
下に降りた銀次は手荒い歓迎と惨事を送られる。
「おまえ凄いな!」
真っ先に出迎えた体格のいい好青年が銀次の肩を叩いて賞賛する。
彼は先ほどまでハンザギと戦っていた冒険者の一人だ。
「オレはガウニーって言うんだ。まだ冒険者になりたてのランクFだ」
「オレは銀次。君と同じランクFの冒険者だ」
「ランクF!ポイズントードとハンザギをあっという間に倒したのにランクFなのか!?」
ガウニーと名乗った新米冒険者は銀次の手際とランクの差に大いに驚いた。
「オレが強いのはこいつのおかげだ。こいつがなければ大した事無いよ」
そう言って銀次はディガーの足を軽く叩く。
「それでも魔獣を倒したのはおまえなんだ。たいしたもんだぜ」
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ」
素直に褒めてくれるガウニーと握手をしてから、銀次は現場監督に依頼書に依頼終了のサインをしてもらった。
ギルドからの仕事が一区切りついたので獲物の分け前の分配である。
倒した魔獣は解体して素材として持っていけばギルドが買い取ってくれるのだ。
ポイズントードは銀次一人で倒したから丸々銀次のものであるが、ハンザギの討伐は倒したのは銀次だがガウニー達5人の冒険者も参戦していたので皆で分け合うことにした。
もしかしたら強気で主張すれば両方自分の取り分とすることもできたかもしれないが、そのようなことはせず山分けすることを銀次は選んだ。
なぜならそのようなことでしこりを残して今後の冒険者活動に支障がおこると困るからだ。
ノブおじさんの異世界転移・転生の心得にも「冒険者は横のつながりが大事だ」と言っていたはずである。
談合が終わったので二匹の魔獣の死体を適当な広さの広場まで持っていき皆で協力して解体することにした。
銀次のアイテムボックスに収納すれば解体のコマンドで一瞬で終わる事だが、ここは一期一会を大事にして手作業で解体することにした。
もちろん銀次はディガーに搭乗して参加したが。
「いやあギンジのゴーレムのおかげで解体が早く終わったよ」
肉、骨、皮と見事に解体された魔獣だった物の前でガウニーが感嘆の声をあげる。
彼をはじめとする5人の冒険者とディガーは血まみれになっていた。
何も知らない人間がこの場を見たら卒倒してしまうだろう。
「後はこいつを運ぶだけだな」
輸送手段の検討に入るが、皆は銀次のディガーに期待に満ちた視線を送る。
銀次も周りの視線が意味するものは気づいていた。
適当な荷台に乗せてディガーで運び出すという方法が思い浮かんだし、周りもそれを期待しているのだろう。
だが、それはあえて却下し、銀次にとっては思いきった方法をとることにする。
「すまないがギンジ……」
ガウニーが皆の気持ちを代弁するように話しかけようとしたところでディガーのコックピットが開いて銀次が降りて来た。
「これらの素材を運ぶのはオレに任せてくれないか?」
わざわざディガーから降りてガウニー達にそう告げる。
「そうかありがとう」
お礼を言った後に感謝して肩を叩こうとするが、先ほどまでの解体作業で血だらけになっていたので思いとどまった。
「実はオレ、アイテムボックスを持っているんだ」
その一言にさらに皆が驚いた顔をする。
ゴーレムだけでなく冒険者が最も欲する物の一つであるアイテムボックスまで持っていると告げられたのだ驚かずにはいられないだろう。
「アイテムボックスに入れてギルドまで持っていこうと思う。あと、できればオレがアイテムボックスを持っているのはあまり周りには話さないでくれると助かる」
銀次がガウニー達にアイテムボックスの話しをしたのは重い荷物を運ぶのに楽をしたいからというものではなく、町の中でディガーを歩かせるのは交通の邪魔になるだろうなということと、魔獣の解体をしている時のガウニーの態度を見ていてとても好感のもてるものだと思ったからだ。
横柄な態度で偉ぶることなく周りに気を配る姿は見た目通りの好青年だった。
「うん、そうだなこんなすごいゴーレムを持っているだけでなくアイテムボックスまで持っていることが知れたらよくない奴にからまれそうだな」
銀次が危惧していることをガウニーはすぐに理解し約束してくれた。
いつまでも隠しとおせることではないが不必要に周りにペラペラしゃべってしまうと無用なトラブルを招きかねない。必要な時が来るまでは伏せておくべきだろう。
ガウニー達がこちらの考えに同意してくれたので銀次は手早く解体した素材を収納した。
その後、血脂で汚れたガウニー達を洗うためディガーで汲んで来た樽の水を皆にぶっかけた。
ギルドに併設されている酒場で銀次はガウニー達5人の冒険者と一緒にちょっと遅めの昼食をとっていた。
港の仕事が終わったのが昼飯時を少し回った辺り。
そのすぐ後に魔獣が現れたのだ。
魔獣自体は瞬殺されたが、その後の解体作業で時間をとられた。
やはり二匹同時の解体作業は骨が折れるというものだ。
港の仕事に付け加えて魔獣の素材という臨時収入が入ったので少しだけ昼飯を奮発することにした。
その時ガウニーが銀次を誘ったので彼も同じ食事の席につくことにしたのだ。
誘った時間が外もまだ明るい内だったのでさすがに飲めや歌えやの大宴会はやらなかった。
皆で団欒としているうちにガウニーが自分達の身の上を話してくれた。
彼らはこの町で暮らす農家の三男坊、四男坊の集まりで幼い頃から悪ガキとして近所で名をはせていた。
そんなわんぱくな幼少時代を過ごしてきた彼らが成長して冒険者になるのは自然な成り行きだったのだろう。
だからガキ大将だったガウニーが冒険者になると言い出すと残りの四人も追従したのだ。
こうして家族の誰にも反対されることもなく彼らは10日ほど前から冒険者家業をはじめたのだ。
そういったいきさつを聞いたので今度は銀次のことも簡単に説明した。
もっとも馬鹿正直に異世界から来たなどと言えば頭がおかしいと思われるので虚無の砂漠にあるレシュト村の出身で、ゴーレムやアイテムボックスは砂漠で採取をしている最中に偶然見つけたと言っておいた。
「ガキの頃から畑を荒らすスグヴェンダーやジャッカローブを追い回していたから冒険者なんて軽いもんだと思っていたんだがな」
「そうだなまさかランクが一つ上がっただけであんなに強くなるなんて」
「まったくだ」
今日戦ったハンザギとの戦いで苦戦を強いられたことに皆意気消沈した様子を見せる。
彼らのこの10日ばかりの活動は畑や農場を荒らすスグヴェンダー、ジャッカローブ、ゴブリンといったランクFの魔物ばかりを狩っていた。
今の彼らの実力ではその程度の相手ではすぐに役不足になってしまった。
それならもっとランクの高い魔物を狩ろうかと思ったが、その前に雑事系の仕事も経験してみようと思い、今日あの港で仕事をしていたのである。
「ギンジはこれからも一人で冒険者をするのか?」
「うん。そうだな。しばらくはそのつもりだ」
料理もあらかたたいらげたところでガウニーがそう尋ねる。
銀次も聞かれて肯定した。
「それは残念だ。できればオレ達のパーティーメンバーになってほしかったんだがな」
「すまないな」
実力のある人材を仲間にしたいと思うのは当然なことだ。それも銀次のように規格外の力を持っているのならなおさらだろう。
だがガウニー達は銀次の意志を尊重して無理な勧誘はしなかった。
「それじゃこれでお開きにするか」
そう言ってガウニーが立ち上がると全員がそれにならった。
「今日は助かったぜ。ありがとう」
「なに、こちらこそ」
「いつか一緒に冒険がしたいもんだな」
「それなら一人で受けられない仕事があったら協力してくれるか?」
「もちろんだ!」
それから一人一人と握手して銀次はガウニー達と別れた。
もう一仕事やるにはなんだか時間が中途半端だったので銀次はそのまま宿へと帰ることとした。
宿屋に戻った銀次はベッドに寝転がって考え事をしていた。
これから自分は冒険者として何をなすのかについて。
「定番だと家と奴隷を買うんだよな」
そんな言葉がぽろりとこぼれる。
もちろんこの世界にも奴隷制度はあった。
最初に銀次がいたレシュト村では見かけなかったが、都市部の富裕層では奴隷を買って家事などしているし、冒険者の中にはパーティーメンバーとして奴隷を買い入れる者もいるようだ。
なので最初の目標は家と可愛い奴隷を手に入ることにすることでいいのだろうと思った。
後は一番気になることといえば世界の危機だろう。
自分が賢者パルパラスの造った奇跡の魔法陣によってこの世界に呼び出されたかもしれないということ。
その奇跡の魔法陣の発動条件が世界の危機だということは、今この世界に危機が訪れようとしていることは予想できた。
「やっぱり魔王が現れるのかな?」
銀次にはファンタジー世界の世界の危機というと魔王の襲来しか思いつかなかった。
しかしパルパラスがいなくなって以降もポツポツと魔王は現れているということはロミルから教えてもらっていた。
そのたびに奇跡の魔法陣が発動したかどうかは謎だが。
だが自分は勇者として呼び出されたという思いが銀次には少なからずあるので自分が進むべき道は勇者であろうと密かに心に誓うのだった。