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序章

 容赦なく照りつける陽光の下には一面の砂漠が広がっていた。

 生命の息吹など微塵も感じない砂の海は、いかなる者も存在することを許されず静寂だけが支配しているかのように見えた。

 だが、それは違った。

 よく見ると広大な砂漠の上を砂塵を巻き上げ突き進む者がいる。

 そこにいるのは白い鎧に身に包んだ騎士とも呼べるもの。それが低空を鳥よりも早く、一陣の疾風となって飛び続けていた。

 いや、それは騎士ではなかった。それは鋼で出来た巨人。ロボットであった。

 《メタル フレーム》略してMF。そのように呼称されるロボットであり、戦うために作られた兵器であった。

 白いMFを飛行させていたのは背中にあるウイングバーニアと呼ばれる飛行ユニットだ。このジェット戦闘機のコックピットを切り離したような形をしたものが、巨人を早く、低く飛ばせていた。

 巨人が突き進む方向には何も無いものと思われていたが、地平線の彼方から何かが見えて来た。

 それは山だ。巨大な岩山が天を貫かんと高々とそびえ立っていた。

 どうやら白いMFの向かう先は、その岩山のようであった。

 みるみる内に近づいてくる岩山が巨人の身長の倍以上に見え始めた頃、岩山の向こうの地平線から何かが近づいて来るのが見えてきた。

 こちらに近づいてくる何かは、人の姿をしているように見えた。そして、こちらと同様に低空で飛行しているのもみてとれた。

 さらにお互いの距離が縮んでいくと、遠方の人影から光の瞬きが見えた。


 ガガガガガッ!


 銃声と思える轟音が鳴り響くが、それよりも一瞬早く、白いMFが機体を右へと滑らせる。それに続いて、今まで白いMFがいた空間を無数の銃弾が通り過ぎていく。

 突然こちらに攻撃を仕掛けてきた謎の人影。その正体は鋼の巨体を誇るロボット。白いMFと同じ《メタル フレーム》だ。

 白いMFを攻撃したMFは全身を真紅に染め上げ、額には一角獣を思わせる雄々しい角が飾られていた。

 さらに手にはアサルトライフルを持っており、これが先ほど白いMFを攻撃した武器であった。

 他に装備している武器には、両脚にミサイルポッドを装着し、背中には迫撃砲を2門装備していた。そして、足元にはエイのような姿をしたものがあり、この上に立つ事により真紅のMFは砂漠の上を飛行する事ができているのだ。

 これはスティングレイボードという飛行ユニットである。直線の加速力にはウイングバーニアには劣るものの、小回り良さには定評な装備であった。

 対する白いMFの装備は、腰にチェーンソーが一本づつ。両腕には盾を装着しており、ウイングバーニアの翼、戦闘機ならミサイルが着いているはずの所に先端が杭のようになっている槍が装備されていた。

 この機体にはどう見ても射撃武器と言える物は着いていなかった。完全な白兵戦仕様に特化された機体のようだ。

 真紅のMFは手にしたアサルトライフルを白い巨人に向かって容赦なく撃ち続けている。

 白いMFは、相手を周回しながら銃弾の雨を躱しつつ、じわじわと真紅のMFに近づいていく。

 射撃武器のない機体では反撃することもできず、攻撃を躱しながら辛抱強く間合いを詰めていくしかない。

 真紅のMFも武装が射撃武器が主要なので弾幕をはって近づかせないようにしていた。

 ある程度間合いが縮まった所で白いMFが仕掛けた。

 両腕を前に出してガードの姿勢をとり、一気に加速して急速に距離を縮めてくる。

 真っ正面から近づいてくる、その姿は相手から見ればいい的だが、両腕の盾がアサルトライフルの弾丸を弾き、必殺の間合いまであと一歩という所まで機体を滑らせていく。


 ズドン


 アサルトライフルとは違う轟音。それは真紅のMFが背中の迫撃砲を至近距離で発射していた。

 必殺の一撃を撃ち込むはずが逆に相手から必殺の攻撃を許してしまった。どう見ても致命的な一撃が白いMFに襲いかかるが、間一髪のところでこれを躱す。

 無茶な体勢から無茶な回避。普通なら中に乗っている人間には相当な負荷がかかるだろうが、そんなものは感じさせずに相手に取り付く。

 

 ドシュッ


白いMFが脇腹に拳を打ち込む。いや、打ち込まれたのは拳ではなく、盾の裏側に隠された武器。パイルバンカーの杭が機体を深く貫く。

 それと同時に躱された砲弾がまっさらな砂漠の砂地に着弾し、激しく爆裂する。

 それが引き金となって戦場にとてつもないに変化が訪れる。

 何も無い砂地の上にいくつもの盛り上がりができる。だが、それは盛り上がるには留まらず勢い余って何かが飛出して来る。

 現れたのはとてつもなく長く太い生き物。

 鎌首をもたげたその顔は、目と鼻といったものはなく、チューブ状になっており中には幾重もの歯が並んでいるのが見て取れる。

 これこそは砂漠に住まう肉食巨大ミミズ。サンドワームである。

 彼らはサンドワームの巣窟で激しい戦闘を繰り広げていたのだ。

 砂の中で眠っていたサンドワームが、今の砲撃の爆音で目を覚まし、目の前にいる2体のMFを餌だと思い込み、今まさに襲いかからんとしていた。

 腹をパイルバンカーで貫かれた真紅のMFが乱暴に白いMFを振り払う。

 今の一撃で大きな痛手を受けたと思われるが、それでもとりあえずは動いている。

 振り払われた白いMFは突き刺さったパイルバンカーを切り離し。距離をとってサンドワームが暴れ回る中を急上昇していく。

 パイルバンカーは強力だが一度しか使えないため、使った後は捨て置くのだ。

 真紅のMFが周りで暴れているサンドワームに注意しながら、白いMFに攻撃を激しく行っていた。

 ある程度上空まで飛び上がった白いMFが今度は急降下してくる。太陽を背に。襲い来るサンドワームを縫うようにして。

 真紅のMFが脚に装備されたミサイルを発射した。

 白いMFは迫り来るミサイルに対し、ウイングバーニアの出力を上げ脇腹に装備された小型のジェットエンジンを噴射させて、さらなる加速をしてすり抜ける。

 左腕の盾でライフルの銃撃を防ぎ、迫撃砲とサンドワームの攻撃は紙一重で躱しながら、翼に取り付けられた槍を手に取り猛烈な一撃を相手に向かって打ち込む。

 真紅のMFはパイルバンカーに続く強烈な攻撃を間一髪で躱す。躱すが足場としていたスティングレイボードにその攻撃を食らった。

 ものすごい勢いで貫かれたとはいえ槍で一突きされただけでスティングレイボードは爆破炎上し、上に乗っていた真紅のMFも砂漠の上にその機体を投げ出された。

 白いMFが突き出した槍はただの槍ではない。これはエクスプロージョンスピアという武器で、先端の杭に爆薬が内蔵されており、槍が突き刺さると同時に中の爆薬が起爆して大爆発するという強力だが一度しか使えない使い捨て武器である。

 爆風で投げ出されて転倒した真紅のMFは急いで上体をおこして銃を乱射し、ろくに狙いもつけずに迫撃砲を発射する。

 爆風で巻き上げられた砂塵が治まると、そいこには先ほどの乱雑な攻撃の巻き沿いを喰ったのか、頭部の爆ぜたサンドワームが一匹のたうち回っていた。

 敵の姿が見えないことに焦燥感を募らせながらも左右を見渡す真紅のMF。慎重な動きで立ち上がろうとしたとき背中から衝撃をかんじた。

 

 ザシュッ


 慌てて振り向くと背中の迫撃砲が宙を舞うのが見て取れた。

 背後からの襲撃者に反撃しようと試みるが、アサルトライフルから銃弾が発射されるよりも早く両腕が切り飛ばされた。

 真紅のMFを背後から襲い、両腕まで切り飛ばした相手は当然ながら彼が相対していた白いMFだ。

 両手に持っていたチェーンソーの回転刃が真紅のMFの迫撃砲と両腕を切り捨てたことを物語っていた。

 背後から回り込んで相手の主要武器を無効化した白いMFはチェーンソーを捨て、盾の裏に隠していた別の武器を取り出し止めを刺さんと襲いかかる。

 だが、真紅のMFもこのままま終わるのをよしとせず最後の反撃を試みる。

 それは角だ。天に突き出す雄々しき角が赤熱化し、ヒートソードとなって襲いかかる。


 ガン


 だがそれは虚しくも失敗に終わる。

 白いMFが手にしたハンマーが、必殺の威力を伴った角の根元に叩き込まれる。

 そして真紅のMFの頭部が爆発し、折れた角が宙を舞い砂漠の砂に突き刺さる。

 ハンマーで殴られただけで爆発するほどMFの機体は脆くはない。これはハンマーのほうに秘密があるのだ。

 この武器の名はエクスプロージョンハンマー。スティングレイボードを破壊したエクスプロージョンスピアと同じコンセプトで作られた使い捨ての必殺武器だ。

 右手の使い終わったエクスプロージョンハンマーを捨て、左手のエクスプロージョンハンマーを胸に打ち込み胸部装甲を破壊する。

 さらに相手を蹴り倒してから上昇し、もう一つ残っていたエクスプロージョンスピアを落下の勢いを乗せてひしゃげた胸部に突き刺した。


 ズドン


 深々と突き刺さったエクスプロージョンスピアが爆発し、真紅の機体を四散させて戦いは白いMFの勝利におわった。

 コックピットに座ったパイロットが心地よい披露の後に一息つくと、正面のモニターから大きな文字が表示される。


 YOU WIN


 続けて獲得したポイントとパーツが表示される。

 そして、今正面モニターに写っているのは荒涼とした砂漠の景色ではなく、第三者視点から見た今までの戦闘のリプレイ画面だった。

 そう、今まで行われていた手に汗握る戦闘は血なまぐさい殺し合いではなく、ゲームの対戦だったのだ。


 《Metal Frame War》略してMFW。それがこのゲームの名前だ。

 内容はコックピット型の筐体に乗り込んで行うロボット対戦のアクションシューティングゲームだ。

 ここはVRMMOはまだできていないが、体感型のゲーム筐体の技術が上がった、今より少し未来のゲームセンターである。

 今の激戦を制したのは高校生の男児で名前は加山 銀次。中肉中背で身長は170センチぐらい。鋭い目つきをしている所から不良と勘違いされることもたまに在る、いたって普通の高校2年生である。

 彼はこのゲームが導入された3年前からゲームをやり込んでいる古参のプレイヤーであり、トップの実力を持つプレイヤーでもあるのだ。

 銀次がはまっているMFWはPvCとPvPから選択されたミッションをクリアーしてパーツやポイントを獲得して、それを使って自分の理想の機体を作りあげていくというゲームだ。

 さらに他のロボットゲームと違う点に、PvCでモンスターと戦うことができるのである。

 先ほどの砂漠のサンドワームに限らず、オークにトロールにドラゴン。さらには鵺やテナガアシナガ、海坊主とまで戦うことができるのだ。

 もちろん倒した後には素材が手に入る。手に入れた素材はどうするのかというとパーツと合成することができるようになっているのだ。

 合成されることによってパーツの性能が上がり特別なスキルがつく。だが、必ずしもうまくいくとは限らない。

 組み合わせによっては性能が下がり、せっかく取得したスキルが消えてしまうこともありうるのだ。

 そこがこのゲームを奥深く飽きさせないようにしている要因なのである。

 当然、銀次の愛機の白いMF、ファングも最高ランクのパーツに凶悪なモンスターの素材を合成し、自分がかっこいいと思える最強の機体を作りあげていた。

 そう、彼は効率ではなく浪漫派でトッププレイヤーになった男なのである。

 

 ゲームの終わった銀次は筐体から出る準備をする。

 インカムをはずして脇にあるフックにかけた後、シートベルトをはずそうとした時、異変がおこった。


 カタカタカタ


 最初は小さな揺れだった。それがだんだん大きくなっていき激しい振動えと変わった。

 「地震だ!」

 思わず叫んだ。叫びたくなるほどの大きな揺れだ。

 地震は治まる様子を一向に見せることなく、むしろ激しくなるばかりだ。

 両腕を壁に突っ張らせて地震の揺れに耐える。この場合シートベルトをはずさなかったことは不幸中の幸いなのだろうか。

 何かが崩れたり倒れたりする音と、施設内にいる人達の悲鳴や驚きの声が自分のいる筐体の中にまで響いてくる。

 ゲームをプレイしている時には体感することのない、ひっくり返るような衝撃に揺すぶられて銀次は気を失った。


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