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機鋼変形 シーレスト  作者: くれた
非日常との出会い。
3/6

1-3

契約をするためには、運転席へ乗らないといけないらしいので、外に出て運転席へ回る。

そときに気がついたのだが、この車、俺がこのトラブルに巻き込まれる前に、気になった車だった。

この車に気になって点滅信号に律儀に止まったから、アレに巻き込まれた。

車種の名前は忘れたのだが、少し古い、トヨタの白いセダン。

死んだ父がが、生前、乗っていた車だ。


「まさか、この車の運転席に座る日が来るなんてな……」


今まで、電波女のせいで気がつかなかったが、久しぶりに見るこの車内は感慨深いモノがある。


「それで、運転席に座ったら何をするの?」


いつの間にか、助手席に乗り込んでいる電波女に指示を待つ。

やっと、マジマジと顔を見たが、やっぱり少女だった。

オークのショートヘアに、ぱっちりとした目に整った鼻と口。初めのやり取りで、電波女というイメージがつかなかったら、一目惚れしそうな程の美少女だ。

多分、運転しているので、18歳くらいだと、思うが、顔の印象的に、15〜16歳くらいにも、見えなくはない。


「とりあえず、マスターの名前を教えて貰っていい?」


「ん? あっ、そうか」


確かに、お互いに名前が分からないとコミニケーションも取り辛いし、いつまでも、この美少女を、電波女呼ばわりする訳にもいかない。なにより、読者もいまだにキャラの名前が分からないと作品に入っていき辛い。


「俺の名前は、隼人。大島隼人だけど、君の名前は?」


「えっ!? わっ、私の名前? ……えと、クレスタ!!」


名前を聞いたただけで、何故か電波女は困ってしまっている。ただ、彼女のセリフで、隼人は頭の中の何かが繋がる。


「クレスタ?それ、名前?……ってか、あ、クレスタって、この車の名前じゃん!!」


思い出した。この車の名前はクレスタだ。


「そうそう。……知ってたんだ。……嬉しい」


そんなに、この車を知ってたのが嬉しいのか、電波女は、顔をまた赤らめる。

本当に、電波女のイメージが無ければ惚れてたと思う。


「それで、名前は?」


「あっ、うん……。えと」


必死に考えている彼女は、本当に困った顔をしている。


「うーん、アレ……。きゅう子!!」


「考えてたし、偽名臭いんだけど?」


しばらく経って出てきた名前も、凄く胡散臭い。本名を言いたく無い、理由でもあるのだろうか?


「お願い、話が進まないから、マスター、そこは突っ込まないで!!」


確かに、とりあえず仮ではあるが、何て呼べばいいか分かった以上、それを追求しても無駄だし、話が進まないので、素直に、電波女改め、きゅう子に次の指示を待つ。


「そしたらね、ハンドルの右下にある、収納から鍵を取り出して、今から言う呪文を唱えて、鍵を、キーシリンダーに、挿し込んで欲しいの」


「車のエンジンが掛かってるのに鍵を挿すって、どういう事?」


「よく見て、エンジン掛かってるけど、キーは挿さって無いから」


確かに確認してみると、エンジンは掛かっているのに、キーは挿さっていない。


「これは、どういう……」


「そういう事」


そんな事言われたって分からない。


「そう、そして、呪文は、こう唱えて欲しいの。『我は欲す、鋼鉄の騎士の力を、我は誓う、鋼鉄の騎士と共に感じる事を。我、隼人の名において、汝の本当の、姿を開放させん!! セーフティ、アンロック』……あっ、ちょ、ちょっと、ドアノブに手をかけないで!!」


どうやら、コイツは、電波な上に、中二病のオタクだったらしい。美少女なのに、勿体無さすぎる。

一瞬、俺の前に、急に現れた非日常に対する好奇心を満たしてくれると思ったが、見当違いだったらしい。

こんなの、全て彼女の妄想だとしか思えない。


「とりあえず、騙されたと思って、鍵だけでも、取り出してみて‼ そしたら、分かるから」


いくら、電波で、中二病で、オタクでも、彼女は美少女だ……。

悲しい事に、あまり女性経験の無い身としては、いくら彼女が、電波で、中二病で、オタクでも、必死にお願いされたら、無下に断れない。

諦めて、ハンドルの右下の収納から鍵を取り出す。


「!?」


鍵を手に取って驚いている俺に、きゅう子は、得意気な顔を見せる。

俺が鍵を手にとった瞬間、鍵の先端に、薄紫色の魔方陣が出現したからだ。


「これは……」


俺の手の中で展開されている非日常は、どんな言葉より、説得力があった。


「ねっ?ホントだったでしょ?」


「あの、あの呪文……、言わないとだめなの?」


たとえ、本当でも、あんな恥かしいモノ、口に出したくない。


「もちろん。覚えきれてないと思うから、この紙見て言ってね」


……用意がいいもんだ。しかし、文書に起こされて見ると、尚更恥ずかしく感じる。

とりあえず、この呪文の流れで、アンロックはおかしいと抗議したが、そうなってるから、仕方ないと、軽くあしらわれてしまった。


「ハァ……、腹を決めるかぁ。……………………」


これも非日常の為だ。


「我は欲す、鋼鉄の騎士の力を、我は誓う、鋼鉄の騎士と共に感じる事を。我、隼人の名において、汝の本当の、姿を開放させん……。セーフティ、アンロック」


呪文を唱えているうちに、鍵の先端の魔方陣が巨大化、五段程に分離し、鍵を覆う。そして、鍵が、キーシリンダーに挿し込まれ、また一段に戻り回転しはじめる。


「新ユーザー、登録完了。以後、メインユーザーとして、認証します。トランスフォーム機構、アンロック完了。キーシリンダーを、回し、トランスフォーマーセルを、起動してください」


無機質な女性の電子音声が、車内に響く。


「あとは、『イグニッション』って叫びながら、普通に自動車のエンジンを掛るように、キーシリンダーを回してくれれば、OKだよ」


相変わらず、コイツは、ハードルが高い事をさらりと言ってくれる。


「叫ばないと、ダメなの?」


「叫ばないと、ちゃんと機能しないんですよ」


「はぁ……。イグニッショォォォォォォン」


叫びながら、隼人はキーを回す。


「ぷっ、だからって、そんなに叫ばなくても。可愛い」


ああああ、このアマ!?

チクショウ。気合が入り過ぎた。

恥ずかしくて顔が真っ赤になりそうだ。


コァコァコァコァアアアア


クレスタは恥ずかしさを吹っ飛ばす程の、今までに聞いた事の無いような、カン高い始動音を響かせる。

そして、アクセルを踏んでいないのに、勝手に獣の咆哮のような空吹かしを始め、車体のいたる所から飛びたした、薄紫色の光の線が魔方陣を形成していく。


「おっおおう。それで、きゅう子さん、次は何するんですか?」


これは、ガチだ、ガチで俺は、非日常の当事者として、足を突っ込んだらしい。


今までに感じた事の無い高揚感に隼人は包まれ、まるで自分が、映画の主人公になった気分だった。


多分、俺はこれを味わいたかったから、あの場でも逃げなかったし、きゅう子の電波にも従ったんだ。


それだけに、次のきゅう子の指示は、強烈だった。


「それじゃあ、車から降りて」


……はっ?


アホ面をしているのは、自分でも分かっている。だが、唖然とし過ぎて、空いた口が塞がらないとは、まさにこの事だ。

ここにきてまさか、降りろと言われるなんて、思ってもみなかった。

というか、普通はここで、これから変形するであろう、この機体を颯爽と駆って敵ロボットをぶっ潰すってのが、セオリーなハズだ。


というか、こんだけ恥ずかしい事を言ったのに、降りろは無いだろ、普通!?


「何ぽけっとしてるの? 乗って操縦したら、もしもの事があったら、キミ死んじゃうでしょ?」


確かに、言われてみたらそれもそうだ。

この若さでまだ、死にたくはない。


二人が車から降りると、クレスタは、無人で勝手に走り出し、スピンターンをかまし、魔方陣を従え、こちらに突っ込んでくる。


こうやって、突っ込んでくるように、見せかけて、変形する……。テンプレだな。


しかし。


ドコッ


「あっ」


生々しい音たてて、車は、容赦無く、きゅう子を跳ね飛ば…………。

いや違う、跳ね飛ばされたは、跳ね飛ばされが、確かにきゅう子は空を飛んでいる。


全裸になって…….。


ただ、残念ながら、うまい具合に、魔方陣を構成している紐が局所を隠している。


「魔装変形!!」


恍惚とした表情で、きゅう子(全裸)が唱えると、クレスタのいたる所から魔法陣が出現し、クレスタのフロントフェンダーとボンネットの隙間が割れ、腕が出現し、トランクの部分が変形し、足を構成していく。


そして、魔方陣を構成していた、紐が、きゅう子(全裸)を覆っていき、羽の付いたブーツを構成し、パニエを構成し、フリフリの白ののドレスを構成しと……まるで、魔法少女を連想される、姿へと変貌させていく。


あまりの、魔法少女っぷりに、変身のBGMが、流れているかのように錯覚させられ……。

いや、流れている。


辞めてくれ、見てる方が恥かしい……。恥かし過ぎる。


隼人は、ハリウッドのDVDを、見ていたら、リモコンに手が当たってしまい、放送中の魔法少女モノと、変形ロボモノが流れているチャンネルに切り替わり、その瞬間に、両親が部屋に入ってきたのに、近い感情を抱いた。


そんな隼人の感情はお構い無しに、

きゅう子は、白い、ゴシック調の魔法少女スタイルに変身し、車は、女性型の、ロボットに変形している。


そして、きゅう子は、すうっと、ロボットの胸に吸い込まれ、その瞬間、ロボットの目に光りが灯る。


「魔装変形少女 クレスタ!! 見参!!」


キメポーズを決めるロボットを見て、隼人は思った。

乗らなくて良かったと。

そして、変形時間、長過ぎじゃね?



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