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強烈なモノを見せられたせいか、頭が少しクラクラする。
隼人は、視界が二重になっていくのを感じた。
しかし、何かがおかしい、普通なら二重になった視界のどちらとも同じ画でなければならないハズだ。しかし、二重の視界はどちらもと、違う画を描いているのだ。
しかも、両方の視界が、徐々にはっきりと視え始め、どんどん独立していく。
二つの視界が、くっきりと見えるときには、お互い視界として、完全に独立していた。
二画面のように見えるとか、そんな生易しいモノじゃない。どちらの視界も、互いに干渉する事もなく、脳内にふたつの視界が、展開しているのだ。
片方は、多分本来の視界であろう、下から変形したクレスタを見上げる画。そして、もう片方は、少し画に劣化を感じる、こちらを見てる、黒髪短髪の切れ目の少年を見下ろしている画。
ただでさえ、脳内にふたつの視界があり、不思議な感覚なのに、更に、自分を見下ろす第三者の視点というのは、不思議な気分だ。
『同調率37.46% この距離とはいえ、始めてにしては、でき過ぎた値ね。流石、相性がいいと、直感しただけはあるわ』
どういう訳か、きゅう子の声が、脳内に響いてくる。
「これは一体?」
『あっ、別に同調率が24%を超えると、喋ろうと思えば、いちいち口に出さなくても喋れるよ』
相変わらず、きゅう子は、普通に意味の分からない事を話してくる。
『いやさ、急に同調率とか言われても意味が分からないんだけど』
きゅう子に合わして、脳内で話そうと、意識を向けて思ってみたら、抗議はちゃんと伝わったらしい。
『えっ? そうなの? 外の人と、あまり話した事無かったから、通じないんだ』
とりあえず、脳内で、訳の分からない事を言うのは辞めて欲しい。
『えっ、あっ、ごめん』
えっ!? 伝わってた?
隼人は、ただ、思っただけの事が伝わったのに驚く。
『えっ!? うそ、いつの間にか同調率が、43%超えてる』
『本当に、何なんだ、その同調率って? 何が同調してる?』
『あっ、ごめん。今の伝わっちゃったか。マスターも、テレパシー使えるようになったんだね。その、私達の二人の脳の機能が、どのくらい、シンクロしてるかを、示す率の事』
なるほど、脳がふたつになったから、視界もふたつになっている訳か。
『そうそう、そういうこと』
!?
まただ、また、思っただけで、相手に伝わっている。
『ちなみに、ここまで同調率が上がると、意識しないと、思った事がそのまま相手に伝わるから気をつけてね』
『それをはやく言ってくれ』
『ごめんなさい、けど、もう少し同調率が上がるようだったら、問答無用にお互い考えてる事が伝わっちゃうけどね』
……それって、プライバシーもクソも無いじゃないか。そもそも、根本的に何で同調する必要があるんだよ?
向こうからの反応が無いって事は、思考のシャットアウトに成功したらしい。ただ、後半の一言は、あらためて、きゅう子にテレパシーで伝えなおす。
『だって、脳が二個の方が、処理能力上がるじゃない。それに、私達シーレストの反乱防止のために、地球の人間を通して、リミッターにしてる面もあるけど』
隼人は悟った。会話を成立させるのは、お互いの、価値観と見てる世界が同じでないと、成立しないと。
「だから、急に、シーレストなんて言われても、意味わかんねーよ!!」
いい加減、訳の分からない事を言われ過ぎて、思わず、感情が爆発して、避けんでしまう。
『あれれ、それも説明しないといけないの? うーん、けど、とりあえずそれは、この場を切り抜けてからの方が良さそう』
二人が居る空き地に、赤いスポーツカーが、入って来て、咆哮のようなエンジン音を轟かし、車体を形成している部品が、組み変わっていく。